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作品名:斎藤マリー ストーリー 作者:なおちー

第16回   12/26 時刻は21時。強制収容所7号室。女子の第一バラックにて。
太盛とクロエは監視ルームに偶然にも二人きりだった。
保安委員部の上司たちは、それぞれ別の用事があるらしく、
席を外してしまっている。
そのため22時までここで待機してほしいと言われた

「相変わらず何の変化もないな。女子の収容所は平和なものだ」

「男子の方は大変らしいね。サヤカがナイフを持った囚人に
 襲われそうになったそうだよ。
 モチオがぶっ飛ばしたから事なきを得たけど」

「いつも思うんだけど、囚人はどこで武器を仕入れるんだ?
 まさか執行部員がこっそり渡してるわけじゃないよな?」

「ナイフっていうより木の棒をとがらせたのを使ったみたい。
 あいつら無駄に工作が得意だから原始人レベルの武器は自前で
 用意できるのよ」

「なるほど。外の木から調達したのか。器用なもんだ」

他にも掃除用具のモップを改造してヤリ代わりにした者もいた。
このように冬休中も反乱は続いていた。バリケードの外へ脱出する前に
監視塔の重機関銃で撃たれた集団もいる。
彼らの死体は、生ごみと同じように土へ埋められた。

黒江は太盛の隣にぴったりと座って同じモニターを見ている。
ここは当然マルチモニターで、1番から22番カメラまである。
そのため彼らは別々のモニターを見ないと監視にならないのだが、
クロエは彼とのおしゃべりに夢中なのだった。

黒江はふいにわき腹を押さえた。

「いた…」
「大丈夫か? 夕方殴られたのが効いたみたいだな」
「あざになっちゃった。あのチビ、マジムカつく」
「あの小さい子は本当にどうしたんだろうな。
 ナツキ会長のお気に入りらしいけど、
 ちょっと精神的にまいってるんじゃないか」

お前には言われたくないと、天井からツッコミが聞こえた気がした。

「だけど不思議だよな」

太盛がペットボトルの午後ティーを飲みながら言う。
ホットで350ミリのタイプだ。

「あの子に怒鳴られた時に、一瞬だけ記憶が
 フラッシュバックしそうになった」

「えっ…」

「なんかあの声、懐かしい感じがするんだよな。
 あんなむきになって俺に怒鳴っちゃってさ。
 まるで妹とか娘に怒鳴られてる気がしたよ。
 はは。俺何言ってるんだろうな」

「太盛…」

黒江は教えてあげようか迷ったが、結局言うことにした。
太盛がかつて愛したのがあの子だったこと。
そしてあの子はまだ太盛に未練があること。

「って言っても信じないよね? 記憶がないんだから」
「その前になんでクロエが俺の恋愛事情を知ってるんだ?」
「うちの学園じゃ有名だから。教師だって知ってるよ」
「そうなのか? 不思議なもんだな」
「太盛は斎藤さんのことどう思ってるの?」
「別に好きでも嫌いでもないよ。思想的に甘ったれてるとは思うけどね」
「口げんかしてムカつかなかった?」
「不思議と後味が悪くないんだ。
 今度会ったら逆に俺が説教してやろうかな。はは」

クロエが顔を伏せた。なぜだ?と思い、
太盛が顔を覗き込もうとすると、
クロエは嫌がって反対側を向くのだった。

「せ、太盛はさ…」
「おいクロエ、まさか泣いているのか?」
「うん」
「なんで? 俺何か変なこと言った?」
「ううん。私が勝手に泣いているだけ」
「どうしたんだ。腹でも痛いのか?」
「そんなんじゃないよ」

クロエはフランス人らしく恋愛の駆け引きなど時間の無駄だと思っている。
だから自分の気持ちを下記の通りにぶちまけた。

太盛とマリーはおそらく運命の赤い糸で結ばれている気がする。
もともとミウが死ねば二人は自動的にカップルになれる流れだった。
おそらく太盛の記憶喪失が何かの拍子で治ってしまえば、
普通にカップルになる。その際、クロエは不要になる。

「なにつまんないこと言ってるんだ。君らしくもない」
「でも太盛が遠くへ行ってしまう気がして不安」
「そっか。じゃあ。これで」

太盛は大胆にもクロエの華奢な体を抱き締めた。
生徒会で訓練された太盛の体は以前にもまして筋肉質になっている。
制服越しでもゴツゴツした男性らしい体つきが伝わるので、
クロエは猛烈にドキドキした。

「もう悲しい想像をするのはやめだ。
 君は明るくて前向きな子だ。ネガティブなのは似合わないよ」
「そうね。イギリス人じゃないんだから、もっと前向きになるわ」
「欧州の事情は知らないけど、その調子だ。俺たちはペアじゃないか」
「ねえ太盛。私たち付き合っちゃおうよ」
「いいよ」
「いいの!?」
「おう。生徒会で男女交際は禁止されてないからな」
「そうじゃなくて、その……」
「他の人は関係ないよ。別にエリカと婚約してるわけでもないし」

とんでもなく薄情な男である。筆者は彼を殴りたくなったが、
小説の話なのでどうにもならない。
ところで私はどうしてこんな内容を書いているのだろうか。

答えは簡単。PCの前でタイピングしていると勝手に物語が進むのだ。
いわゆる自動タイピングという現象である。

この作品は下書きもプロットも設定表も
何一つ用意しないでここまで勝手に進んでいる。

よって読み返したら矛盾点が散見することだろうが、
気にせず書き続けることにする(無責任)

「うれしいよ太盛。大好き」
「はは。俺も最初に会った時から
 クロエのことは気になってたんだ(うそ)」

なんと太盛はチャラ男だったのだ。
彼にとってエリカはどうでも良かったのか?
彼は今すぐ7号室の囚人になるべきだと思う。

「クロエ。君のことを愛してる。君と一緒なら辛い夜勤も乗り切れる」
「うん。私もずっと臨時派遣委員でいたいくらいだよ」

そしてどちらもともなく口づけを交わすのだった。

突然話が変わるが、『花より男〇』(少女漫画)をご存じだろか?
筆者は興味本位で全巻買ってみたのだ(中古で)
女性目線での恋愛小説の参考になるかと思ったら、とんでもない作品だった。

多くの読者レビューにあるように序盤の
いじめシーンは壮絶だが、問題はそこではない。

物語の核は、
主人公の少女が、何人もの金持ちイケメンを「もてあそぶ」ことだ。
次々に自分に惚れさせては手を出させず、最後は振るという荒業を連発していた。

いちおう本命の男はいるのだが、次々に現れる別の男との
浮気(もどき)を繰り返し、本命を嫉妬させるのはお決まりの展開である。

男に『俺はお前を信じるよ』と言われた後に、浮気もどきが
ばれて『二度と俺に話しかけるんじゃねえ』と言われる。
ビンタされた時もあった。当然だろう。

その後仲直りし。また裏切る。最終巻までこの繰り返しである。
まさに茶の番であり、作者殿の日記帳であろう。
ネット小説ならともかく、市販の漫画でこういう展開を
やるなよと突っ込みたくなった。

少女漫画とはどれもあんな感じなのだろうか?
確かに内容は面白く引き込まれるものがあったのは認める

要約すると『女性の男性からチヤホヤされたい感』を
満足(共感)させるための作品であったといえるだろう。
しかも恋愛対象は『超大金持ち(国務大臣レベル)』ばかりであり、
『玉の輿』願望をかなえるための物でもあった。

『愛』と『金』。どちらも女性の恋愛観や結婚観に必須である。
だからこそ人気作となったのであろう。

なぜ平凡でこれと言った取り柄もない少女(主人公)に、
例えば将来の政治家候補の若い男性などが
次から次へと求婚を申し込むのか。
どのように解釈しても非現実的であり、まさに漫画(空想)である。

少女漫画の話は必要もないのについ書いてしまった。
本編とまったく関係ないのはいつものことである。

「えー。おほん」

イワノフが気まずそうな顔で太盛達の後ろに立っていた。
他の保安員の人たちも居心地の悪そうな顔をしている。

「ど、同士イワノフ? いつからそこへ?」
「つい先ほど会議が終わりましたので戻ってきた次第ですが…」

(まだ夜の9時半じゃないか。もう戻って来たのか!!)
太盛は急いでクロエから飛びのき、床に頭をこすりつけて謝罪した。

「も、申し訳あ、ありません同士。き、勤務中だというのに
 怠惰であることは十分に自覚しております。
 また、このようなお見苦しいところを見せてしまいまして…」

これぞ日本の奥義。文化の極み。ジャンピング土下座である。
しかも太盛は緊張のあまり噛みまくっている。

※ジャンピング土下座とは
 ただ勢いよく土下座することである。

「すみませんでしたぁ!!」

黒江は土下座などしたことないが、太盛の勢いに押されて
同じように頭を床にこすりつけて声を張り上げた。
当たり前だが暖房が効いていても床の感触は冷たく硬い。

いくら派遣委員とはいえ、太盛達の怠惰は度が過ぎていたといえる。
イワノフから会議中は任せますと言われてここにいるのに、
モニターを監視しないばかりか、手を繋ぎ、キスまでしていたのである。

仮に太盛の上司のトモハルだったら小言を言われるか最悪説教だろう。
よりにもよってイワノフの機嫌を損ねるのは相当にまずい。
集団脱走が起きて久しい執行部では、
今現在も内部粛清が行われているのである。

さらにナツキの指示で、「怠業、怠惰取り締まり非常委員会」を設置した。
保安委員部から派生した組織である。

責任者は、会長であるナツキと副官のナージャが兼ねる。
諜報委員部を総動員して怠惰な者を摘発し、
大々的な内部粛清を行うのが目的だ。

発足したばかりの委員なので、組織の詳細がまだ周知されていない。
当初は執行部員のみが対象かと思われていたが、
全ての委員が取り締まりの対象になりつつあるのが現状だ。
冬休み直前辺りからナツキの恐怖政治が表面化してきているのだ。

万が一、今回の茶番が生徒会本部に報告された場合は、
最悪二人そろって尋問室送りになり、思想チェックをされる恐れもある。

しかしイワノフの反応は意外なものだった。

「まあまあ。顔をあげてください。同士」

声は穏やかである。

「太盛殿とクロエ殿の仲が良いのは悪いことではありません。
 中央と諜報の人間が仲良しなのはめずらしいことですから、
 好意的に解釈させていただきましょう。
 四六時中緊張していては集中力も下がるでしょうから、
 先ほどの好意は気分転換のためのスキンシップとさせていただきます」

太盛はこの学園に入学してから初めて聖人と呼べる人に出会った気がした。
この人は学園関係者の虐殺現場にも全て立ち会っているらしいが、
それにしてもここまで人間味を消さずにいられるのが信じられない。

どうしてここまで太盛とクロエに優しいのか。
そういえば、モチオがくだけた話し方をした時も動じないばかりか、
口調さえ注意しなかった。

ボリシェビキの間では口調は厳しく統制されているというのに。
(そのわりに校長は中央委員からよくハゲ呼ばわりされているが)

「本当に罰則なしでいいんですか?」

クロエは気になったことは物怖じせず訊ける性格だった。

「ええ。もちろんですよ」
「私たち、全然役に立ってないのに」
「先日、さっそく脱走未遂犯を捕まえていただきました」
「それだけじゃないですか。まだまだ未熟者だし、足手まといじゃあ」
「それはとんでもない謙遜ですぞ!! 黒江殿」

イワノフが急に声のトーンを上げたので、太盛達は仰天した。

「慢性的な人数不足に悩まされる執行部の新規加入者は、
 日本だけでなく世界から募集していました。
 その結果、世界中の共産主義の同士が集まりましたが、
 みな日勤はともかく夜勤帯はサボって酒を飲んだり、
 仲間とおしゃべりしたりと、とにかく真面目さがない」

「わ、私たちも人のこと言えないような…」

「あなた方は私が叱る前に、きちんと自らの過ちを認め、
 謝ってくださった。土下座までしてくれる人は
 今までにいませんでしたよ」

(私は太盛の真似をしただけなんだけどなぁ)

「今までの部下など注意しても言い訳をしたり生返事をしたりと
 誠意が感じられなかった。それに比べてあなた達は
 自ら夜勤の仕事を引き受けただけでなく、スケジュール通りに
 きっちり仕事をこなしてくれている。まだ勤務を初めて数日ほど
 ですが、あなた方が誠実なプロレタリアートなのは良く伝わります」

※プロレタリアート
共産主義、社会主義的表現で「労働者」を意味する。
ブルジョアとは資本家を指す。
労働者は保護対象。資本家は抹殺対象である。

ソビエト連邦は、労働者と農民のための国家として建国した。
共産主義の本質は、資本家に独占されていた、
生産手段をプロレタリアートが共有することである。
「共」「産」主義

「そういうことですから、我々保安員部はお二人の恋愛事情には
 口出しはしません。仕事に支障がない程度でしたら
 スキンシップを取っていただいてけっこうです。
 生徒会は恋愛を推奨しておりますから」

モニターの席も隣同士でいいと言う。
太盛とクロエは恐縮して何度も頭を下げた。
イワノフは堅物の彼をニコニコさせていた。
だが懸念がないわけでもない。

(しかしこれは……。橘エリカ嬢が病にふせっているときに
 黒江殿が横取りをしたような感じになっている……。
 あとで火種にならなければいいのだが)

イワノフはかつて橘アキラとも深い関係にあった。
同学年ということもあり、良い相談役でもあったのだ。
それだけに橘家の人間には思い入れがある。

恋愛事情で橘エリカの悲しむ顔を想像すると胸が痛くなるが、
他の委員から派遣されている二人には
遠慮があり、やはり言うことはできない。

保安委員の他の部下にも
彼らの恋愛に口出し無用の命令を出しておくのだった。

また余談だが、筆者の会社の先輩に
車のスピード違反で捕まった男(当時35歳)がいた。
その男は素直に罪を認め、腰を下げて謝罪したところ、
警官は気を良くして口頭注意だけで済ませたという。

罰金も点数減点もなしである。心温まるエピソードだ。

彼が言った言葉は「すみませんでした。僕が悪かったです」
これだけだ。時間にして一分もかかるまい。

最近の世の中を見ると、おじさん世代やじいさん世代の人に限って
素直に謝れる人が少なくなっているのは、気のせいだろうか?


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