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作品名:斎藤マリー ストーリー 作者:なおちー

第21回   「ああ、神よ。俺は今も昔も変わらず神の僕。敬虔なクリスチャンです」
12月27日 午後1時半

結果的には、マリーと太盛は和解することに成功した。
太盛は不思議なことに失われた記憶を取り戻したのだ。

それはすなわち、マリーが好きだ好きだと元気に言っていた、
あの頃の(たぶん前作の学園生活・改)彼に戻ったということだ。

「ああ、神よ。俺は今も昔も変わらず神の僕。敬虔なクリスチャンです」

太盛はオケの指揮者(ゲルギエフ)のように力強く両手を天へ向けて掲げた。
そして胸の前でクロスを切る。そこにいるのはボリシェビキではなく、
正真正銘の聖者。ホリ・セマル(当て字)だった。

「まず僕が最初にするべきことは、
僕を刺そうとした犯人へ感謝の言葉を述べることでしょう。
 彼の名前が気になるんだが、君は知っているかい? マリー?」

「いいえ」

首を横に振るマリー。知るわけがない!!

「そっか。じゃあ」

太盛が微笑みながら続ける。

「せめて彼の居場所を教えてくれ。どうせ尋問室にいるんだろう?」

「いいえ」

また否定した!!

「本当に知らないのか?」
「し、知りません…」
「おい。今ちょっと間が空いたぞ。どうせ知ってるんだろ?」
「い、いいえ」

気が付いたらマリーの顎もカイジのように角ばってしまっている。
太盛は、マリーの顎の形状から嘘をついているのを見破った。

「に、日本は」
「?」
「第五セットまで戦った末に僅差でイタリア代表に負けました」
「はぁ…?」

太盛はスマホを取り出し、ニュースサイトを調べる。
確かに、日本のバレーボール女子代表はイタリアに敗北している。
マリーの情報に誤りはない。
だが、問題は誰も女子バレーの話などしていないことだ。
太盛自身も女子バレーに興味は全くなかった。

「イタリア戦は先発でしたが、前回のセルビア戦でも
途中で新鍋理沙が投入されてから日本の守備は安定。
 世界レベルのサーブレシーブ、クロスのスパイクが光ります。
 攻守両面において彼女のレシーブ力は際立っています。
 彼女が日本の勝利に重要な選手であることは明らかです」

「そうか。君がそのシンナベという名前の人のファンなのは分かった。
 あいにく俺はバレーを見てる暇なんかなかったんだよ。夜勤だからね」

「イタリア戦の敗因を分析するとですね」

「まだ続けるつもりか。マリーは人の話を聞かなくなってしまったね」

「いえ、本当はもっと先輩に伝えたいことがあるんです」

「なんだい?」

「好きです」

時が……止まった気がした。

「先輩のこと、ずっと好きでした。
 収容所のいる時も先輩のことを忘れたことなかったです」

「俺も」

「え?」

「俺もお前のことが好きだ!! マリー!!」

二人はどちらともなく激しく抱擁しあい、
ウガンダ奥地に生息するマウンテンゴリラの親子のように再開を喜び合った。
なぜ再開と表現したのか。その理由は……記憶を取り戻した
太盛とマリーが気持ちを通じ合わせるのが、なんとなくそれっぽく感じたからだ。

これにて二人は相思相愛の関係になったわけだから、
この物語の主人公・斎藤マリーは末永く幸せに過ごしたことにして
物語を終わらせることにしたい。

斎藤マリー・ストーリー。完(ハッピーエンド)

「イヤ、ダメダロ」

ウズベキスタン系のソビエト看守が何か言っている。

「ココデ終わらせタラ、ウチキリ感がハンパない。
 太盛の恋愛対象だったエリカやクロエはどうなる?
 マリカの家族は? 冬休み明けに三年生はどうなる?」

実は書くのがめんどくさくなった。

「ちゃんと続きをかけ。さもないと銃殺する」

仕方ないので裏技を発動することにする。
私が会社の仕事中に何となく思い浮かべた、究極の手段である。
おそらくこのような手法で小説を書いた人は過去存在しないだろう。



「私のことを覚えている人がいるでしょうか? マリーです」

まさかのマリー違いだった。
この人物の第一名(ファーストネイム)は『マリー』だが、
家族名がアントワネットである。すなわち、あの超有名な
フランス王妃のマリー・アントワネット嬢(14歳)。ここに見参である。

「私の出番が、こんなところでもらえるなんて思いませんでしたわ」

エガシラ…午後2時55分になにかが起きる、という作品を検索すると、
なおちーという作者に行きつく。つまり私のことなのであるが、
どうやら半年くらい前に書いた作品のようだ。書いたことを
すっかり忘れていたが、そろそろ続きを書く時期になってきている。

というのも、最終の最後の方に、「年内に続編を投稿する」と
書いてあったからである。人間とは不思議なもので、今書いている作品を
完結させるべきなのは十分わかっているのに、
他の作品のことが頭に浮かぶと、すっかりやる気が出なくなってしまう。

「どうせ誰も読んでないのだから、
さっさと終わらせればいいではないですか♪」

そういうわけにもいかない。20代から中高年のための小説投稿サイトは、
他のサイトと違って一つの作品を完結させなければ別作品は投稿できない。
私はここ以外のサイトでは基本的に投稿しないことにしている。
(実際は星空文庫にも投稿してしまった)

「では、どうしてわたくしを登場させたのですか?
 自分で言うのもあれですけど、わたくしのキャラは
学園生活の雰囲気と全く合わないと思いますが?」

例えば本村兄妹は前作の学園・改で登場させたと思う。
自分の作品だからキャラのコラボは自由だ。

いつまでもくらだないことを書いていても読者に飽きられるので、
マリーにはラーメン屋へワープしてもらった。



「ごめんくださぁい」

マリーは、今日も行きつけのラーメン屋にお邪魔した。

彼女はミホとの決闘に負けて以来、強さとは何かを毎日考え続けた。
深い思索。どれだけ考えても答えの出ない、哲学者のような日々。

いつかミホを打ち倒すために過酷なトレーニングを自らに課したが、
何かが足りない。自分には、力だけでない何かが不足している。
その答えはいまだに出ていない。だが、日課の山登りの訓練で
くたくたに疲れた体を癒すために、彼女はラーメンを食べに来ていた。

ちなみにフランス語や英語では RA-メぇン 
『ら』はRで発音するので音が野太い。
向こうではカップヌードルやインスタントラーメンは和食とされている。

「お嬢ちゃん。毎週来てくれるのはうれしいけどよ、
 元フランス王妃がうちみたいな店でいいのかい?
 こんなものしか出せねえけど」

「とんでもありませんわ。店主様。
 わたくしはこのお店の豚骨ラーメンが大好きですの」

欧州一の格式を持つハプスブルク家で生まれ育ったマリーは、
はっきりいって店内で浮きまくった。だがそれも最初のうちだけで、
新手の客はともかく、常連客達はみなアントワネットの王族オーラにもなれてきた。

ここのラーメン屋は、チャーシューが格段にうまい。
アントワネットの豚骨ラーメンは、熱々のスープが脂ぎっていて
見ているだけで胸焼けしそうだが、すごいのはチャーシューが
8枚も乗っていることだ。しかも厚切り。

一方で面は細麺で少し硬めだ。常連の男たちは、麺が見えなくなるまで
紅ショウガやきざみネギをたっぷりと入れてから食べる。

「ふぅ。食べた食べた。もう動けないよ」
「食べ過ぎだよドラえもん。ポケットまでぱんぱんじゃないか」

ドラえもんとのび太が会計を済ませて店を出て行った。
ドラえもんは真冬中に食欲が増すのか、二玉(麺の替え玉)も食べていた。
さらに餃子の皿も空になっている。

(あの青くて丸いお方……何か落としましたわ…)

カランと音を立てて、ドラえもんの四次元ポケットの中から
おもちゃのようなものが落ちた。真四角のテレビリモコン(ブラビア?)
のような形をしていて、赤いスイッチがデカデカと見える。
スイッチは赤い部分しかないようだ。

(ラジコンのリモコンかしら?)

アントワネットはすぐに興味を失ってラーメンと格闘を始めるが、
入り口から一瞬だけ冷たい風が吹いてきた。新しい客が入って来たのだろう。

レ「あぁ、冷える。今日はいつもより冷えるな。同士諸君」
カ「日本の寒さなど、大したことないでしょう。同士レーニン」
ジ「左様。日本では真冬でも、サンクト・ペテルブルクでは秋といったところですかな」
ブ「あっ店主さん。四名だ。テーブル席を頼めるかな?」

やって来たのは、なんとソビエト連邦の大物政治家だった。
誰のセリフか分かりにくいと思ったので
セリフ欄の前に略名を書いておいた。

ウラジーミル・『レーニン』
レフ・『カーメネフ』
グリゴリー・『ジノヴィエフ』
ニコライ・『ブハーリン』

レーニンは初代の人民委員会議議長。地球上のすべての
共産主義者にとってのアイドルにして天才。演説の才能も非凡であった。
株式投資者にとっての桐谷さんのようなものだ。

↑真ん中の二人はあんまり印象に残っていないが、
ブハーリンはソ連きっての切れ者である。

優れた理論家としてレーニンから高く評価されていた。
特に『ある程度の資本の蓄積、資本主義の発展を経てから
計画経済を実施するべきだ。富農の存在は必要悪』
という一環とした主張を守り通した事はまったく素晴らしい。

最終的には、計画経済と富農殲滅(農村からの食糧調達)を急ぐ
スターリンに目を付けられ、粛清されてしまうのだが。

彼の主張はマルクス・エンゲルスの教え通り理にかなっているのだが、
すなわち日本のような資本主義の過渡期にある国家で社会主義革命が
起きたらどうなるか、誰にも想像できないことを示唆しているのだ。

(あのおじさん達、ただ者ではありませんわ…)

マリーは、ロシア帝国政府に何度もシベリア流刑や国外通報されても尚、
革命を成功させた猛者たちの放つ、一流の共産主義者オーラに萎縮した。
目つき、風格、貫禄、ひげの濃さ、体臭など、その辺にいる
日本のおじさんとは「格が違う」

レーニン達がなぜ今の日本にいるのか、それは誰にも分からない。
なにせ書いている私もよく分かっていないのだから。

「あそこに貼ってある女の子は誰だい? すごく可愛いね」

ブハーリンは、店主へ訊いた。
このラーメン屋には美少女の写真が貼ってあった。
笑顔でピース。ひげ面でスキンヘッドの店主と仲良さそうに映っている。

「この女の子はね、今はもうこの世の人じゃないんだ。
 昔は学校帰りによくこのラーメン屋に寄ってくれたんだ。
 はにかんだ笑顔が素敵な、とっても素直な子でね」

「素晴らしい美少女だ。
栃木県の美少女コンテストで優勝できるんじゃないのか」

「へへ。まるで俺のことを褒められているみたいにうれしいよ。
 ところで、お客さん。言い忘れてたが」

店主は、カウンターの下に隠していた短機関銃を構えた。

「この店はね。資本主義者、帝国主義者、軍国主義者は立ち入り禁止なんだ。
 外の張り紙を見なかったわけじゃねえよな?
 お客さん達、政治家っぽい顔をしているけど、どこの国のもんだ?」

「心配するな。同志」

ブハーリンがボリシェビキ党員章を見せると、店主は銃をしまい、謝罪した。

「お客さんもボリシェビキだったとは、うれしいね」
「愚問だね。栃木県を共産化したのは我々なのだよ」
「ほぉ? てことは、お客さん達があの有名な」
「そうだ。革命家だ」

栃木県内に希代のアジテーター、演説家、理論家、革命家がいると
噂にはなっていた。まるでロシア革命が起きたことを昨日のことのように
話す謎の4人組。探せば他にも仲間がいるらしいが、とにかく
彼らが主導となって、この日本の片田舎で共産主義革命が起きていた。

「天国にいる高野ミウちゃんもきっと喜んでいるよ」
「写真の美少女のことか? 高野…ミウちゃんって名前なのか」

ブハーリンは、遠い目をした。
不思議と聞いたことのある気がする名前だからだ。

「あの子はね、徹頭徹尾、正真正銘のボリシェビキだった。
 若い娘であそこまでマルクスの教えを忠実に守ろうとした子はいない。
 とある学園で副会長をやっていたんだが、内部粛清されてしまってね」

「そうか…」

ブハーリンはサングラスを外し、目元をぬぐった。
たったこれだけの話を聞いただけなのに、少女に深く同情してしまったのだ。
彼も前世で内部粛清された身だから、気持ちはよく分かる。

カーメネフが4人分の味噌ラーメンを注文した。
レーニンが最初に味噌を選んだので他の3人も習ったのだ。

レーニンはラーメンの待ち時間が長かったので
席を出歩いてウロウロしていた。

「これはなんだ? 誰かの落とし物だろうか」

そしてついに拾ってしまった。
禁断のアイテム「独裁者スイッチ」を

赤いボタンがあれば、誰でも押してしまうというもの。
拾ったのがレーニンでなかったとしても、誰かが押してしまったことだろう。

「だめよ!!」

マリー・アントワネット嬢が立ちはだかる。

「君は誰だ? フランス訛りの日本語を話しているようだが」

「それだけは押しちゃダメ。カンで分かるの。
 あなただけはそれを押したらいけないわ!!」

「訊こう。君に私を止める権利があるのか?
 また、私がそれに従う義務があるのか?」

「そういう話じゃないのよ……。もう、この、石頭ぁああああ!!」

石頭。それはレーニンに絶対言ってはいけないワードの一つだった。

ゆでだこの様に顔が赤くなったレーニンが、遠慮なしにスイッチを押してしまう。
その次の瞬間、我が日本国は信じられない姿に変貌してしまうのだった。


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