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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第2回   ユー・キャント・ドゥ・ザット
(ユー・キャント・ドゥ・ザット)
 
 数日後、老人は昼近くに起きシャワーを浴びた後、丁寧に髪の毛をドライヤーで乾かした。仕上げに前髪をワックスでツンツンとまたもや丁寧に立てた。
 「ロナルド、電話よ」まだまだ老人には程遠い妻のサリーが呼んだ。
「えっ誰だあ?」ロナルドはタバコに火を点けながら面倒くさそうに受話器を持った。
「ああん、またあんたか」ロナルドがサリーに向けて肩をすくめた。
「ええっ今夜?・・・ああ、空いてるっちゃあ空いてるけど、この前の話の続きは御免だぜ。それと出掛けるのは面倒だな」ロナルドはタバコの煙を思いっ切り受話器に吹きかけた。
「何?家に来るって?・・・ちょっと待てよ。カミさんに聞かなきゃ」ロナルドは受話器を一度テーブルに置いてからサリーに素早く聞いた。
「いいってよ・・・でもホントあの話は無しだからな!」ロナルドはタバコを不機嫌そうに灰皿に押し付けた。
 
 夕方、ツンツン頭の老人の家のチャイムが鳴った。
 「いらっしゃい。あらぁっバーバラ。お久し振りねぇ。どうぞ、どうぞ入って」サリーが客人を出迎えた。
「おお、サリー。相変わらずお美しい。ロナルドにはもったいないよ」サングラスを下にずらせた老人が家の中を覗いた。
「何言ってるのよ。バーバラだってとても素敵で綺麗よ。リチャード、あなたにはもったいないわ」サリーは一般人ではないバーバラを見て本当に美しいと思った。
「おいおい、カミさん連れて来るなら言っておけよ。やあ、バーバラ。ほらっこっちこっち」髪の立った老人はしわだらけの顔を益々くしゃくしゃにした。
 二組の夫婦の楽しい宴が佳境に入った頃、バーバラが口火を切った。
「ところで。ねぇあなたたちいつからバンドやるの?」それを聞いた家主の老人が客人の老人を睨んだ。
「えっ何?なんのことだい?バーバラ」ロナルドがとぼけたポーズを見せた。
「あなた演技が下手だわロナルド。とてもじゃないけど俳優は無理ね。通行人が精一杯ってとこかしら」バーバラはボンドガールを演じたこともある有名女優だ。
「何?何?何?」目をまん丸に見開いた一人若々しいサリーが前のめりになって話に乗って来た。
「くっそー担ぎやがったなあ。てめえ、もうその話はしねえって言ったじゃねえか!」ツンツン頭から湯気が立つほど興奮しながらロナルドが叫んだ。
「だから俺は何も言ってないだろ?」サングラスの老人はしてやったりという顔を見せてニヤついて返した。
「おんなじことだろうがあ!バーバラに言わせやがって」ロナルドが火の点いていないタバコを持った右手と左手を交互に上げ下げしながらもう一度叫んだ。
「ええっ何?なんの話なの?」サリーは興味津々に顔が輝き出した。
「私が話すわ。いいわね」黒いロングヘアに大きな瞳の女優が夫に視線を送ってからサリーの目を見つめて語り始めた。
「サリー。あのね、あなたのロナルド、マイケル、ジェイムズ、キースそして私のリチャードがバンド組むって話なの」それを聞いたロナルドはせっかく立てた髪をなでおろしながら、いたずらがバレてしまった子供のような顔を妻に向けて言った。
「サリー。なっ、そんなの無理だろ?君もそう思うよなっ。無理だって」ロナルドは先ほどまでの勢いを完全に失っていた。
「何言ってるのよ。面白いじゃない。バーバラそれってもしかしてビートルズとローリング・ストーンズが合体するってこと?」サリーの瞳はもうキラキラに輝いていた。
「そうね。そうなるわ。実現すればね」バーバラは背筋を伸ばして真剣な面持ちで言った。
「なあぁんだ。決まったわけじゃないんだ」サリーの表情は瞬く間に曇っていった。
「だったら実現させればいいんじゃない?」今度はバーバラが輝き始めた。
「そっかぁ。私たちも協力して実現させればいいんだ。ロナルド、顔を上げなさい。やるのよ。世界中がビックリするわ。大騒ぎよ。もうこうなったら私たち奥さん同士も結束しなきゃね」サリーはうつむている夫をたきつけるように手を叩きながら大きな声で言った。
「そうよ。サリー。私はジェイムズの奥さんナンシーと連絡取るわ。あと妹のマージョリーにも」
「ええっ?マージョリーは関係ないだろ。ジョーの奥さんなんだから」リチャードもさすがにサングラスを外しながら呆れた顔を見せて妻に言った。
「念のためよ。念のため。役に立つかもしれないわよ」バーバラは悪役を演じているかのようにニヤリとした。
「じゃあ私はまずキースの奥さんパティに連絡するわ。マイケルの奥さんって今誰だっけ?ジェリーは何年か前に別れたし、でもちょっと前に子供生まれたわよね。ロナルド知ってる?」サリーの問い掛けにロナルドの顔はもう血の気を失い首を振ることしか出来なかった。
「確かぁメラニー・・・メラニー・ハムリックよ」バーバラが言った。
「ブラボー。君は凄いな。そして今でもとても綺麗だ。愛してるよ」客人の老人とバーバラがキスをした。それとは逆にもう一人、家主の老人はタバコに火を点けようしたが手が震えて口にくわえたまま凍り付いていた。

 それからしばらくしたある日の夜、ロナルドは目の前の食事に手を付けずにスコッチが入ったグラスの中の氷を見つめていた。
 「ロナルド。冷めちゃうでしょ。おいしいわよ。それとも私の作ったもの食べたくないの?」
「いや、そんなことはない。食べるよ。今食べようとしたところさ」うつむいたままロナルドはナイフとフォークを手に取った。
「あのさあ、俺、絵を描きたいんだよ。曲作る気になれねえし別にバンドやらなくてもいいんだけどよぅ」ロナルドは上目遣いに力なくサリーに訴えるように言った。
「何言ってるの!もう決めたのよ。もう走り出したの!バーバラとも話進めてるんだから」サリーは強い口調でロナルドを急き立てた。
「ええ、はあ、やんなきゃダメ?」
「ダメッ!や・る・のっ!分かったぁ?」あの日の後、サリーはパティとも話をしてメラニーの連絡先も探り当てたのでバーバラと奥さん同士の打ち合わせをいつ、どこで行うかを決めようとしていた。


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