第7話 奇才のその後
開戦の三日後、嵯峨は妊娠中の妻を伴って、任地の中立国である東和共和国に赴いた。そこで『甲武国』の駐留武官として『東和共和国』の首都『東都』の大使館に勤務する生活が始まった。
地球圏からの干渉や遼州星系での勢力争いを嫌い、『中立不干渉』を国是とする『東和共和国』に赴任した嵯峨は平穏な暮らしを送っていたとされる。
しかし、開戦の四か月後、彼は勤務先の大使館に入ったまま、突如消息不明となった。大使の部屋に呼びつけられた嵯峨がその部屋から二度と出ることは無かった。部屋の入り口に付けられた監視カメラも入る嵯峨の姿は映し出していたが出ていく彼の姿を映してはいなかった。
嵯峨が『甲武国』に帰還したのは、『甲武国』が属した『祖国同盟』の崩壊から三年後だった。『甲武国』と『ゲルパルト第四帝国』と『遼帝国』で構成された『祖国同盟』は地球軍の支援を受けた『外惑星社会主義共和国連邦』や『西モスレム首長国連邦』、『遼北人民共和国』に敗れ、甲武星もまた外惑星軍の爆撃で焼け野原となっていた。
大戦後期に起きた非戦派の政治家だった嵯峨の義父、西園寺重基を狙った『テロ』事件の巻き添えで、嵯峨を待っているはずだった嵯峨の妻、エリーゼ・シュトルベルグ・嵯峨の墓の前で、呆然と立ち尽くす嵯峨を知人が目撃したと言う。その時から彼の『嵯峨惟基』としての人生は再開した。
嵯峨惟基はその三年後、九歳になった娘の茜を連れて、『甲武国』を出国し、かつての軍人生活を始めた因縁の地、『東和共和国』暮らし始めた。
時は流れた。
その十七年後、平和な時代が遼州星系を包み始めた時代から物語は始まる。
時に西暦2684年『遼州星系』。
地球から遠く離れた植民惑星遼州は、どこまでも『アナログ』な世界だった。
遼州星系を訪れた『地球圏』の人々は遼州星系の印象をそう評した。
そして中でも『東和共和国』は、まるで二十世紀末期の日本を思わせる世界だったと訪れた地球人達はその奇妙な光景に首をひねるばかりだった。 物語はそんな植民惑星の『昭和・平成』な世界のビルの片隅から始まる。
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