循環システム室に入ると微かに排泄物の臭いがした。そのせいかハロルドの他には誰もここには来ない。二人だけで話すには都合の良い場所だ。 「艦長の言い方では全球凍結を乗り越えたのは、マンモスを追っていた原始人みたいだ。本当は何だ?」 「バクテリアだ」 「バクテリアが人類の祖先か!?」 「だいぶ遠いけど間違ってはいない。前回の全球凍結は7億年前だ」 「少ない生存者の出す二酸化炭素で凍結は終わるのか?」 「全然足りないさ、艦長も余計な事を言ったな」 「それは何年続いたんだ?」 「凍結と溶解を繰り返すサイクルが1億年続いたと考えられている」 「えっ・・・1億年!」 「それより、僕たちが地球に戻ったのは1686年ぶりだ。そんな短期間で全球凍結したのが不可解だ」 「核戦争か?」 「その冬は半年で終わるはずだ・・・が、さらに悪条件が重なったのかもしれない。大きな隕石の衝突とか・・・」 「二酸化炭素固定菌かもしれない。タンクから流出した菌が川や池で生き残り、突然変異して海で繁殖すれば回収は不可能だ。菌が爆発的に増えれば二酸化炭素濃度は短期間で低くなる」 「その可能性もあるな」 「だが、どれも推測でしかない」 「そうだな、僕たちは迷路をさまようしかない」 ハロルドがそう言って笑うと、ジョージが真面目な顔で培養タンクを指さした。
「艦長は嘘を言わないが、都合の悪い事は発表しない」 「何か起こったのか?」 「11人の仲間が減ってバランスが崩れた。二酸化炭素と肥料が減って、藻の活性が落ちた。もうすぐ酸素が減り始める。だが艦長は循環システムを修復する気はない」 「いつまでもつ?」 「せいぜい10日間だな。あとは酸素タンクの残量しだいだ」 「期待できる惑星に行くには十分だ」 「あの星はダミーだ。星に着いて駄目だと知る。食料も燃料も残り少ないのは皆が知っている。さらに酸素まで少なくなると選択の余地はない。例の惑星までたったワープ1回だ」 「仲間が死んだ星は気が進まないな」 「奴等とは別の大陸に行く。もう着陸地点も決まっているはずだ」 「本当か?」 「さまよい歩けばそこにたどり着くさ」
アルフレッドは命令に従って、エミリーの船外カメラからメモリーステック抜いてきた。艦長室に入ると、艦長が鋭い目付きでアルフレッドに聞いた。 「誰にも見られなかったか?」 「はい」 アルフレッドは答えるとメモリーステックをタブレットに差した。船外カメラの映像が流れる。
モニタに日本の宇宙船が映る。画面がゆっくり右へ移っていくとアメリカの着陸船が見えた。さらにカメラが回ると草原が広がる、そこをフレデリックが走っている。彼が止まって振り向いた、途端に矢を受けて倒れる。 「ストップ、ちょっと戻せ。彼が立ち止まった所に何かあるだろう」 艦長の指示を受けて、アルフレッドは画面を操作する。 「拡大します・・・十字架?」 「私にもそう見える。フレデリックはキリスト教徒の墓を見つけた。そこに草は生えていない」 「はい、土が盛り上がっているように見えます」 「アメリカ人が死んだのは、最近だな」 「アメリカ人ですか?」 「日本人にキリスト教徒は少ない。墓は1つだけか?」
アルフレッドは再生を続行すると、草原に男の背中が現れた。 「オスカーだ!」2人が同時に叫んだ。 彼はレーザーガンを撃っている。弓矢を持った3人の原住民の1人が倒れた。オスカーが振り向いて叫び、着陸船の近くに迫った敵を撃った。その直後に倒れた。 「オスカーは着陸船を守ったんだ」 「彼の勇気と犠牲的精神を讃え、冥福を祈ろう」艦長は十字を切ると言った。「奴等の正体を見せてくれ」 弓を構える顔が映るとアルフレッドは呟いた。 「人に似ている・・・いや、サルだ」 「狂暴なサルだ。このことは口外するな。時期をみて私から発表する」 「分かりました」アルフレッドは答えながら考えた。 期待できると言う惑星201光年先の星、そこに移住出来る可能性は非常に小さい。それはこのパイオニア号の過去が証明している。2度続けて、移住可能な惑星が見つかる可能性は、限りなくゼロに近い。 結局、我々は仲間が死んだ星に行くしかない。敵が狂暴なサルだと知れば、クルーは移住を嫌がるだろう。しかし、住めるのはサルの星だと艦長は予想している。艦長が発表するとしたら、そこに着陸した後だ。
チヒロは考える。惑星イズモにアメリカ隊がいれば、チャレンジャー号のチヒロに会える。アスカのチヒロは村人から殺人を要求され、それをチャレンジャーのチヒロへ伝えた。そして、チャレンジャーのチヒロは、核爆弾を使ったアメリカを罰すると言った。その結果を知りたいとアスカのチヒロは思った。チヒロは人間と協調するように設計されていた。しかし、アメリカ隊に対して2人のチヒロは設計とは違う対応をした。それは正しかったのか?チヒロはもう一人の自分と会って互いの・・・
イザベラはロボット犬のコードを抜いた。 「これでスッキリしたわ」 そう呟くと犬を抱き上げた。 「アイラ、久しぶりだね。センはワンパターンで飽きちゃった。楽しかったのは最初だけ」 「ワンワン」 「そうよね、あんたが一番よ。エミリーごめんね」 イザベラはメモリーを抜くとゴミ箱に投げ捨てた。
|
|