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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第9回   イッツ・オール・トゥ・マッチ
(イッツ・オール・トゥ・マッチ)
 
 その頃、スタジオではマイケルが歌ったり、ジェイムズがピアノを弾いたり、交代でジェイムズとロナルドがベースを弾いたり、キースとジョーそしてそこにロナルドがギターを絡み合わせながら熱い演奏が続いていた。
 
 「ようし次、何やろうか?そうだ。僕たちに共通する曲があるじゃないか。リチャードがロックの殿堂入りした時にもやったやつ。たしかジョーも一緒だったはずだよね」ジェイムズが曲の合間に切り出した。
「ああ、やったな。『彼氏になりたい』だろ?」ジョーがそう言った瞬間にキースがジャチャン、ジャッジャジャララ、ジャチャン、ジャッジャジャララ・・・とギターをかき鳴らした。
「ノーノー違うよ。キーが違う。これはEだよ。Cじゃない!」ジェイムズが喉から絞り出すように苦しそうな声で演奏を止めた。
「ああん?なんだって?この曲はCだぜ。なあマイケル?」キースも咳き込みながらマイケルに同意を求めた。
「そうだゼィ。おいらが歌う時はCだ。イェーイ」マイケルがいつもようにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「リチャードが歌う時はEだよ。これは僕とジョンが作ったんだから」ジェイムズがさっきよりももっと苦しそうに返した。
「ええっ?何言ってんだ。おめえさんよぉ?これは俺たちの曲だぜ。誰が作ったかなんてよ。そんなの関係ねえ!」またキースはジャックダニエルを少しだけラッパ飲みをして直ぐに咳込んで吐き出した。
「それは違うよ。キース。あれは、たしかぁ1963年の秋だよ。君たちのマネージャーだったアンドリュー・ルーグ・オールダムが僕とジョンを君たちのスタジオに招いたんだ。で、アンドリューが何かいい曲はないかって言うもんだから、その場で完成させたんだよ。だからこの曲は僕とジョンの曲さ」ジェイムズは自分のことに関しては記憶力抜群である。
「ジェイムズさんよぉ。言ってんだろ。誰が作ったかなんて関係ねえんだよ。俺たちが、あんたらの曲をカバーしたわけじゃねえぜ。違うかい?サー・マッカートニー」キースは粋がってまたジャックダニエルをラッパ飲みをして直ぐに吐き出した。
「キース。君はもっとコンポーザーに敬意を払うべきだよ。それこそ違うかい?」ジェイムズも引き下がらない。
「おいおい、もう二人とも・・・待てよ。そんなことどっちだっていいじゃないか。別に。その曲を今からレコーディングするわけでもないし。なあロナルド。ジョーそうだろ?マイケルもどっちだっていいだろ?」リチャードが老人同士の喧嘩を止めた。
「おいらが歌うんならC。リチャードが歌うんならEだゼィイェーイ。もめるんなら腕相撲いや、それは絶対ダメだ!腕立て伏せか腹筋勝負で決めたらいいゼィ」そんなマイケルを横目にジェイムズとキースは睨み合い、それ以外の三人は唖然とした。
「やってらんねえな。相棒、悪いが俺は降りるぜ。こんな自己主張の激し過ぎる奴とは一緒に出来ねえ!」キースはまたまたジャックダニエルをラッパ飲みしたが、今度は上手く飲み込んだ。そしてそのままスタジオから出て行った。

 「あらっキース。休憩?紅茶飲む?スコーンもあるわよ」サリーが声を掛けたが、それには答えずキースが言った。
「サリー。俺のベントレーに電話してくれ」深いしわがより深く、また珍しく目を見開いたキースの顔を見て悪い予感が当たったとサリーは察したが、キースの運転手に電話を掛けて受話器をキースに渡した。
「よう。今直ぐロナルドの家に来てくれ。ええっ何?・・・向かってるって?ええっパティが?・・・じゃあ代わってくれ・・・ええっなんだって?・・・ああ・・・じゃあ」キースは受話器をサリーに返した途端、口を開いた。
「サリー。パティがこっち向かってるって言ってるぜ。いったいどうなってんだ?」キースはさっきの顔とは一変して困惑の表情を見せた。
「そう、呼んだの。パティ。それにジェイムズの奥さんナンシー、マイケルの娘さんのメイそしてバーバラも来るわよ」サリーは毅然と答えた。
 続いてスタジオから腰から下をくねらせながら独自のステップを踏んでいるマイケルを先頭に老人たちがぞろぞろとあふれ出て来た。そして腕組みをしながらあからさまに不機嫌な渋い表情のジェイムズが最後に現れた。
 「みんなぁスコーンあるわよ。食べる?紅茶ならポットに」サリーは努めてにこやかな表情を見せた。
「おいらは、いただくゼィ。スコーンと紅茶。オイェーイ、イングランド!バンザーイ!」マイケルはサッカーのワールドカップでもイングランド戦は必ず観に行く。そして負ける。世間からは「ミック・ジャガーの呪い」と言われイギリスのサッカーファンから恐れられているらしい。
「マイケル。後でメイが来るわよ。久し振りなんじゃない?」サリーが笑顔で言った。
「イェーイ本当かい?ジョージアに居るんじゃなかったのかーい?ジョージア・メイ!ジョージア・メイ!イェーイ!」いつも以上にマイケルはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「ねえ、みんなの奥さんも来るわよぉ!」今度はマージョリーが大声で叫んだ。その姿を見たジェイムズの脳裏にマイケル・ジャクソンと共演した「セイ・セイ・セイ」のPVで「ファイヤー」と叫ぶリンダの姿が重なった途端に昔のバンド仲間や共演したミュージシャンたちとの思い出が一気にあふれ出し自然と眼が潤んだ。そしてティーカップを持って窓際に行き見るとはなしにぼんやりと外を眺めた。

 「ヘイ、ブラザー。バーバラが言った通りになりそうだな。ウオルシュ夫婦がいてくれて助かったよ。今夜はパーティだ」リチャードがジョーの肩をポンポン叩きながら言った。
「ああ、義兄貴。そうみたいだ。後はジェイムズとキースをどう取り持つかだな」ジョーはさんばら髪をかき上げながらそう言ってちらりとロナルドを見た。
「おおっとぉ。俺は遠慮するぜ。もうこりごりだからな。そこはレディたちに任せた方がいいぜ」ロナルドが指を目一杯広げて両手をジョーに向けて顔を左右に振った。
「分かってる。分かってるって。後はバーバラが上手くやってくれるさ」ジョーの代わりにリチャードが答えた。


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