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作品名:法術装甲隊ダグフェロン 『特殊な部隊』の物語 作者:橋本 直

第38回   第七章 バックアップメンバーの『濃い』メンツ
第38話 特殊な誠の境遇



 男性としても大柄な誠と引けをとらない長身のアメリアは、糸目をさらに細めながら誠を見つめていた。

「まあ、まじめな話はこれくらいにして……誠ちゃんが昨日の今頃何してたか、当ててあげましょうか」

「誠ちゃんって……」

 確かにアメリアの方が年上のように見えるが、さすがに『ちゃん』付けされるのは少々気に入らなかった。

「昨日は誠ちゃんは実家の剣道場をふらりと出かけて近くのおもちゃ屋で戦車のプラモを買いました」

「へ?」

 アメリアの唐突な言葉に誠は驚愕した。

「確かに……今ぐらいの時間に出かけたのは事実ですけど……」

 誠が昨日の昼前に出かけてプラモ屋に寄って戦車のプラモを買ったのは事実だった。青ざめる誠をしり目にアメリアは話を続けた。

「その後近くのショッピングモールに行って、そこのイートインで『信州みそラーメン』を食べたのよね」

「確かに……見てたんですか?隠れて」

 突然、新入隊員に金ダライを落とすような連中である。そのくらいのネタの仕込みはやるだろうと思いながらアメリアを見つめた。

「いいえ、そんな非効率的なことはしないわよ。それに、この十五年でその店に入ったのが355回、そのショッピングモールに行くのが134回なんて情報は足で情報を稼ぐタイプのスパイなんかにはわからないわよね」

 アメリアの言葉に誠は少し混乱した。

「なんです?それ?僕だってあの店に何回行ったかなんて覚えてないですよ!」

 思わず誠は立ち上がっていた。

「ちょっとこれ見て」

 アメリアはそう言うと大きなモニターを誠から見える位置に持ってきた。

 そこにはファストフード店の店内の様子が映っていた。その正面ではブレザーを着た男女が談笑していた。その制服が明らかに誠の出身の高校のもので、そこに映る長身の高校生が誠自身であることが誠にも分かった。

「なんで……高校時代の僕ですよ!これ!」

 叫び声をあげる誠にアメリアは満足げにうなづいてみせる。

「この彼女とは結局デート一回で見事に振られた……これまで彼女らしいのはこの子一人で誠ちゃんが24歳にして立派な童貞だったことも知ってる訳よ、私は」

 ニヤニヤ笑うアメリアを誠は困惑した顔で見つめていた。

「なんでそんなこと……」

「これまでの五人と誠ちゃんの一番の違いはね。誠ちゃんについてはこんな情報を集めている組織があるわけよ。そこが他の五人とは決定的に違う」

 アメリアは落ち着いた様子でうろたえる誠を眺めていた。

「そんな……いつからこんな情報が?」

 誠に聞かれるとアメリアはキーボードをたたいて画面を操作した。すぐに画面がファイルデータの名前が並んでいる画面に変わる。

「一番古いファイルは2660年の8月」

「それ、僕が生まれた時ですよ」

 誠は驚愕した。誠は生誕とともに誰かから監視される生活を送ってきたとそのデータは語っていた。聞くだけ無駄かもしれないと思いながら誠はアメリアの目を見つめた。

「何のためです?僕は普通の遼州人ですよ……そして誰がこんなデータを集めてるんですか?」

 誠の言葉は予想がついていたようで、アメリアは驚くこともなく誠の顔を眺めていた。

「知りたい?」

「そりゃあ……そうですよ」

 いかにもふざけた調子のアメリアを見上げながら、誠は静かにうなづいた。

「じゃあ、うちに残りなさい。そうすればうちの職権で誰がこんなことをしているのか調べることもできるわ」

 アメリアのはっきりとした言葉に誠は静かにうなづいた。

「自分で調べるんですか?アメリアさんの端末の情報がどこから来たくらい教えてくれても……」

「この情報は隊長経由。隊長は元々諜報系の士官だからニュースソースは絶対に秘匿するわよ。自分の運命は自分で切り開かないと」

 どこまでも明るい調子でアメリアはそう言った。

「少し……考えさせてください」

 アメリアに聞くだけ無駄だとわかった誠はうなだれたまま雑談に明け暮れる室内の女子達に目をやった。

「そうだ!次のあいさつ先を教えないとね。隣の建物が『技術部』の倉庫兼作業場だから。そこに技術部長代理で整備班長の島田君ってのがいるの。彼に挨拶してきなさい」

 相変わらず能天気な笑みを浮かべながらアメリアはそう言い放った。

「島田さんですか?」

「そう、島田君。気のいいアンちゃんよ」

 誠はアメリアの言葉を聞くと、肩を落としつつ静かにパイプ椅子から立ち上がった。



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