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作品名:法術装甲隊ダグフェロン 『特殊な部隊』の物語 作者:橋本 直

第27回   第四章 『特殊な部隊』へと向かう
第27話 倉庫と、工場と、将棋幼女



 車はスムーズに、四車線の国道を進む。空調が効いている車内は良いが、外は相当な熱波に襲われているようで、歩道を歩く人々は手持ち扇風機で涼を取っているのが見える。

「とりあえず、あと30分くれーかかる。寝とけ。スカタン。無駄に起きててゲロでも吐いてみろ……殺すかんな!」

 ランはそう言って黙り込んだ。細かく左右に車線変更を繰り返しながら、ランは運転を続けた。

「寝るほど疲れてないですけど」

 誠はそう言って黙り込む。ちらりとバックミラーを見るとランは明らかにそわそわしていた。まるで誠が眠るのを待っているような。そんな雰囲気が感じられた

「眠った方がいいですか?僕」

 空気を読んで、誠は尋ねた。

 車は大きな交差点を通過する。大型トレーラーが増えているのがわかる。内陸工業地帯に入ったという事なのだろう。左右に大きな工場の門がいくつかあった。

「ちょっと『趣味』の関係でな。オメーみたいな馬鹿野郎には理解できない高尚な『趣味』だ。見たけりゃどーぞ。ゲス野郎」

 そう言うと、ランは左手でコンソールに刺さっていたリモコンを手に取った。小さな手にはリモコンは大きく見える。

「なんです、それ?あ、モニターつきましたね」

 見慣れない画面の中で、二人の男が向かい合って何かを挟んで椅子に座っている。誠は不思議に思ってランに尋ねる。

「この前の日曜日のTKHでやってる対局、TKH杯トーナメントの二回戦第五局、木村王将と、斎藤八段だ。見りゃ分かるだろ。目が腐ってんじゃねーのか?ビー玉以下だなその目」

 そう言ってランはリモコンをいじる。すると画面が切り替わり、格子模様のクリーム色の四角い板が表示された。

「囲碁ですか?僕はあんまりよくわかんないですけど」

「ちげーよ、将棋だ。王将ってタイトル。囲碁にあるか……まったく、常識ねーのか、ピーマン頭」

 確かに運転席の左隣モニターに映っているのは大きな将棋盤である。

「こっからがどーもわかんねえんだよな。銀だろ、桂馬。そして、手駒に角……」

 ランはちらちら画面を見ながら運転を続ける。相変わらずランは左右に車線変更しながら、先行車両を追い抜いていく。

「事故起こさないでくださいね」

 ちらちら将棋盤の方に顔を向けるランの後頭部が見える。誠は白けた視線を幼女の後頭部に投げる。

「起こさねーよ。で……返す手が……クソ……そうだよな、この場面で角が後ろにあるってことは……やっぱり張るのは香だよな。ふん、ふん難しーんだよな。次の受けの一手が……」

 もう誠とは話すつもりは無い。ちらちら見えるランの後頭部がそう語っていた。半分意識は将棋盤の方に行っているのに、ランの車は大型トラックの間を制限速度ぎりぎりで縫うように加速していく。

『なんだかなあ……』

 誠は心の中でそう思いながら、流れていく倉庫の建物に目をやった。トラックやフォークリフトが何度となく目に入る。

 ようやく誠は社会人になった実感を感じていた。そして、静かに目を閉じてみた。


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