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作品名:法術装甲隊ダグフェロン 『特殊な部隊』の物語 作者:橋本 直

第41回   第七章 バックアップメンバーの『濃い』メンツ
第41話 奇妙な『相性』



「お前さんはまじめそうだから断るかと思えば素直に飲むとはねえ……これまでのいけ好かない連中とは違うな。バイクを褒められて悪い気はしねえよ。気に入ったよ俺は」

 そう言って笑う島田の手にあるアルミの缶が握りつぶされる。誠はまた変なのに気に入られた事実を悟って、現実から逃避するために残りのビールを飲み干した。

 島田は空き缶を握りつぶすと、クーラーボックスから缶を取り出した。

「今度は缶チューハイ。レモン系が良いね。これをビールとちゃんぽんで飲む。ああ、いいねえ」

 そう言いながら島田は笑顔で缶を開けて、笑顔で誠を眺める。

「一応、勤務中ですよね」

 そう言いながら、缶に残ったビールを飲む。

「新米のお前が気にすることじゃねえな、それは。何かあったら先輩の俺に勧められたと言えば司法局の連中は、まただと言ってみて見ぬふり。そんなもんだって」

 そう言いながら島田はチューハイを飲む。誠の喉はまだ乾いていた。

「まだ飲み足りないみたいだな。でっかいから飲むんだろ?お前が来ると思って用意しておいた。受け取んな」

 そう言って島田はクーラーボックスから瓶に入った酒を取り出す。そして、そのままその瓶を誠に投げた。受け取った誠はじっとその白っぽい液体を眺めた。

「なんですか?酒ですよね」

 誠はとりあえずラベルに書いてあるアルファベットが何語か考えながら見つめていた。

「お前さんの上司の西園寺かなめ中尉殿が大好きなラムのカクテル。モヒート。それをあのメカ姉ちゃんに見せると、ラムのうんちくがうるせえから俺がそいつを飲ませたなんて言うなよ。うるせえんだ、あのメカ姉ちゃん。自分の好きなものは徹底的にこだわるからな」

 誠は瓶を開けて匂いを嗅ぐ。アルコールの匂いに柑橘類(かんきつるい)の香りが混じっている。

「飲めよ。うまいから」

 島田の言葉に勧められて、誠は一口飲んでみた。柑橘類の味のさわやかさと強いアルコールが誠の口の中に広がった。

「アルコール度高いでしょ」

 困った顔を作ってチューハイを飲む島田に顔を向ける。

「高いんじゃない?俺は飲んだことねえからわかんねえや」

 島田は無責任にそう言うと、地面に飲みかけのチューハイを置いた。

「おい、機械は好きか……」

 そう言って島田は自分のピカピカのバイクを見せた。

「嫌いじゃないですよ。メカニカルなものが好きなんで」

 とりあえず話題を合わせようと誠はそう言った。事実ではあるので、その言葉に疚(やま)しさは感じなかった。

「そうか!好きか!やっぱ良いわ、お前。ますます気に入った。パイロットでメカを理解しようとしているのは、あのちっちゃな姐御だけだからな。好きか……好きなんだな」

 そう言って島田は満足げに頷き、自分のバイクのシートをなでる。

「大学もそれで選んだんで」

 確かにそれも事実だった。何かわからないが、何かを作りたい。その為に必要な機械、化学のことを学べる学科に入りたい。その為に理科大にその学科があるので、それなりに勉強して合格した。それもまた事実だった。

「そうか、オメエは理科大だったな……あそこは色々学科がそろってるからな。俺の入った電大は電気系の学科は色々あるが、機械となると……少ないんだ学科が」

 瓶の『モヒート』の味は癖になるものだった。誠はそれを味わいながら、上機嫌の島田を観察していた。

「今、少し俺のこと馬鹿にしてる?俺の方が偏差値高いとか思ってる?」

 島田はチューハイの缶を握るとそう言いながら誠をにらみつけた。

「違います!そんな目してないです!」

 瓶のモヒートを飲み終わった誠は、そう言いながら空いた缶を地面に置いた。

「じゃあ……」

 そう言いながら、島田はつなぎの後ろのポケットから小銭入れを取り出した。

「なんです?」

 島田は立ち上がって小銭入れを脇に挟んだ。そのままバイクに近づいていく。

「何か言いたいことがあるんじゃないですか?」

「ちょっと待ってろ、タバコだ」

 そう言って島田はバイクの前輪の前に置いてあった缶を手に取る。

「タバコじゃないんですか?」

 その缶を眺めて手に取って見回している島田に誠は声を掛ける。

「缶ピー。缶に入ってるタバコ。ほら」

 そう言って島田は白いものを取り出した。タバコが身近なものではない誠にもその白く細長い物体はタバコにしか見えなかった。島田はそれを口にくわえると、別のポケットから取り出したジッポーでタバコに火をつけた。そして、脇に挟んでいた小銭入れの中を見ながら誠に近づいてくる。ニコニコ笑いながら近づいてくる島田を見て、誠は直感で悪いことが起きるようなそんな雰囲気を感じた。

「ここに五円玉あるじゃん」

 そう言って島田は誠に見えるように小銭入れの中から五円玉を取り出して誠の前に取り出す。

「ええ、確かに五円玉ですね」

 自然と誠は手を伸ばす。島田は当然のようにそれを誠の手の中央に置いた。

「五円やる。それでスパゲティーナポリタンを作れ。時間は五秒やる。それで作って俺に食わせろ」

 突然、島田は理解不能な鳴き声をあげた。誠は理解できずにただこういうしかなかった。

「そんなの無理ですよー!」

 明らかに困り果てている誠に島田はタバコの煙を吹きかけた。

「やってもみねえのに、あきらめるな!やりゃあできるんだよ!なんでも……じゃあ数えるぞ。五秒で作れ。1,2、3……」

 島田は右手を出して指を折って数えていく。

「できないですよ!そんなこと!できないと何をするんですか!」

 誠は半泣きで叫ぶ。島田はその表情に満足したように話を続けた。

「んなもん、決まってるだろ?俺がタバコを吸っててこう言ったら……そして、その願いがかなえられない時は当然……根性焼き」

 そう言って島田は咥えていたタバコを手に取る。

「根性焼き……聞いたことはありますが……何をどうするか……」

 誠はどうせ島田のことだから、ろくでもないことをするとは想像しているが、確認のためにそう尋ねた。

「さっきの五円玉を渡したのと同じ要領でこのタバコを手のひらに押し付ける。それが根性焼き」

 島田はそう言うと悪党の笑顔を浮かべながら誠を見つめた。

「それは単なるいじめですよ!」

 もう目の前の不良そのものの島田にはこうしてジェスチャーで伝えなければ理解できない。その思いから誠は大げさに両腕を振り回しながら叫んだ。

「嘘だよー。ビビった?そんなのやるわけないじゃん。気に入ったって言ってんだろ?冗談だよ。おめえ、偏差値高いわりに馬鹿なんだな」

 そう言ってニヤリと笑うと、島田は誠に背を向けた。

「島田先輩!酷いですよ!これじゃあいじめです!いたずらにしても度が過ぎます!」

 誠は本気で怒りながら、歩いてバイクに向かう島田の背中に向けて抗議した。

「なあに、お前を気に入ったのは本当。これはちょっとしたいたずら。俺のいたずらはどうにも度が過ぎるってちっちゃい姐御からいわれるよ。まあそうなんだろうな」

 そう言うと島田はバイクの前にしゃがみこんだ。

 セミの鳴き声に交じってサイレンの音が響いた。

「昼か……弁当はあるか?」

 立ち上がった島田はそう言ってにやりと笑う。

「持ってきてないですけど……コンビニとかは?」

 誠の問いに島田はあきれ果てたという表情をする。

「そんなもん工場の外まで行かなきゃねえよ。まあ、今日は仕出しの弁当が余るはずだから。そいつを食ってけ」

 島田はそう言うと本部の建物に向けて歩き始めた。

「どうもすみません」

「なに謝ってんだよ。オメエはこれまで来た軽薄な馬鹿とは違うんだ。何しろ俺の舎弟(しゃてい)になるんだからな!」

 そう言って誠の肩を叩く島田を見て、誠は少し嫌な予感がした。

「舎弟ですか?」

「そう、舎弟。パシリ、丁稚、下請け。どう呼ぶのがいい?」

 島田は肩で風を切って歩きながらそう言った。

「舎弟、パシリ、丁稚、下請け……どれも嫌ですけど」

「なあに、新人なんて社会に出たらみんなやらされるんだよ、パシリをさ。だから、次の新人が来るまではオメエが一番下のパシリ。さっきの西もオメエの先輩だから。ちゃんと顔を立てろよ」

 上機嫌の島田を見ながら誠は自分がこの『体育会系・縦社会』に取り込まれていくのを感じていた。



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