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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第8回   ストリート・ファイティング・マン
(ストリート・ファイティング・マン)
 
 リチャード、ロナルド、ジェイムズ、キースの四人がリビングに行くと一組の夫婦がサリーとおしゃべりに興じていた。
 「やあっはぁ。ジョーじゃねえか。で、そちらさんは?」まだ火が点いていないタバコをくわえたキースが両手を広げ痰がらみな声を出した。
「えへへへ。妻のマージョリーでして。バーバラの妹で俺はリチャードの義弟ってわけでさぁ。キース兄」ジョーがキースではなくリチャードに頭を下げペコペコしながら答えた。
「ああっはぁ。初めましてマージョリー。こんなこと言っちゃあなんだが、とんでもない旦那を持っちまったなあ。ゴッゴホゴホ。ひゃあっは」キースが煙を吐き、咳込みながら言った。
「ところでサリー。マイケルは?」ロナルドがブランデー入りの紅茶を飲みながら聞いた。
「そういえば随分前に出てったきり帰って来ないわねぇ。どこまで行ったんでしょ?まだ走ってるのかしら」サリーが少しだけ心配した。
「道に迷ってるんじゃないか?僕だってここには最高級のロールスロイスで運転手に連れて来てもらっただけだからね。一人じゃ来れないよ」ジェイムズは何かにつけて嫌味な男である。
「ジェイムズや俺と違ってマイケルとロナルドはバンドメンバーなんだから。家くらい分かってるさ。何回も来てるんだろ?」リチャードがサングラスを外してロナルドの真正面に立って聞いた。
「ああいやいや。いやあたしかあ・・・おーんそうだ。前の家は何回か来たけどここは初めてだ。でもその内帰って来んだろ。子供じゃあるめえし」と言いつつロナルドも少し心配になった。
 そしてしばらく時間が経過した時にチャイムが鳴った。
 「ああ、やっと帰って来たわ」サリーが玄関ドアを開けた。

 「遅かったああ、あれっ?」余りの驚きにサリーが後退りした。
「失礼いたします。わたくし共はシティー・オブ・ロンドン・ポリスです。ロナルド・デイヴィッド・ウッド様のお宅ですね」そこには長く黒いヘルメットに伝統的な礼装で左手には皮の黒い手袋を持った警察官が立っていた。
 それを聞いてみんながざわつきながら玄関に集まった。
「そっそうだけど。どっどうしたってんだ?」ロナルドが警察官に聞いた。
「いやぁパトロール中におかしな人がうろついてるという通報が入りまして。まっその方をお連れしたんですが。最初は何を聞いても『おいらさ、おいらさ』しかおっしゃらないので本署に問合せしたらですねぇ。そうしたら本当に『サーの称号』をお持ちのマイケル・フィリップ・ジャガー様だったんです。『おいら、サー』とおっしゃっていたんですね。で事情をお聞きすると道に迷われたそうなんです。おーいっお連れしろ」若い警察官がマイケルをパトカーから降ろして連れて来た。
「間違いございませんね」二人の警察官が揃って背筋を伸ばしてから目線を残したまま少し頭を下げた。
「ああ、そう間違いない」ロナルドがマイケルの手を引いた。
「それでは失礼いたします」今度は二人の警察官が敬礼し深々とお辞儀をした。
「あっありがとうございました。どっどうも」サリーもみんなを代表して深々と頭を下げた。

 「イェーイ参ったゼィ。でも何十年振りかにパトカーに乗ったイェーイ。しかも手錠掛けられずに乗ったのは初めてだゼィ!」マイケルが飛び跳ねた。
「あぁあ、あららぁ、もう。ったく面倒掛けんなよ」ロナルドが両方の手を交互に上げ下げしながら言った。
「それはすまん!シャワー借りるゼィ」マイケルはそそくさとバスルームに消えた。
「ふうぅ。ほら、僕の言った通りだったじゃないか。まあ何事もなくてよかったけど。しかしマイケルにも『サーの称号』の重みを感じてもらいたいもんだね。そう思うだろ?リチャード」ジェイムズが呆れてため息をついた。それを見てリチャードは目を閉じてうつむいた。
「あぁはっはぁ。俺たちゃそんなもんなくてよかったなぁ相棒」キースがロナルドの左肩に右肘を乗せ、そう言って屈託のないしわくちゃな笑みを浮かべた。
「へえ、そんなもんなんだ。俺たちアメリカ人には分かんねぇし、キースも気にしちゃあいねぇんだな。でも先が思いやられるぜ」ジョーがマージョリーに小声で呟いた。
「お家では、あんな言い方してごめんなさいジョー。たしかにとんでもない連中だわ。本当に先が思いやられるわね」マージョリーもジョーにつくづく同情したようだった。

 シャワーを浴び終えたマイケルがバスタオルとお尻を振りながら叫んだ。
 「おいらがミネラルウォーター飲んだらスタジオ入ろうゼィ!」
「君は本当にタフなんだねぇ。パトカー乗せられても全然平気なんだ」ジェイムズは左手に持っていたティーカップの紅茶を飲んだ。
「ふあっはぁ。ジェイムズ、マイケルってのはそんな奴なのさ。じゃないと俺たちみたいなモンスターバンドのリーダーは務まらねえ」キースがジャックダニエルを少しだけラッパ飲みをして直ぐに咳込んだ。
「じゃあスタジオ入るか。なあリチャード。ジョーも行くぜ」ロナルドの言葉に重い腰を上げたリチャードがジョーの肩をポンと叩いて背中をさすり、ジョーは脇をしめたまま両手を広げ、口をへの字にしながら首を傾けた。

 六人がスタジオに行くのを見届けたサリーとマージョリーはテーブルに着いた。
 「マージョリー、お茶入れ直すわ。スコーンでもいただきましょ」
「ええ、ありがとう。サリー、あなたも大変ね。とんでもない人たちだわ。イギリスのミュージシャンってみんなああなの?」マージョリーはサリーに労いを込めてやさしい口調で尋ねた。
「ふう。いや、みんなではないと思うけど。あの人たちは特別なんじゃない?でもおかしいのはジェイムズとマイケルでしょ?案外キースはまともよ。ジマーマンとかいう人は相当に怪しかったけど。でもあの人はアメリカ人だわ。ジェフリーなんかは常識人だったし」サリーが左肘をテーブルにつきその手の甲に顎を乗せて右手でティーカップをいじりながら言った。
「そういえばジマーマンのことジョーがぼやいてたっけ。それとマイケルっておかしいというかバカなんじゃないの?」マージョリーが両手を顔の位置まで上げ手の平を見せながら大きな目を丸くして肩をすくめた。
「それがねぇそんなことないのよ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス。あのロンドン経済大学に行ってたし、経営能力も相当高いんだってロナルドが言ってたわ。代理人や弁護士にもアドバイスするくらいなんだって。ただあなたの言うように言動も行動もバカにしか見えないけどね。紙一重ってとこかしら。でも、もしかしたらバカを装っているのかもしれないわ」サリーはスコーンを紅茶で流し込みながら語った。
「へええぇ、そうなんだ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスって凄いじゃない。JFKも在籍していたってアメリカでも有名よ。人って見かけによらないものなのね。でも何考えてるのか分かんないし、厄介者には違いないわ」今度はマージョリーもスコーンを紅茶で流し込みながら言った。
「そりゃそうね。でも一番厄介なのはジェイムズよ。いきなりバラの花束持って来たり、自慢話ばっかりだし、マイケルとは大丈夫そうだけどキースとは何かもめそうな気がするわ」サリーは二つ目のスコーンを口に放り込んだ。
「だったらジェイムズの奥さんナンシーとキースの奥さんパティも呼んでおいた方がいいかもしれないわね」マージョリーも同じく二つ目のスコーンを口にした。
「それか、いっそのこと、この前に集まったバーバラとマイケルの娘さんメイも呼んじゃおうか」とにかくサリーはこのバンドをまとめて世界を驚かせたくて仕方がなかった。
「ええ、それがいいわ。そうしましょ。特にお姉さんバーバラは心強いわ」マージョリーの顔も再び輝いた。
 
サリーはさっそく四人に電話を入れた。


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