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作品名:斎藤マリー ストーリー 作者:なおちー

第19回   「これで派遣委員の紹介は終わりよ」

「これで派遣委員の紹介は終わりよ」
会長の副官のナジェージダ・アリルーエワだ。

「10分間の休憩とする。休憩終了後、この食堂に戻ってくること。
 本日の午前中は映画鑑賞を行う」

またソ連の戦争映画やドキュメンタリー映画に決まっている。
囚人達の誰もがそう思ったが、ナージャがホワイトボードに書き込んだ
タイトルは思いもよらないものだった。

『ミュータント・タートルズ』
まさかの娯楽映画である。しかも米国資本主義が生み出した映画である。
内容は、いわゆるヒーローものになるのか。
遺伝子改良された亀さんら4人組が主役である。なんと彼らの好物はピザ。
刀やヌンチャクを装備して忍者の格好をして悪の組織と戦うものだ。
(忍者なのにヌンチャク……?)

またどうでもいい話だが、筆者は小学校時代にタートルズの
おもちゃを親に買ってもらったのを覚えている。
この作品のブルーレイを知った時は光の速さで購入したものだ。

囚人達は久しぶりに頭を使わずに楽しめる作品を見せてもらえるので
うきうきしながら休憩時間が過ぎるのを待った。
廊下にあるトイレは大所帯用なのでそれほど混雑することはない。
高速道路のパーキングエリアを想像してほしい。多分あんな感じだ(適当)

「あーねみぃねみぃ」

太盛が重くなってきたまぶたをこする。
確か彼らの就業時間は20時〜8時だった気がするので
(久しぶりに書くのでよく覚えてない。
 いつもこんな感じで読者には迷惑をかける)

太盛らは朝食終了後のこの時間が一番答えるのだ。
というか……食べないで寝たほうが良いのではないか?
少なくとも筆者が太盛達の立場だったら朝食は省いて直ちに寝たい。

「そうでもないのよ」

サヤカが何か言っている。

「夜勤終了後にすぐ寝れたらいいんだけどね、
 周りは明るいし、外は車が通ったりして結構騒がしいのよ。
 カーテンを全部閉めて布団をしっかりかけて、
  無理やり体を睡眠の方向に持って行かないといけないの」

なるほど。人間の体は夜を認識しないとなかなか寝付けないと
は聞いたことがある。

「しかもね」中央委員から派遣された近藤サヤカが続ける。

「夜勤明けの開放感って結構すごいの。
無性に甘い物とか食べたくなるのよ。
なんていうか、女子の本能的に?」

確かに。筆者も緊張してストレスが溜まる時は甘い物を食べる。
長時間ウォーキングする時も飴を舐めるとすっきりする。

「朝食の時間の後、10時くらいまで起きてることもざらにあるわよ。
 モチオなんて昼過ぎまで起きてても平気で夜勤をこなせるんだから化物よ」

夜勤中に仮眠の時間が設けられているようだが……

「あんなの寝れるわけないでしょ」

サヤカが、三つ編みをほどいた。
さらさらした黒髪が肩にかかる。
その一動作だけで見違えるほどの美人がそこに現れた。
キビキビした社長秘書風のルックスである。

「勤務時間中の仮眠ってのは、ただ体を横にして消耗を押さえているだけよ。
 いつアラームが鳴って出動になるか分からないし、定期的に見回らないと
 いけないって責任感もあるんだから。心から休まる人なんてまずいないよ。
 クロエなんて開き直ってスマホでユーチューブのチャンネルの
 管理とかしてるんだから。あたしも漫画とか読むことにしようかな」

やはり夜勤は過酷である。彼らは学生にとって貴重な冬休みを
夜勤固定で働いているのだから頭が下がる。
筆者は学生時代にろくにアルバイトもせず、実家の畑仕事などを中心に…

(さっきからよぉ)今度は川口ミキオである。

(あの女は誰と話してるんだ?)

それは他の囚人達も思っていることだった。
はたから見るとサヤカは誰もいない宙に向かって
独り言を言い続けており、不気味である。

インカムや無線機に向かって連絡でもしているかと
思ったが、そうでもないようだ。
その奇異な視線にいい加減気づいたのか、サヤカは、

「何見てんのよ!!」

顔を真っ赤にして吠える。

気まずくなったミキオらは、要もないのに席を立ち、
廊下などをうろうろすることになった。

(わけわかんねえ女だ。
 ボリシェビキはイカれた奴ばっかりだ。)

ミキオはトイレに行くことにした。
最初は行くつもりなどなかったが、映画は2時間くらい
かかるかもしれないので、このタイミングで行くのが得策だ。

「おい」
「あ?」

いきなり後ろから肩を叩かれた。
ミキオはまだトイレに入っていない。
廊下を歩いている最中だ。

「おまえ、武器とか持ってないか?」
「なに?」
「聞こえなかったか? 武器を持ってないかと訊いてるんだ」

囚人である。ミキオの知らない顔だった。
進学クラスの人が全員収容されているほどの大所帯なので
一人一人の顔などもちろん把握していない。

それは重要ではない。問題なのは

(このバカ野郎……!! 
朝っぱらから廊下で何言ってやがるんだ…!!)

ミキオの鼻とあごはストレスと緊張のあまり、とんがってしまい、
目は横に長くなった。絵的にはカイジを連想させる。
(賭博黙示録。逆境無頼カイジ…!! ←漫画作品のこと)

(廊下にも……盗聴器が仕掛けられてるんだぞ…!!
 ボリシェビキにばれたら俺たち二人とも
 即尋問室行きになるのが分かってないのか……!!)

筆者も著名な作品名やキャラ名などをボカさずに
さらしてしまっているが、大丈夫なのだろうか…?

「たった今、堀太盛がトイレに入っていった」
「あ…? まさかおまえ、トイレで襲うつもりか?」
「そのまさかだよ。俺はお前が割り箸を隠し持っているのを知っている」

ミキオは、よせばいいのに、左のポケットに入っている鋭利な
割りばしをまさぐってしまった。その動作だけで持っているのはバレバレ。

自らまぬけを……さらしただけ。
これが……。心理戦!!

「俺の目は節穴じゃないんだよ」男が言う。

筆者の目は節穴である。常に誤字脱字が多いからだ。
作者のマイページから訂正することはできるが、
めんどくさいのでそのままにしている。反省はしていない。

「とにかくよこせ」
「あっ!!」

一瞬で奪われてしまった……凶器!!

ミキオ・カイジの焦りは……最高潮!!

「おま……本気でやるつもりなのか?」
「そういうのを愚問っていうんだ。
 冗談でこんなこと言えると思ってるのか?」

(こ、こいつ……。目がマジじゃねえか…)

ミキオ・カイジは額に大汗をかいている。
得体の知れない男は、そのままトイレに入っていった。

そして30秒ほどして戻って来た。

「やったよ」
「や、やった……だと?」

なんと……。男の拳には返り血と思われる赤い液体がついている。

「ふふ」

そしてこの笑み。明らかに一仕事終えた男の顔である。
しかも、スパイとか特殊部隊の兵隊を思わせるような、
達成感と哀愁の入り混じった、複雑極まる……この表情!!

「ふはははは」

小さく笑い、男はどこかへ消えてしまった。
ミキオ・カイジは、彼の歩き続ける方向が、明らかに
食道とは逆の方向であることに気づいたが、何も言わなかった。

(これが……現実…!!
  おれは……どうすればいいんだ……!!)

ミキオは怖くなってトイレの様子を確認しに行くことはしなかった。
廊下の監視カメラには自分の姿がはっきりと写っていたことだろう。
だから、自分は連帯責任で銃殺刑になるのは確実。

かといって、どうすればいい?
脱走しようにも外はバリケード、監視塔の機関銃、コイル状の鉄条網の三段構え。
自殺するにしても首吊り用のロープもない。手りゅう弾も青酸カリもない。

せめてあの割り箸があれば、自分の首を差すことができたかもしれない。

(いや……俺には、どのみちそんなことはできない……。
 俺は模範囚だが……心の根っこの部分は臆病者だ……。
 死ぬのは……怖い……。死ぬのは痛い……痛いのは嫌だ……)

川口ミキオ。16歳。元1年5組。成績優秀。部活動は未所属。
趣味はネットゲームとスポーツ観戦(テレビ)のインドア派。

彼は若くして人生の岐路に立たされたのだ。

今年は大阪桐蔭高校の根尾アキラが巨人軍に入るかもしれない。
金足農業の吉田はどこの球団へ? 
これからも楽しみはたくさんあるはずだった。

囚人は世間の見聞(資本主義の堕落への理解)を広めるために、
新聞を読むことが許可されていた。

そのためスポーツの話題も知っている。
ボリシェビキは日本のスポーツ業界をこれといって
問題視しなかった。むしろスポーツを奨励していた。

卒業後は収容所から
出してもらえる約束になっている。
彼にも苦難ばかりの人生ではないはずだった。 

(ちくしょう……!! 外の世界では…女子バレーの世界大会が
 始まってるんだぞ……!!日本は第三次ラウンドに進出したらしいが…
 俺もひと試合で良いから……見て見たかった!!)

ミキオは頭を抱えてうずくまっている。
そこへ男子の執行部員が

「貴様そこで何をしておるのか!!」

やって来たのだった。まもなく映画の上映が始まる。
5分前行動が基本のボリシェビキ。他のみんなは着席しているのに
ミキオの席が空席だったので見回りに来たのだ。

「すいません……。すぐ戻りますんで…」
「ん? 顔色が悪いようだな。どうした。熱でもあるのか?」
「いえ、そういうわけじゃ……ないんすけど……」

めずらしく日本人の看守だった。看守の日本語に
なまりがないのは、かえって新鮮だった。

「どのみち気分が優れぬようだったら医務室に連れて行くぞ」
「お、俺みたいな奴は……そんなこと」
「なんだ?」
「いえ、なんでもないっす」
「言いたいことがあるなら申せ。遠慮することはない」

ミキオは黙ったが、腕組みした看守がにらむので、仕方なく言うことにした。

「俺は、囚人です。俺みたいなクズが風邪引いたって
 治療する必要なんかねえっすよ。あんた達からみたら
 社会に出ても役に立たないような人間なんでしょ」

「貴様はまだ学生の身である。将来を悲観する根拠に乏しい。
 貴様らを更生させるためにの施設として7号室が存在するのだ」

この看守は、不思議なことにミキオのことを一人の生徒として
扱ってくれるようだった。坊主頭で目つきが異常に鋭いが、
内面はそこまで厳しい人ではないのかもしれなかった。

「もうそういう次元の話じゃねえんだ……。
 俺はねぇ……。犯罪に加担しちまったんだ……」

「なんだと?」

ミキオは魔が差したのか、先ほどの事件を素直に話してしまった。

看守は直ちにトイレを確認しに行った。
これには冷静な彼もあわてた。

(まさかあの堀太盛殿が!!)

堀太盛は、その日の午前中、トイレの個室で倒れているのを発見された。
(↑NHK風の表現)

午前中のビデオ鑑賞は中止になり、大騒ぎになった。
ナージャが大急ぎで廊下を駆け、クロエが悲鳴をあげた。
モチオやサヤカら派遣委員仲間も戦慄した。

臨時委員で初めての犠牲者が出てしまったのだ。
太盛が一人で囚人と同じ時間帯にトイレに行ったのは、
全くの無警戒であったといえる。

かつて副会長のミウが最も愛した男。
学園の超有名人。
会長以上の注目度を誇ったと言われる堀太盛、ついに倒れる。

(もう終わりだ……。これで……何もかもな……)

ミキオ達囚人は、銃を構えた看守達に囲まれた状態で
食堂に軟禁された。まさに厳戒態勢である。

『27日』の午前中は、まさに最悪の展開だった。

外ではナージャを中心に大変な騒ぎとなっている一方、
食道内はただ静まり返っていた。そこにいろ、と言われたので
ただ座っているしかない。近くの席にいる人と会話もなく、
時間が過ぎるのを待つだけの身だった。

「囚人番号23番」

ミキオの囚人名が、看守に呼ばれた。

「尋問室に来い。同志会長閣下の直々のお呼び出しである」

「はい。今行きます」

ガタッと、わざと大きな音を立ててミキオが起立する。
椅子の位置を戻すことを忘れなかった。

他の囚人達は、ただ哀れみの目でミキオを見ていた。
どうしてそんなことをしたんだと、責める風ではない。

ちょっと判断を間違えたのだろう。
明日は我が身だと、全員がそう思っていた。

(朝食が、俺の人生の最後の食事になっちまったか…)

手錠されたミキオは、過ごし慣れたこの大食堂をしっかりと目に焼き付けた。
仲間たちの顔も一人一人しっかりと見た。中には涙ぐんでいる奴もいて、
少しだけ嬉しかった。尋問室ではどんな拷問をされるのか。以前の自分だったら
震えてしまい、命乞いをすることだろうが、今はそんな気が起きない。

(今さら考えても仕方ない)意外と足取りは軽かった。




27日11時 学園の校舎。A棟の尋問室

「まず姓名を確認する。本名は川口ミキオ。本人で間違いないな?」
「はい。間違いありません。会長閣下」

なんて高校生離れした雰囲気だとミキオは思った。

二人はテーブルを挟んでパイプ椅子に座っている。
高倉ナツキ、すなわち学園ボリシェビキの最高権力者は、
偉そうにテーブルに肘をついて尋問しているだけなのだが、
一部の油断なくミキオの仕草を観察するその目つきにゾッとした。

もはや言葉の受け答えでなく、ミキオの挙動だけで
内面の全てを見透かしてしまうかのように。

「質問に答えるのがめんどうなので最初から白状します。
 俺は犯人の男に凶器を渡しました。奴に渡せと言われたからです」

「ほう。ではなぜ凶器を持っていた?」

「今朝の炊事当番の時にこっそり忍ばせていたのです」

「罪の意識はあるか?」

「今はあります。あの段階で俺は殺すつもりはなかった。
 堀を殺害した後は後悔もしたし、気分が悪くなりました」

「君は勘違いをしているようだ。堀君はまだ生きているよ」

「え?」

太盛の怪我は大したことなかった。強く殴られた衝撃で
一時的に気を失ったが、特にけがはないという。

「怪我がない?」
「そうだが。何か思うところがあるのか?」
「だって……犯人の拳に血が付いていたのに」
「ん? 堀君に出血のあとはなかったはずだよな?」

ナツキの隣に立っているナージャに確認すると、首を縦に振った。

「本当に死んでねえのか。よかった」
「よかった、だと?」

ナツキの声が低くなった。

「君は不思議なことを言うな。凶器を隠し持っていたなら
 ボリシェビキに対する殺意があったのだろう。
 堀君が生きていたことを残念に思うなら分かるが」

「……こんなこと言っても、信じてもらえないかもしれないっすけど」

「好きに話すといい。ボリシェビキは理性と科学を重視する。
 相手の言い分は全て聞いてから判断するからね」

ミウも似たようなことを言っていた気がするなと、
ミキオは思った。ミキオは一部始終を説明した。

「女の声だったろう?」
「はい」
「君の肩に触れたのは細い指で、
 しかも高い声で。問いかけるような口調で」
「その通りです」
「なるほどね…」

ナツキは腕組し、長考した。
ナージャは手に持ったIPADで電子メールの処理をしている。

ミキオは、直感でナツキが自分に害意がないのではないかと
考えるようになった。その証拠に、ナツキはミキオの
怪談話を否定しないどころか、あの不思議な声の
正体を知っているような気がする。

「もう一度確認するが、今の君には生徒会への殺意はないな?
 もちろん堀太盛本人に対しても」

「はい。ありません」

ミキオは嘘をついていない。
不思議とあの男が事件を起こしてから、
生徒会への殺意がすっかり消えてしまっている。

ナツキはしばらく無言になったが、
一瞬も目をそらすことはしなかった。

「これにて尋問を終了する。午後から通常の生活に戻ること。いいね?」
「は…」
「同じことを二度言わせるな」
「はい!! 会長閣下!!」

ミキオは大急ぎで尋問室から出て行った。
廊下で待っていた執行部員の付き添いの元、
7号室のバラックへ帰っていく。

「ゆーあ―あ べりぃ カインド・マン。あーんとゆー? ナツキ」

ナージャが皮肉を込めて下手な英語でナツキをなじる。

「あれもミウの呪いの一種さ」
「ミウが囚人ニ殺害を命じたっテ本当に信じてるの?」
「あり得ることではある。あの男は嘘をついてないと思う」
「ナツキハ根が甘いんだから」

「そういうなよ。ああいう男に限って将来は
 立派なボリシェビキになるものだ。相田トモハルの例もある」
「7号室の囚人カらボリシェビキが生まれルのかしらね」
「分からないじゃないか。この世界はどんなことでも起こりうるのだから」

ナージャは鼻を鳴らした。

「あの女は死んだのに……。まだ私たちニ影響を及ぼしている」
「生きていても死んでもお騒がせな子だよ。あの子は」

(またあの目…)
ナージャは、ナツキの心の奥底ではミウが
生き続けていることを知っている。
彼は今日までにミウの夢を10回は見ているという。

夢の中でのミウは、ただ黙って彼を見つめているだけで
一言も話してこない。それがかえってこたえる。
いっそ罵倒してくれた方が、よっぽど楽だったかもしれない。

彼はミウの粛清を決めたことを後悔していた。
そもそもミウを生徒会へ勧誘したのはナツキなのである。
生真面目な彼は、ミウの殺害の遠因を作ったのは自分だと思っていた。
実際に殺害したナージャ、きっかけを作ったトモハルに対して恨みはないが。

「もうあの女のことは忘れてヨ!! もう死んだんダよ!!」

ナージャは我慢できなくなった時は、こうやってヒスを起こす。

日本の男が昔の女のことをいつまでも覚えているのは知っていた。
だがナツキのじれったい態度を見ているとイライラするのだ。

「すまない。ナージャ。分かってはいるんだけどね…」

ナツキはハンカチで目元を覆い、小刻みに震え始めた。
彼にとってミウの存在はここまで重かったのだ。

鼻水をすすり始めたナツキが急に哀れになったのか、
ナージャはナツキをギュッと抱きしめた。
ナージャの肌のぬくもりが制服越しに伝わってくる。
生きている。だから暖かい。人は本来、暖かい生き物だ。

クールで有名な高倉ナツキが唯一感情を乱す相手が
ナジェージダだった。一歳年上のナージャは
彼の秘書であり副官であり、お姉さんのような存在だった。

「これからも僕を支えてほしい。こんなちっぽけな僕でよければ」
「もちろん着いて行くワ。私にはナツキしかいないノだから」

ナージャが音を立ててナツキの唇を奪うと、今度はナツキの方からも
求めるようになった。二人はここが尋問室なのをすっかり忘れてしまい
愛し合ってしまったのだ。ナージャのはじけそうなほど豊満な胸に
つい手を伸ばしてしまうナツキ。ブラウスのボタンを脱がしたくてたまらない。

しかし現実とは不思議なもので、学校や職場で不埒(ふらち)
なことをすると、必ずといっていいほど誰かに目撃されるものなのだ。

「あのぉ。共犯者の顔を見に来たんだけど」

ノックもなしに扉が開き、マリエが入ってきたのだ。
マリエは特別扱いなので、会長の許可なくほとんどの
部屋を自由に出入りしていいと言われていたので、
今回も入って来た次第なのである。

「マ、マリー!!」

ナツキは急いでナージャがから離れようとするが、
逆にナージャはしっかりとナツキを抱きしめるのだった。
この男は自分のものだとアピールするように。

「あ、お好きにどうぞ。私は関係ありませんので。失礼します」

吐き捨てるように言ってマリエは去って行った。
嘘ではなく、マリエにとって本当にどうでもよかった。
しかし、認めたくはないが、不思議と悔しい思いもわきでる。

(あの女好きめ。やっぱり巨乳好きだったんだ。
 私のこと好きだって言ってたくせに!!)

口から出まかせで好きと言ってしまう男は、
女性なら誰だって嫌うことだろう。こんな奴の
魅力に引っかかってのぼせていた当時の自分を
ぶん殴ってやりたいほどだった。

とにかくマリエにとって一番大切なのは、堀太盛先輩の安否の確認だった。
本校舎(ABC棟のこと)の保健室にいるという話だが……


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