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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第12回   ウイ・キャン・ワーク・イット・アウト
(ウイ・キャン・ワーク・イット・アウト)

 ロナルドとサリーがゆっくりとくつろいでいた時にチャイムが鳴った。
 「へえ、思ったより早かったわね。マイケル。それともリチャードとジョーかしら」サリーが玄関ドアを開けるとそこにいたのはナンシーと運転手に伴われたジェイムズだった。
「ワァハァー、クー、トゥ、ゲー、ザァー、ハアァー、ハァー」
「朝起きてからずっとこうなの。なんか『夢見たあぁ』とか『せいぼー、まありーさー』とかわけ分かんないこと言いながら『ロナ、ロナ・・・』ってどうやらロナルドの家に行くって興奮しっぱなしなのよ。で『ロナいく、ロナんちー』って言って。心配だから付いて来たの・・・」そう説明したナンシーと運転手の肩に寄り掛かるというよりもぶら下がったジェイムズの姿は尋常ではなかった。

 「まあ、とにかく入って。ほらっソファーに。ロナルド、肩貸してあげて」サリーが冷静に対応した。
「おいおい大丈夫か?ジェイムズ。しっかりしろよ。ああっもしかして・・・いい歳してなんかやったんじゃねえだろうなあ。ええっ?おい!」ロナルドが明らかに異常な状態のジェイムズをやっとソファーに座らせた。
「ああ、これって過呼吸よ。危ないわ。ロナルド、そこの紙袋かぶせて!」サリーがキッチンのカウンターに置いてある買い物の紙袋を指さした。
「大丈夫か?そんなことして本当に。死んじまうんじゃねえか」と言いながらロナルドがジェイムズの頭から紙袋をかぶせた。
「あああぁ!ひゃあ!・・・はああ、はあ、はあ、はぁ、はぁ、ふう、ふぅ、ふー」
「ホントだ。落ち着いて来たぜ。もう取ってもよさそうだな。ほーい」ロナルドは内側が湿った紙袋をジェイムズの頭から外した。
「ジェイムズ、大丈夫?はい、お水」サリーがコップ一杯の水をジェイムズに両手で持たせた。
「落ち着いてジェイムズ。ゆっくりね。ゆうっくり、ゆうっくり飲むのよ」ひざまずいてジェイムズの膝に手を添えているナンシーが飲むタイミングとペースを作った。
「あー、はぁー、ふー」ジェイムズは言われた通りゆっくりとコップ半分ほど水を飲んだ。
「大丈夫そうね。よかった。ありがとう。サリー、ロナルド。助かったわ」今度はナンシーがゆっくりとジェイムズの左隣に座って右手を夫の左太ももにそっと置いた。
「びっくりさせるぜ。こっちが死んじまう。おい、ジェイムズ、大丈夫か?」ロナルドもまだ目を丸くしていた。
「ああ、はぁ、すまない。ロナルド、あっ、あっ・・・」ジェイムズはまだ完全には元に戻っていない様子を見せ、その姿を心配そうに五十前後に見える上品な顔立ちの運転手が玄関から少し入ったところからその状況を見つめていた。
「運転手さん、ほらっこちらへ。どうぞ座ってお茶入れますから。さあどうぞ」サリーがテーブルの椅子を引いて運転手を誘った。
「申し訳ございません。お気遣いいただきありがとうございます」運転手は音を立てずに静かに座った。
「サリー、ありがとう。運転手さん、ペパーさんておっしゃるの。ジェイムズが名前が気に入ったって。私がジェイムズと出会う随分と前から運転手していただいてるのよ」ナンシーが運転手を紹介し、そのペパーという運転手は立ち上がって帽子を取り深々とお辞儀をした。
「へえ、そうなんだ。ご苦労様です。ゆっくりなさってくださいませ。ペパーさん」サリーはティーポットから運転手の前のカップに紅茶を注いだ。
 
 やっとその場が落ち着いた時にまたチャイムが鳴った。
 「ロナルド、出てくれない?もう私、玄関ドアを開けるのが怖いわ」頷いたロナルドが頭をかきながらドアをゆっくり開けた。
「ふわっはぁ。ロールスロイスが停まってるじゃねえか。ジェイムズだな。やぁはっはぁ」ジェイムズの車の横にベントレーを停めたキースがご機嫌な声を出した。
「よう相棒。一人かい?」ロナルドがソファーに座ってるジェイムズを心配そうに見ながらキースに聞いた。
「やっはぁ、マイケルと一緒だったんだがな、奴が少し走るって言って手前で降りたんだぜいはっはぁ」まだ火の点いていないタバコを左手の指に挟んだキースが言った。
「おいおい、大丈夫か?この前みたいに迷子になんねえだろうな。ったくもうよぅ頼むぜ、相棒」両手を上げ下げしながらロナルドがぼやいた。
「いやっはぁ。大丈夫だ。ほうらっ見えるだろ?来やがったぜ」キースがタバコを持った手で指さした方向を見ると遠目には五十年前の姿となんら変わらない世界最強のロックシンガーが飛び跳ねながらこちらに向かって来た。
「オーイェーイ、オーライ!」マイケルは玄関に着いてもまだぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「キース、そんなニヤニヤしてないでこっちに座れば」サリーが未だ視点が定まらないジェイムズと付き添う介護士のようなナンシーが座っているソファーと低いテーブルを挟んだ向かいのソファーにキースを誘った。
「マイケルも、ほらこっち」サリーがとびっきり元気な老人にも声を掛けた。
「オオー、イエスッ!」マイケルが飛び跳ねた勢いそのままでソファーに座り込んだのでキースが転げ落ちそうになった。
「おーほっほ、危ねえじゃねえか。ヤシの木じゃねえんだからよぅマイケル、ふぁはっはぁ」キースが思い切りくしゃくしゃな顔を見せた。
「すまんっ。キース!イエーイ。オー、ジェイムズ。イエーイ」マイケルは一度座ったソファーから飛び上がった。
「ハーイ。マイケルにキース。ちょっとジェイムズは休憩してるの」放心状態のジェイムズに代わりナンシーが答えた。
「やっはジェイムズ、ううん目がうつろだなっはぁ。まさか、おめえさん、ええっ?いい歳してよおぅ」キースが相棒と同じことを言った。
「いや、違う、違うの。ちょっと変な夢見たっていうか、まだ寝ぼけてるだけなの」ナンシーがその場を取りつくろった。
「ハーイ、キース。何飲む?ジャックダニエル?マイケルはミネラルウォーターでいいわね」サリーが新しく入って来た二人の気を逸らせるためにわざと大きな声で言った。
「ふぁっは。いや俺は紅茶もらうぜ。こいつは、いつもの水さぁはっは」キースがまた顔をしわくちゃにした。
 そろそろ作者も意味のない会話に飽きたので、チャイムを鳴らすことにした。そしてこれ以上登場人物を増やすと話が終わらないのでリチャードとジョーに来てもらった。
 「いやぁ待たせたね。もうみんなお揃いじゃないか。これで話が進むよ。よかったな」これは作者に向けたリチャードの声である。

 「ちょっといいかな」落ち着きを取り戻したジェイムズが絞り出すような声で語るというよりも呟き始めた。
「昨日さぁ。うぅん夕食の後かな。連絡があって。大昔にバンド。そう僕が初めて組んだバンドなんだ。クオリーメンの前さ、だからジョンに出会う前だよ。その時に一緒にやってたシンガーが亡くなったって・・・もう何十年も会ってなかったんだけどね。辛いよ。だって一番、最初だったからね。今でもよく覚えてるよ。ギターがちゃがちゃ弾いて歌ってたのを。それに最近は特に多いよね。チャールズに続いて奥さんのシャーリーまでも。そしてロニーと元夫のフィル・スペクター、あのジェリー・リー・ルイス、ジェフ・ベック、ティナ・ターナー、デヴィッド・クロスビー、ロビー・ロバートソン。他にも。みんなの知り合いもいたんじゃないかな。それから少しお酒を飲んで眠っちゃたんだ。するとさぁ夢に出て来たんだよ。聖母マリアが・・・そしてこう言われたんだ・・・Work together on this task(みんな団結して一丸となって取り組みなさい)って。目覚めた時、直ぐにやらなきゃロナルドの家に行かなくちゃってね。で、居ても立っても居られなくて、あんなに興奮しちゃったんだ」そしてジェイムズの瞳は潤んで声も震え、その話す様子は自分自身の言葉を確認するようにゆっくりとしたものだった。
「そうか、そうだったんだな。ジェイムズ、手荒い真似して悪かったな。すまねえ」ロナルドは、うん、うんと頷き何か熱いものがこみ上げて来るのを感じていた。
「それでいいかい?ロナルドには悪いんだけど、ソロアルバムじゃなくて、せっかく集まったんだからみんなのアルバムにしないか?ジョージがやったトラヴェリング・ウィルベリーズみたいだけど。どうかな?」ジェイムズは先日来、自己主張の激しさはなくなり、少し下からみんなの顔を覗き込むような言い方になっていた。
 
 すると左の手を右の手の平にリズムよく何回か叩いたリチャードが叫んだ。
 「ブラボー、ブラボー!待ってたよ。その言葉。そう来なくちゃ。なっロナルド、ブラザーどうだい?ジェイムズに賛同だ」
「やぁはぁっはぁ、こりゃあ傑作だぜ。俺たちが一緒にぃ・・・やぁはっは。なあマイケル?」キースはタバコの煙を吸い込んでは咳込み何度も首を振りながらこれ以上は、しわがくしゃくしゃになりようがないほどの笑顔を見せた。
「オーイェーイ。アルバム作ろうゼィイェーイ」マイケルはすでにキースの右肘が左肩に乗せられていたのでソファーにお尻を擦り付けた。

 そしてアルバム制作が順調に進んでいたある日。休憩で皆がソファーに腰かけていた時にまたジェイムズがお調子者振りを早くも再発させた。
 「いい感じで進んでるね。じゃあスタジオを変えて最高の環境でやってみないかい?それとプロデューサーはどうする?なんなら僕がやろうか?」ジェイムズが左手を少し上げた。
「おめえさんよぅ」と言ったキースが顔をこわばらせた時にマイケルが叫んだ。
「イェーイ、ベイベ!リチャードに決めてもらおうイェーイ。リーダーはリチャードだゼィ。どうだい?イェーイ」そのやり取りを見てサリーは思った。やはりマイケルはバカを装っているだけだと。
「俺もいいぜ。リチャードに決めてもらおう。みんなじじいだけど、一番爺さんだしな。いいだろ?相棒」ここは丸く収めるためにロナルドも懸命だった。
「ふぁはっはぁいいぜ。リチャードなら。それでぇゴホゴホゴッホ」キースはまたもやタバコをふかして咳込んだ。
「ええっ俺がかい?いや、うん分かった。いいかい?それで。ジェイムズ?」リチャードがサングラスを外して正面にいるジェイムズに微笑んだ。
「もちろんさ。意義なしだよ」ジェイムズは初め少し気まずそうな顔を見せたが、直ぐに笑顔でリチャードに握手を求めた。

 「じゃあ、こうしよう。もう少しここで曲を固めたらスタジオを変えて。そうだなプロデュースはぁ・・・これはちょっと時間もらうよ」リチャードはサングラスをもう一度掛ける前にジョーに視線をちらっと送った。


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