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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第4回   ビコーズ/ダーティ・ワーク
(ビコーズ/ダーティ・ワーク)

 そう遠くはないロナルドの家に義兄弟二人が着いた。
 「ようお邪魔するよ」リチャードが鍵の掛かっていないドアを大きく開けた。
「なんだよう?ありゃジョーじゃねえか。そういやあマージョリーにも連絡するって言ってたな」ロナルドがグラス片手にふらふらとソファーから立ち上がった。
「お前、昼間っからストレートで。氷くらい入れろよ。つまみも無しで」リチャードが呆れ顔で言った。
「うるせえなあ。つまみはこいつさ」いつもと同じように右手の中指と薬指の間にタバコを挟んでロナルドが煙を吸い込んだ。
「ヘイ、ブラザーお前もこれでいいかい?氷は冷蔵庫だな」リチャードが二つのグラスに氷を入れてスコッチを注いで一つをジョーに渡した。。
「俺ん家には今さぁレディたちが集結して世界を驚かすんだって言って真剣にミーティングしてるんだよ。何でお前そこまで頑なに拒否するんだよ」リチャードがグラスの氷を揺らせて口に持って行きながらゆっくり、はっきりとロナルドに言った。
「俺もついさっきその話を聞いて身震いしたぜ。やってみりゃどうだい?」ジョーがざんばらな長いブロンドの髪を左手でかき上げながら言った。
「ふうーっ。嫌なんだよ」何かを払いのけるような仕草をしながらロナルドが呟いた。
「だから、何が嫌なんだって?」リチャードがグラスをソファーの前の背の低いテーブルに静かに置いた。
「もめたくねえんだよ。もう」ロナルドはグラスに残っているスコッチを一気に飲み干した。
「もうもめたくない?ええっ誰と?いつ?」リチャードがロナルドのグラスに少しだけスコッチを注いだ。
「マイケルとキースがだよ」ロナルドがため息交じりで呟いた。
「ええっマイケルとキースが?いつのことだよ。それって?」リチャードがロナルドの左肩に軽く右手を乗せた。
「随分前だけど・・・カラフルなシャツ着せられたジャケットで最悪のアルバム。まさにダーティ・ワークってやつさ」ロナルドがうなだれ呟いた。
「あっそう言えばそれってライブ・エイドの頃じゃねぇか?なんかそんなこと聞いたな。俺はソロアルバム出したばかりだったはずだ。うん聞いた。聞いた」ジョーもグラスを氷だけにした。
「そうさ。マイケルは今年死んじまったティナ・ターナーと。俺と相棒はジマーマンと別々にステージ立ったんだ。同じ場所にいたのに・・・だぜ。あんなこと二度と味わいたくねえんだよ」ロナルドが右手を大きくゆっくりと振った。
「その頃のことって俺は知らないけど何十年も前のことじゃないか。今度はそうはならんさ」リチャードが今度はジョーのグラスにもスコッチを少し注ぎながらロナルドをたしなめた。
「やだやだ。あん時、俺が二人を取り持とうとしたら相棒から何て言われたと思う?『おめえは黙ってろ。雇われメンバーのくせに!』って言われたんだぜ。思い出したくもねえ。ドラムのチャールズがいたから何とかなったけど・・・こんな話したくもねえ。だから嫌なんだよ」またロナルドがグラスを空にした。

 「まあまあ落ち着け。マイケルもキースも八十なんだぜ。ジェイムズだって。みんなもめるわけないさ。俺もいるし、こうやってジョーも来てくれたんだ。なっもう後わずかしかない人生じゃないか。楽しもうよ。世界中が大歓迎してくれるんだぞ」子供向けで青や緑や赤の色取り取りのおもちゃの機関車が出て来るテレビ番組のナレーションのように優しくリチャードが語り掛けた。
「はあぁあっ。しつこい爺さんだな、あんた。少し注いでくれよ」言われた通りリチャードが注いだグラスを今度はゆっくりと喉に流し込んだ後、ロナルドが呟いた。
「分かったよ。ったくあんたにゃ負けたよ」
 
 バーバラに言われた通りリチャードとジョーはロナルドを連れて家に戻った。


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