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作品名:斎藤マリー ストーリー 作者:なおちー

第20回   ※ 閑話休題 ソ連軍について熱く語る!!
マリーが心から太盛の身を案じたわけではない。
最初報告を聞いた時は、死んでないのを知ったので
わざわざ見に行くほどではないと思った。

だが、彼の精神状態が気になった。
囚人に襲撃された直後だから、
ショックで気がおかしくなっているかもしれない。

『病気は時期が来れば必ず治るそうだから、
 気を落とすなよ。また明日もミウと一緒に来るからな』

失語症で入院していた夏休み。
太盛とミウは毎日お見舞いに来てくれた。

仕事を言い訳にして両親はほとんど来てくれなかったのに、
あの二人は来てくれた。病院でデートしている風なのが
少し気に入らなかったが、それでもうれしかった。

マリーは適当な執行部員を捕まえて保健室まで案内してもらった。

「こちらがお部屋です」
「ありがとう」

案内を済ませると、執行部員の男子はさっさと持ち場へ戻って行った。

「やあ。マリーかい?」

太盛の第一声だ。下の名前で気さくに呼ばれたのは不意打ちである。
マリーは返す言葉がとっさに浮かばない。

「先輩。見た目は普通だね。襲撃されたばかりなのに大丈夫なの?」
「全然平気だよ。転んだ時に頭を軽く打っただけさ」

太盛はベッドから半身を起こし、
腕を回したり首を曲げるなどしてコリをほぐしている。

「さっきまでここにクロエがいてくれたんだけどね。
 眠気が限界だっていうから宿舎へ戻るように言ったんだ」

「あっそう」

黒江の話をされると無性に腹が立つのだった。

「ちょうどいい。話し相手がいなくて困っていたんだ。
 そこの彼は日本語が全然話せなくてね」

保健室には190センチを超える長身の男性看守が仁王立ちしている。
太盛の護衛だ。彼はウズベキスタン出身のボリシェビキだった。
背だけでなく、顔も細長い。そして愛想が絶望的に悪かったので
マリーは話しかけないようにした。

「ウズベキスタンって元ソ連だったよね?」
  マリーがどうでもいいことを尋ねた。

「そうそう。ソ連にはたくさんの国があったんだよ」
「多すぎて覚えきれないよね」
「そうだな。俺の覚えている限りでは…」


東欧州
ロシア、ウクライナ、白ロシア(ベラルーシ)モルドバ

北欧州
リトアニア、ラトビア、エストニア

中央アジア
カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス

カフカース諸国(北アジア)
グルジア、アゼルバイジャン、アルメニア

まさしくユーラシア大陸を横断する国土だ。
前にも述べた気がするが、世界最大の国土を誇る国であった。

「軍事力はどのくらいの規模だったの?」
「そうだな…」

太盛は保健室に備え付けられた教員用のIPADを勝手に使い、
ウィキペディアでソビエト連邦軍の『地上軍』を調べた。

ナチスドイツとの戦争終結時は500万人程度の兵力
1980年代には210個師団を保有。
西洋資本主義諸国は、ソ連軍の兵力をおよそ300〜500万前後と見積もっていた。

崩壊直前の1990年代のソ連軍保有兵力 一覧

戦車       5万5千両
装甲兵員輸送車  7万両
歩兵戦闘輸送車  2万4千両
砲        3万3千門
自走りゅう弾砲  9千両
ロケット弾    8千両
防空車両     5千両
対空砲      1万2千門
ヘリコプター   4千3千機

『地上軍』だけでこの大兵力……!! まさに圧巻!!

単純に数だけで比較すると、
日本国の陸上自衛隊の120倍くらいの規模になるか(適当)

これは我が国の軍事力を批判するものではない。
自衛隊の第一の任務は国土防衛であり、
外国を侵略することを目的としていないからだ。

我が自衛隊は全軍含めて約30万(予備役含む)

※予備役
自衛隊で戦闘訓練は受けているが、
普段は会社員などして過ごしている人。
招集に際して即戦力になる。日本は予備役が8万くらいいる。

仮に67万人いるニートを兵力化することに成功したら、
かなりの戦力になるだろう。
(最近は高齢化したニートが問題視されている)

否……!! 訓練課程を経てないニートなど……!!
全く無意味!! 戦力に数えられるわけがない!!

例えば、陸上自衛隊のマラソンでは、3.5キロの銃を
持ったまま永遠と走り続けるのが基本……。

途中で腕の感覚がなくなるほど……銃を持つ負担は大きい。
過酷……あまりにも過酷……!! 耐えられるわけがない!!

筋トレでは、2分以内に 腕立て80回!!
腹筋も同様……!! 2分以内……。常人には到底不可能!!

普通の説明に戻るが、
ソ連軍の任務も「祖国の国土と革命の防衛」である。

日本人の感覚では意外に思えるかもしれないが、
国土の大きい国の方が
防衛力が必要になるのは世の必然である。

ソ連は、国土の規模ゆえに多数の国と国境を交える。

Wikiによるとこう書いてある。
(なぜかポーランドが含まれているなど、
第二次大戦前後がごちゃごちゃになっているようだが、参考までに)

陸続きで隣接する国は、
ノルウェー、フィンランド、ポーランド
チェコスロバキア、ハンガリー、ルーマニア。

南はトルコ、イラン、アフガニスタン、モンゴル、
中華人民共和国、北朝鮮、オホーツク海の先に日本、
ベーリング海峡を挟んで東の先にはアメリカ合衆国である

ソ連はこれらの国と何度も戦争をしてきた。

ポーランド陸戦兵は騎兵を中心に強力であった。
フィンランドはソ連を大苦戦させるほどの軍事強国。
イラン(旧ペルシア)には英国軍の陸空軍がおり、目を光らせていた。
冷戦中の韓国や日本には米軍の基地あり。
トルコには米軍の中距離ミサイル基地。

ソ連の外交政策は、『臆病』の一言に尽きる。
建国以来、内戦やシベリア干渉を通じて常に
西洋資本主義諸国の侵略におびえ続け、軍事力を強化してきた。

レーニン体制からスターリンへと政権が移り変わっていた当時は、
ソ連は国力の増加に一番熱心な時期だった。

特に1930年代は危険だった。第一次大戦後のヴェルサイユ体制が
崩壊の兆しを見せ、ドイツではナチスが台頭した。

イタリアでムッソリーニ率いるファシスト勢力が政権を獲得して
エチオピアを侵略。続けて日本による満州の侵略。
ソ連は何をするにしてもまず外国の侵略におびえていた。

ボリシェビキ幹部の間でスローガンのごとくささやかれていたのは、
以下のことだった。

『我々は常に敵に包囲されている。
 我々が工業化を達成し、奴らを追い越すか。
 あるいは、我々が踏みつぶされるかのどちらかだ』 ヨシフ・スターリン

『来る次の戦争では資本主義諸国に確実に負けます。
 速やかな工業化の達成化をしなければなりません。
 今のままでは、万に一つも勝てる可能性はありません』 
         国防人民委員。ソ連赤軍の生みの親。レフ・トロツキー

『次の資本主義陣営との殲滅戦に必要な戦力は、
 最低でも常備兵力200個師団。
 戦車5万両、軍用機2万機…以下略)を要求する』  

ミハイル・トゥハチェフスキー元帥。国防人民委員部の予算委員会にて。 
彼は赤いナポレオンと称されるほどの天才だった。
この案は、当時の国防人民委員部の予算をはるかに超過しているため、
責任者のヴォロシーロフを激怒させ、却下された。

「なんだこのふざけた要求は!! 
 国防人民委員部の予算は、てめえの小遣いじゃねえんだぞ!!
 そもそも我が国の戦車生産台数は年間で4千両ほどだ。
 それを……5万両だと……!?」

「次の戦争では機動戦が鍵を握るからな。これでも少なすぎるくらいだ」

スターリンの盟友ヴォロシーロフとトゥハチェフスキーは犬猿の仲だった。
両者の間では、くたばれ、クズ野郎、時代遅れの化石野郎などの、
心温まる言葉が公然と飛び交ったという。

    しかし、第二次大戦を振り返るとこの程度の規模は必須だった。
    そうでもしなければソ連は国を守ることができないのだ。

『ドイツとの戦争では、我々は守勢に転じるしかありません
 我が方から機動戦を仕掛けても全く勝てません。中略……
 我々は、数百キロはドイツ軍の進撃に任せ、
 その後、敵の補給線が伸び切ったところで反撃を加えます。
 繰り返しますが、これ以外に彼らに勝つ方法は、まったくありません』

ソビエト連邦最高の元帥、ソ連邦英雄のゲオルギー・ジューコフの発言。
戦前に対ナチス・ドイツ戦を想定した図上演習にて。
図上演習の結果は適格だとしてスターリンに高く評価され、
若干46歳にして参謀総長に任命される。

対ドイツ戦は、まともに戦争をしても敗北は必死になると
全閣僚に周知されたのだった。

『ドイツとの交渉がどのような結末を迎えるにしても、
 我々は今だけは友人を演じ続けないといけない。
 一日でも長く。今戦っても、奴らには勝てない』

ドイツとの開戦を直前に控えたヴェーチラフ・モロトフの発言。
ソビエト連邦人民委員会議議長(首相)、外務人民委員を兼任。

ソ連閣僚はスターリンのコネで成り上がった木偶の坊が散見するが、
『モロトフ』は間違いなく切れ者であった。
今の日本にもこのレベルの外務大臣が欲しいものだ。

☆続けて、ソ連の前身である、帝政ロシアについても述べたい☆

ロシアは伝統的に常に海への出口を求めていた。
広大な陸地はあったところで不凍港(ロシアは冬に港が凍るのだ…)
を手に入れなければ強力な海軍は維持できない。

ロシアは確かに巨大だが、昔も現在も陸続きの
領土しか手に入れたことがないのだ。

凍らない港を確保すること、海への出口を求めるのは
ロシア民族の長年の悲願であった。海の外にたくさん植民地を
持つ英仏に対し、ひそかに憧れていたこともある。

黒海と地中海への出口を求めたロシアの南下政策は失敗した。
18世紀から19世紀にかけて宿敵トルコとの間で
行われた露土(ロシアとトルコ)戦争は失敗。

では、バルカン半島(南欧州のこと)と地中海方面は
諦めて、極東方面はどうか?
地球の反対側なら、ロシアの邪魔になる国はいないはずだ。

そして太平洋への出口を求めて日露戦争になる。

「日本兵はサルである。我が国の兵隊一人で、日本兵四人を相手にできる」
    皇帝ニコライ二世の残した言葉は、あまりのも有名だ。
    よく知りもせず相手のことを舐めてかかるのは危険である。

結果、日露戦争で日本に敗北。
ポーツマツ条約によって南樺太や朝鮮を含む中国大陸の各領土を失い、
ロシア海軍は全戦力の約70%を失った(すべて日本軍が撃破した)
これはロシア海軍が半世紀に渡って再建できないほどのダメージを与えた。

ロシアの日本に対する見方が180度変換する。
「絶対に日本を刺激するな」スターリンは日本の軍部を恐れ、
細心の注意を払っていたのは有名な話である。

第一次大戦のロシア軍は、オーストリア軍に対しては優勢でも
ドイツ軍に惨敗を続け、この物語の第一話で書いたように
ブレスト・リトフスク条約を結ぶに至った。
ドイツに対する奴隷契約である。

「我が国は後進国であるゆえに、戦争に負け続けた」

スターリンが閣僚に投げかけた言葉である。
彼はボリシェビキに特有の読書中毒であり、
ロシアの歴史を知り尽くしていた。
そして誰よりも大国ロシア(ソビエト)の実現を夢見るものだった。

「ロシアは大国としての地位を守ろうとしたが、
 国の後進性のためにイギリス・フランスにやられ、
 トルコにやられ、日本にやられ、ドイツにやられた!!」

「もう二度と!! 我が祖国を世界からあざ笑われることの
 ないように、二度と我が国土を敵に侵略されないために、
 強大な軍事力が必要なのだ!!」

熊のような発想である。熊が山中で人間を襲うのも、
自分や、自分の子供が人間に殺されるかもしれないなどの
被害妄想に襲われるためだ。

ロシア帝国もソビエト連邦も、心は誰よりも弱虫だったのだ。
でかい図体をしている奴ほど気が弱いのかもしれない。
これぞボリシェビキ特有の「被害妄想」である。

よく言えば危機感。今のデフレが続く日本でも
お金に対する危機感は持つべきだと思うが、
私と同年代の同僚は、誰も貯金や資産分散を
してないことに驚く。どうでもいい話かもしれないが。

冷戦中のソ連は、さらなる軍拡を勧めた。

ソビエト連邦軍は、
「地上軍」「空軍」「国土防空軍」「海軍」「戦略ロケット軍」からなる。

『戦略ロケット軍』は国土防衛の最終手段とされていた。

筆者は冷戦当時の規模を知らない。筆者が4歳の時にソ連邦が崩壊して
ロシア連邦が生まれたのだ。私の両親の世代はソ連が普通だったので
ロシアと呼ぶのに違和感を感じるらしい。

戦略ロケット軍の規模をwikiで調べてみると、
なぜかロシア軍のデータが表示される。

2010年7月のデータでは、ロシアの戦略ロケット軍は、
3個ロケット軍、11個ロケット師団から成り、
「ミサイル×369発」「核弾頭×1247発」を装備していた。

2018年現在の規模は知らないが、おそらく同程度は持っていると考えられる。
ソ連時代はもっと持っていたのだろうか……? (震え声)

核弾頭の数がやばい。
冷戦時代には、おそらく地球全土の地表面を7回くらいは
焼き尽くせる量を保持していたと噂されている。

今になってこのような恐るべき軍事国家が存在したことに
驚愕するばかりだ
あらためて冷戦が冷戦のまま終わって良かったと思う。

「あっそ」

マリエがまたつまらなそうにつぶやくのだった。

そういえば、彼女らの活躍を描くのをすっかり忘れていた。
この小説は斎藤マリーが主人公だったはずだ。


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