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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第10回   ゲット・バック
(ゲット・バック)
 
 「ハーイ。みなさんお揃いね。まずは乾杯しましょ」女性の中で最年長のバーバラが乾杯の音頭を取った。
「何に乾杯するんだ?イェーイ」珍しくマイケルがまともなことを言った。
「そうねぇ・・・最高の音楽に!」
「オーイェーイ。フーッ!」みんながそれぞれシャンパングラスを掲げた。
「遂に揃ったわね。サリー」大きな瞳の女優が呟いた。
「ううん、でもねぇ。メンバーは揃ったけどジェイムズとキース、もめてるらしいし。中々上手くはいかないものなのね」少し曇ったサリーの顔が現状を語っていた。
「大丈夫よ。任せて。何とかするわ。その前に楽しみましょ。さあ、サリー元気出して。パティ、ナンシー。ちょっと」思いもよらぬ総勢十二人のパーティの中、バーバラが奔走し始めた。
 しばらくの間、窓際のジェイムズ以外の十一人は今は亡きチャールズがドラムを叩くジャズに耳を傾けながら、急遽手配した三ツ星シェフのフィッシュアンドチップス、ビーフウェリントン、サンデーロースト。そしてヴィーガン・シェフが作ったサンドウィッチやバーガーなどとシャンパンやスコッチを楽しんだ。
 ただマイケルだけはひたすらミネラルウォーターだった。
 
「聞いてるわね。二人がもめたってこと」バーバラがキースの妻パティとジェイムズの妻ナンシーに話掛けた。
「ええ、私がここに向かってる時に咳込みながら凄いけんまくでキースが電話して来たもの」まずパティが答えた。
「私はここに着いてから。サリーに話聞たの。いい歳してみっともないわね」ナンシーは呆れて言った。
「男の人ってそんなものよ。でもね。仕事に関してプライドを持つのはいいことよ。だからね。ちょっとその辺りくすぐってみようかしら」バーバラが長い人差し指を口に当てながら二人にウインクしてサリーに近づいて耳打ちした後、マージョリーにも同じような仕草をしてその場を離れてリチャードの隣に行く時にパティとナンシーの前を横切った。
 「ジョーのギターって最高よね。ソロの時もバンドの時も。あんなの毎日聴けるなんて羨ましいわ」サリーが少し声のボリュームを上げてマージョリーに言った。
「何言ってるのよ。ロナルドだって最高じゃない。あんなに素晴らしいスライドギターが聴けるなんてあなた方こそ羨ましいわよ」マージョリーはさらにボリュームを上げた。
「いやそんなことないわ。家ではほとんど弾かないし、キースがいなけりゃ半人前よ」サリーも同じボリュームで話した。

 「ヘイ、ジョー。あの二人大声で何しゃべってんだ?俺たちの名前が聞こえたぜ。最高だとか羨ましいとか言って」ロナルドがスコッチ片手にジョーに語り掛けた。
「さあ、なんだろな。キースの名前も聞こえたぜ。あっ今度はパティが話に加わったぞ」それと同時にキースがロナルドとジョーに近づいて来た。その頃マイケルは娘のメイと踊っていた。
「あっはぁ。あれ見てみろよマイケル。よく朝から晩まであんなに動けるよなあ。奴は世界最強じゃねえか?で、レディたちは何言ってんだ?俺たちの名前出して大声で」さすがのキースも女性陣が自分たちの話題で盛り上がっているのが気になるようだった。
「段々と声が大きくなってるじゃねえか。今度はナンシーが入ったぜ」ロナルドは何を話しているのか無性に気になりそこに近づきたい気持ちを抑えるのに必死だった。
「イェーイみんなも踊ろうゼィ。なんだ?なんだぁ?三人揃ってポカンとして」マイケルは三人の目の前で左手を腰に当ててミネラルウォーターを一気に飲み干した。
「マイケル。あんた気になんねぇか。彼女らが俺たちのこと大声でなんか言ってんだよ」ジョーが気になっていることをそのまま言葉にした。
「オーライ!メイに聞いて来てもらおうゼィ。カモン!メイ!」マイケルが叫んだ。
「うーん、なあに?」メイはモデルをやっているだけあってスーッと背筋を伸ばして軽やかな足さばきでマイケルのところに来た。
「オーイェイ、メイ。レディたちが何話してるのか聞いて来て欲しいんだってよ。ベイベ」
「イエース、オーライ!」さすが親子である。
 メイはリチャードの隣でシャンパングラス片手にウインクしたバーバラを横目に女性陣の輪の中に入った。
 しばらくするとメイが軽いステップを踏みながら器用にシャンパングラスを掲げて老人たちの元へ戻って来た。
 「ヘイ、ダディー聞いて来たわよ」
「オーイェーイ。で、なんだって?」
「凄いメンバーが揃ったって。どんな音楽が出来るか楽しみだって。それとオジ様たちとっても素敵ってイェーイ」メイはグラスをさっきよりも高く掲げてくるりと一回転した。
「だってヨーッ。ス・テ・キーッ!イェーイ」マイケルもメイに合わせて回り始めた。
「ふぁっは。何言ってんだか・・・」キースは顔をしわくちゃにして白い髪を右手で何度もかき上げた。

 「ヘイ、ジョー。仕組まれたな」ロナルドが小声で呟いた。
「ああ、おそらくバーバラの仕業だぜ。ほらっキースご機嫌じゃねぇか。でもジェイムズは?あっあれっ?義兄貴もいねぇ・・・」ジョーが辺りを見渡すと窓際でリチャードがうつむいたジェイムズの背中をさすっていた。
「どうしたんだ?ええっ?柄にもねえ。でも酷く落ち込んでるぜ。ジェイムズ」ロナルドがジョーの視線の先を見てまた呟いた。そしてそれを見ていたキースが言った。
「よう相棒。ちょっとアコースティック持って来てくれねえか。ああ?」ロナルドは頷くなりさっそくスタジオからギブソンJ200を持って来てキースに渡した。
「マイケル。ブルースハープ!」そう言ってキースが中指を上手く使ってギターを弾き始めた。ジャッチャーラ、ジャッチャーラ、ジャッチャーラ・・・
「オーイェイ。オーライ!」マイケルがキースに合わせてブルースハープ(ハーモニカ)を吹き始めた。
「ヘイ、ジョーこれって、もしかして・・・」ロナルドがタバコの煙を大きく吐いて言った。
「そうみたいだな。キーEだ。おーい義兄貴。出番だぜ!」ジョーが叫んだ。
「ええっ?」窓際のリチャードとジェイムズがキースとマイケルの方に振り向いた。
「へえぇ、いいじゃないか。やるねえ。ジェイムズ、行こう!」リチャードがジェイムズの肩をポンと叩いてやって来た。
「オケー。オーケー。アイ、ワナ、ビヨ、ラバ、ベイベ、アイ、ワナ、ビヨマン・・・」それを聴いたジェイムズは指を鳴らしながら体をスイングさせた。
「リチャード!イェーイ。オーライ!メイ。ダンスしようゼィ!」マイケルが娘とまた踊り始めた。
 「ねっ単純でしょ?男の人って」元ボンドガールのバーバラがパティとナンシーに大きな瞳をさらに大きくしてニヤリと白い歯を見せた。
「バーバラ。あなたって本当に凄いわね。どんな男の人でも簡単に手玉に取れちゃうのね。もしかしてハリウッドスターでもそうなの?」キースの妻パティも目をまん丸にして驚きの表情を隠せなかった。
「何言ってるのよ。そんなことしないわよ。私はリチャード一筋なんだから。でもこれでまずは一安心ね。もう一度乾杯しない?」

 バーバラがお盆に乗っているシャンパンを女性陣一人ずつに手渡してグラスを掲げた。


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