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作品名:法術装甲隊ダグフェロン 『特殊な部隊』の物語 作者:橋本 直

第45回   45
第45話 出ていくものの土産のつもりで




「そうだ。機体を見ずに出ていくのもなんだから、うちのシュツルム・パンツァーを見てくか?」

 かなめは振り返りながらそんなことを口にしていた。

「いいんですか?」

「良いも何も、うちの機材だもんな。仮住まいとはいえうちの隊員に見せて何が悪いんだ」

 そのままかなめは階段に向かい歩き始める。誠も速足でその後に続いた。

 階段を降り、倉庫に向かう扉を過ぎて、二人は整備班の領域である倉庫にたどり着いた。

 相変わらず倉庫内にはロックンロールが大音量で流れている。

「西園寺さーんなんですか?」

 先ほど誠を冷たくあしらった大柄の整備班員が打って変わって穏やかな表情でかなめに声をかけてきた。

「こいつの05式を見せようと思ってさ」

「新入りに見せるんですか?こいつもまたすぐにいなくなりますよ」

 整備班員も誠が居つくことなどあてにしていないよ言うように素っ気なくそう言って苦笑いを浮かべた。

「別に軍事機密じゃねえんだからいいだろ?」

 困った表情の整備班員を置き去りにしてかなめはそのまままっすぐ倉庫の中を進んだ。

 倉庫の中で所在投げにたむろしていた整備班員達は、好奇心からくる笑顔を浮かべながら誠達の後ろをついてくる。

「この扉の向こうだ」

 かなめがそう言うと、仕方がないというように先ほどの大柄の整備班員が脇にあったスイッチを押した。

 巨大な扉がゆっくりと開かれ、人一人が通れる程度に開いて止まった。

「省エネかよ」

 開いた場所の狭さに愚痴りながらかなめはそのまま中に入った。誠も仕方なくその後に続く。

 中には大型の人型ロボット兵器、『シュツルム・パンツァー』が三機そびえたっていた。

 誠が養成所時代に使っていた02式と比べると一回り大きく、全高は9メートル前後。ずんぐりむっくりしたその姿は見る者に威圧感を与えた。

 02式に装備されていた左腕に装着できるシールドは無く、腕やコックピット周りの厚みから考えて、重装甲を売りにした重シュツルム・パンツァーであることは、あまりシュツルム・パンツァーが好きではない誠にも分かった。

「三機ってことは……」

「アタシのとカウラのとランの姐御の機体だ。おめえの機体はまだ来てねえんだ。何と言ってもパイロットがすぐ逃げ出すからな。有っても仕方のねえ機体を配備するほど予算があるわけじゃねえからな」

 かなめはそう言いながら一番手前の紅い機体の前に立った。

「こいつの05式特戦先行試作型。ランの姐御の専用機だ……姐御は『紅兎・弱×54』って呼んでる」

 紅(あか)く塗装された機体は圧倒的な迫力があり、さすがに遼南内戦のエースの機体の風格を放っていた。

「『弱』……なんでわざわざ弱いって言うんです?」

 誠はランのネーミングセンスに思わずツッコんでいた。

「姐御が本気を出したら壊れるくらい弱いからだと……どんだけ強い機体だと弱が取れるんだよ……ったく」

 かなめは呆れた調子でそう言った。よく見ると頭部に兎のような模様が白く描かれ、肩には将棋の角が成った時の馬将の駒のエンブレムが描かれている姿に誠は迫力を感じた。

「さすがに『エース』の機体ってところなんですね。専用機ってことは……特別なチューンが施されていたりとか……」

 初めて見る機体の存在感にワクワクが抑えきれない誠をかなめが冷たい視線で眺めていた。

「あのなあ。予算の都合で演習もままならないうちの部隊にそんなチューンをする予算があると思うか?姐御はちっちゃいから普通の機体は乗れねえんだよ!コックピットの椅子に座れねえの!オメエも姐御の車でここに来たんだろうが!あの車の運転席、特別製だったろ?」

 かなめの言葉で誠は我に返った。

 確かにランはどう見ても八歳児で身長は120センチあるかどうかである。普通の機体に乗れないのは当たり前で、当然専用機になるわけである。



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