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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第11回   ジグソー・パズル
(ジグソー・パズル)
 
 数週間後。ロナルドの家にはため息をついたり、あくびをしたり、寝転んでタバコを吸ったりする三人の老人がいた。
 「あのパーティー以来、誰からも連絡来ねえじゃねえかよう」ロナルドが昼間っからスコッチ片手に嘆き出した。
「ううん、そうだな。バーバラが上手くやってくれたし直ぐにでもスタジオ入る感じだったのにな。でもまあ、ちょっとあの日ははしゃぎ過ぎたんだ。疲れてるんじゃないか。みんな歳だしさ。もう少し待ってみようよ」リチャードは内心穏やかではなかったが、発案者として平静を装い極力明るい声を意識した。
「俺もうマジで帰るぜ。別にいなくたっていいんだからよ。だろ?義兄貴」ジョーがブロンド髪を何度も何度もかき上げた。
「ブラザー。まあそう言うな。もうメンバーみたいなもんなんだから。一蓮托生さ」またもやリチャードお得意のなだめ方、ジョーの肩をポンと叩いた。
「あぁあったくもう。ん?いや待てよ。そうだ。曲作れよロナルド。もうこうなったら本気でソロアルバム作ろうぜ。セッションも飽きちまったんだよ。きっと奴らもそうだ。そうに違いない。うん、うん」ジョーが初めて積極的な意見を出した。
「ヘイ、ブラザー。いいこと言うじゃないか。さすが俺の義弟だ。そうしよう。それがいい。なっロナルド。俺たちも手伝うよ。曲作り」リチャードがサングラスを外して両手でピースサインを出した。
「ええぇ。ううん、そうかぁ?おーん、いやいや、そうだな。そうかもな。でもこんなとこでダラダラしてても作れねえぜ。気分転換が必要だ。ちょっと散歩でもしてみるか。よう付き合ってくれよ」ロナルドは髪を適当にくしゃくしゃにしてサングラスを掛けて革ジャンを羽織った。
「ああそうだな。分かった。天気もいいしブラブラしてみるか。ヒア・カムズ・ザ・サンかグッド・デイ・サンシャインって感じだな。行こうブラザー」リチャードがサングラスを掛け直してジョーに言った。そして頷いたジョーもサングラスを掛けた。
「サリー。ちょっと外行って来るぜ」ロナルドがサリーに声を掛けた。
「あら散歩するの?ロナルド。珍しいわね。でも迷子にならないでね。パトカーはもうこりごりよ。小石でも落としながら歩いたらどう?」サリーがにこやかに送り出した。

 サングラス姿の老人三人が外に出たが、はたから見ればさぞかし異様な光景だったに違いない。
 「小石?グリム童話じゃあるめえし。うん?あっ一曲出来たぜ。スモール・ストーン・ブルース!」さっそくロナルドが叫んだ。
「いいじゃねぇか。その調子だロナルド。いやぁ外出てみるとここってなかなか静かで美しい街並みだなぁ。そうだビューティフル・ストリートスケイプってのはどうだい?」ジョーがアイデアを出した。
「おいロナルド。ちゃんとメモしておけよ。何か書くものあるかい?」リチャードがメモ帳に書き込む仕草を見せた。
「やっぱあんた古い人間だな。二十一世紀になって何年経ってると思ってんだよ。今はこれだろうが」ロナルドがスマートフォンを革ジャンのポケットから取り出してリチャードの大きな鼻にくっつけんばかりに近づけた。
「もういいって。しかしなるほど。そんな時代だな今は。でも昔はそんなものどころか家に固定電話一つしかなかったし、音楽聴くんだってもっぱらラジオばかりでさ、レコード買う金なんてなくてよく友だちから借りてたよ。バディ・ホリ―だったかなぁ返してないのも結構あるな。そういやぁジョンがいつもペギー・スー歌ってたのを思い出すよ」リチャードがサングラスを外して陽の光を全身で浴びるように両手を広げて空を見上げてかすかに「ジョン・・・」とだけ呟いた。
「俺ん家は兄貴がいたからな二人で金出し合ってレコード買えたからまだマシか。あんたは一人っ子だったよなあ。でもよお黒人ブルースとかチャック・ベリーやリトル・リチャードなんて買おうにもどこにも売ってやしねえんだから。よしんば手に入ってもあんたが言う通りダチに貸したら最後、戻って来やしねえ。ジョーはアメリカだから簡単に手に入ったんだろ?」ロナルドがジョーに聞いた。
「それは・・・ううぅん。レコードかぁ。そうだな。でも俺はウディ・ガスリ―なんかのカントリーから入ったから。ブルースを聴き出したのはずっと後のことだな」ジョーはロナルドの質問の答えにはなっていないとは思いつつ1950年代のイギリスとアメリカの若者文化の違いを今さらながらに感じていた。
 
 小一時間の散歩だったが、七つ八つ曲のアイデアが生まれた。
 「少し休憩したらスタジオに入ろうよ」リチャードは直ぐにでも曲作りを始めたかったが、自分を含め老人たちにはしばしの休憩が必要だと考えた。
「お疲れ様。みんな紅茶でいい?」サリーが老人たちを気遣った。
「いや、俺はスコッチ、いやいやビールだな。そのまま、ああビンのまま。おーん」
「ロナルド。最近言葉遣いが変よ。なんていうか何かクリケット?みたいなスポーツで虎のマークのチームの監督みたいな・・・リチャードもビールにする?ジョーは?」サリーがキッチンから振り向きながら少し首を傾けて聞いた。
「俺は紅茶をお願いするよ。多分、夜になったらビールかワインでもいただくから」リチャードはまだまだ体力に自信はあったが歳相応の態度を示した。
「俺はよぅ悪いんだけどコーヒーもらえねぇかなぁ」申し訳なさそうにジョーが弱々しく言った。
「えっ?あっそうかごめんなさい。ジョーはアメリカ人だったんだ。紅茶ばっかりで。気付かなかったわ。今まで無理してなかった?」今度はサリーが申し訳なさそうに言った。
「いや、そんなこたぁねぇよ。アメリカ人でも紅茶は飲むさ。ニューヨークのハーニーアンドサンズってのは有名だし。気を遣ってくれてサンキュー!サリー」ジョーが笑顔で言った。
「ありがとう。あなたって優しいのね。ジョー」サリーも微笑んだ。
「ええ、えっへん!」そのやり取りを聞いてロナルドが咳払いをした。
「妬いてるみたいだよ。サリー。先にビール持って来てあげたら」リチャードが顎鬚を触りながらニヤニヤしていた。

 その後、三人はスタジオで曲作りを始めた。
 「この三人でやるの初めてだよな。久し振りに曲作るけど新鮮でいいじゃねえか。でも詩が上手くはまらねえな。とりあえず詩抜きでも曲を仕上げちまおう」ロナルドがくわえタバコで紙にコードやら何やらをメモした。
「ジマーマンの曲もやってみようよ。せっかく作ってくれたんだから」リチャードがスティックを回しながら言った。
「いやあキースがいなけりゃ無理だぜ。解読出来ねえ」ロナルドがタバコに火を点けた。
「ああ、キースが来てからでいいだろう」サリーがポットに入れてくれたコーヒーをカップに注ぎながらジョーもタバコをくわえた。
 そうして何曲かが仕上がっていった。
 
 その夜、三人はサリーの手料理を食べながら昔話をしては懐かしんだり、悲しいことを思い出したり、これからのことを話し合い結束が強くなっていったが、リチャードは最初の思惑とは徐々に逸れていてることも感じていた。
 そこに電話が鳴った。
 「ハーイ。あらっマイケル。ええロナルドに代わるわ。何?うん。ああ、まっ。切れちゃった」サリーは首を振りながら両方の手の平を広げて見せた。
「なんだって?」くわえタバコのロナルドがすかさず聞いた。
「明日、昼から来るって。お楽しみはこれからだイェーイ・・・とか言ってたわ」サリーが呆れ顔で答えた。
「相変わらず変わった奴だぜ。まあ来るってんならいいけど」ロナルドが何本目かのビールを飲み干した。
「じゃあ明日に備えて俺は帰る。ブラザーは?」リチャードが髭についたものをナプキンで拭いながら言った。
「おお、俺も帰るぜ。送ってくださいな。サー・スターキー」そう言って二人はそそくさと出て行った。
 
 二人が帰った後、ロナルドが静かに呟いた。
 「なあ、サリーどう思う?」
「えっ何が?」
「上手く行くと思うかい?この話。俺、正直疲れちまったよ。頑固じじいばっかだし」ロナルドはグラスにスコッチを注ぎ、そのグラスを通して向こう側を覗きながらぼやき気味に言った。
「ロナルド、大丈夫よ。心配しなくても。ちょっと疲れただけよ。今日はもう早くおやすみなさい」サリーがロナルドの頭を子供のように優しくなでておやすみのキスをした。
 次の日、昼近くに目覚めたロナルドは熱いシャワーを浴びた後、テーブルに着くとステーキや豪華な食事が用意されていた。
 「サリーどうしたんだよ。昼間っからこんな豪勢に」バスタオルで髪の毛をゴシゴシしごきながらロナルドが目を丸くした。
「だってマイケルが来るんでしょ。エネルギー蓄えなきゃ。本格的に始まるのよ。私、早起きして作ったんだから。さあどうぞ召し上がれ」サリーが得意げに左手を大きく差し出した。
「ああ、でも俺は奴みたいに飛んだり跳ねたりしねえぜ。しっかし上手そうだ。サンキューサリー。力が湧くぜ」ロナルドはサリーにくしゃくしゃな笑顔を見せながらパクついた。
「ふーっいやあ食った食った。上手かったぜ。サリー」ロナルドがお腹を両手で叩きながらソファーに沈み込んだ。
「どういたしまして。元気出た?」サリーは後片付けをしながらロナルドに笑みを返し、ティーポットを用意した。


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