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作品名:ロックン・ロール・サーカス 作者:村瀬"Happy"明弘

第1回   ア・デイ・イン・ザ・ライフ
ロックン・ロール・サーカス

この作品はビートルズ(1970年解散)の生き残りであるポール・マッカートニー、リンゴ・スターとローリング・ストーンズ(活動中)の現メンバーであるミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ロニー・ウッドの五人が八十歳前後の老人になったが、バンドを結成!?本当に?なぜ?・・・という夢物語である。

《登場人物》

・リチャード・・・リンゴ・スター(本名リチャード・スターキー)。ビートルズのドラマー。「サー」の称号を持つ。1940年生まれ。

・ロナルド・・・ロニー・ウッド(本名ロナルド・デイヴィッド・ウッド)。ローリング・ストーンズのギタリスト。画家としても活動している。1946年生まれ。

・サリー・・・ロナルド(ロニー・ウッド)の妻。

・バーバラ・・・バーバラ・バック。女優。リチャード(リンゴ・スター)の妻。

・ジョー・・・ジョー・ウオルシュ。イーグルスのギタリスト。リンゴ・スターとは妻同士が姉妹。アメリカ人。

・マージョリー・・・ジョー・ウオルシュの妻。バーバラ・バックの妹。

・ナンシー・・・ジェイムズ(ポール・マッカートニー)の妻。

・メイ・・・マイケル(ミック・ジャガー)の娘。

・パティ・・・キース・リチャーズの妻。

・ジェイムズ・・・フルネーム:ジェイムズ・ポール・マッカートニー。ビートルズのベーシスト。「サー」の称号を持つ。1942年生まれ。

・ジェフリー・・・ジェフ・リン(本名ジェフリー・リン)。イギリスのロックバンド、ELO(エレクトリック・ライト・オーケストラ)のリーダー。多くのプロデュースも手掛けている。

・マイケル・・・ミック・ジャガー(本名マイケル・フィリップ・ジャガー)。ローリング・ストーンズのボーカリスト。「サー」の称号を持つ。1943年生まれ。

・ジマーマン・・・ボブ・ディラン(本名ロバート・アレン・ジマーマン)。シンガーソングライター。2016年ノーベル文学賞受賞。古くからビートルズ、ローリング・ストーンズなどのメンバーと交流がある。ロニー・ウッドに「セブン・デイズ」という楽曲を提供したこともある。アメリカ人。

・キース・・・キース・リチャーズ。ローリング・ストーンズのギタリスト。1943年生まれ。ミック・ジャガーとは同じ小学校出身。

・仲が悪かったはずの兄弟のバンド・・・イギリスのロックバンド、オアシス。ビートルズを敬愛しているノエルとリアムのギャラガー兄弟が中心となって結成されたが、2009年に解散。いまだに再結成を望む声が多い。

・ザ・フー・・・ビートルズ、ローリング・ストーンズなどと同世代でイギリスのバンド。現在残っているメンバーのピート・タウンゼント(ギター)、ロジャー・ダルトリー(ボーカル)二人とサポートメンバー(ドラムのザック・スターキーはリンゴ・スターの息子)で活動を続けている。

・メラニー・ハムリック・・・マイケル(ミック・ジャガー)の妻。


(ア・デイ・イン・ザ・ライフ)

 ロンドン。とあるバー。二人の老人がグラスを傾けていた。
 「お前、タバコやめたんじゃなかったのか?」薄暗い店だというのにサングラスに間違いなく髪を黒く染めた老人が左肘をカウンターに置きあご髭をいじりながら、前髪を少し立て顔はしわだらけだがまだどことなく幼さを残しているもう一人の老人に聞いた。
「ええっ?ああいや、ふかしてるだけさ。スコッチにはこいつが一番だ」
「まあ好きにするさ。どうせあと何十年も生きられるわけじゃないしな。俺も一本もらうよ」
 
 二人の付き合いはもうかれこれ五十年以上になる。そう、出会った当時は「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれたミニスカートやサイケデリック・アートなどのストリートカルチャーが流行っていた頃だ。
 
 「そういやあんた。今年もツアーに出るのか?あの連中と」前髪を左手でかき上げながら右手の中指と薬指の間にタバコを挟み大きな透明の氷が一つ入ったグラスを口に運んだ老人がしゃがれた声で聞いた。
「うん、どうかなぁ。どうするかな」もらったタバコを一吸いだけでもみ消しながらサングラスの老人がうつむき呟くように答えた。
「お前はまだ八十になってないしバンドもずっとやってるから分からんかもしれんがなバンドがいいんだよ。俺のは仲のいい奴を集めただけのお遊びだよ」
「そりゃぁあんたの方が年上だけど俺だってじき八十になるぜ。うちのシンガーも八十、相棒のギタリストももう直ぐ八十だ。それと二年前にドラマーが死んじまったしベースは随分前にサポートメンバーに代ったから厳密に言えばうちもバンドとは言い難てえな。いわば三人ユニットってとこだ」髪の毛の立った老人はどこか遠くを見つめグルーヴしていた若かった頃に思いをはせているようだった。
「お前もそうなのかぁ。俺のバンドは五十年も前に解散してしまったし、まだみんな若かったから自分の好きな道に進んじゃったんだ。ありがた味が分かってなかったんだよ。ギターの一人は随分と前にニューヨークで撃たれてしまったし。でもその後一度いや、二度か、三人で奴の曲をレコーディングした時は楽しかったなぁ。ホント久し振りだったし、わだかまりとかも全然なくって。なのにそれから直ぐにもう一人のギターの奴もガンで逝ってしまった。ベースの奴は自分のバンド持ってるからいいけど。まっ、たまぁに一緒にやるけど・・・」そう言ってサングラスに隠されて見えないがこの老人の眼は潤んでいたに違いない。
「そういえばガンで逝っちまった奴のスライドギターはよかったぜえ。俺と違ってよメロディアスで優しい音色だったな。何曲か一緒に作ったこともあったしよ。結構俺たちそれぞれに交流していてたんだよなあ」二人は共に世界的なミュージシャンだが極々普通の老人たちのように昔を懐かしむ話ばかりになっていた。
 
 「あっそうだ!バンド組まないか?」サングラスの老人が唐突に言った。
「えっ何?バンド?」髪の立った老人が肩をすくめて両方の腕を広げて手の平を見せた。
「そうさ。バンド。五十年前に解散して残ったのはドラムの俺とベースだろ?お前んとこはシンガーとギター二人。ってことは組めるだろ?」老人はサングラスを外して満面の笑みを浮かべた。
「ええっなんだよ。それ?」髪の立った老人はさっきと同じポーズを見せた。
「だからさあ、ドラム、ベース、ギター二本、シンガー。五人組のバンドだよ」サングラスを外した老人がピースサインを見せてニヤリとした。
「いやいや、何を寝ぼけたこと言ってんだ。正気かあ?あんたと俺、そしてベーシストは三人で一緒に何回かセッションした仲だからよぅ大丈夫だろうけど、そこに相棒のギタリストとシンガーが参加するわけねえよ」髪の立った老人はまたタバコに火を点けて口にくわえたまま左手に持った空のグラスをバーテンダーに見えるように掲げた。
「何十年も前だけど、お前とブロンドのシンガーがドラム、キーボード、ベースだけになって路頭に迷ってた『小さな顔の奴ら』三人と合流したじゃないか。それと似たようなもんだよ」
「あんた分かっちゃいねえなあ。あん時はみんな仕事がなかったんだ。だから組んだだけのことだぜ。結局ブロンド野郎ともう死んじまったけどベーシストが仲たがいしちまって長続きしなかったんだ。なんかそのあと朝からバーボン飲んでるジャパニーズがベース弾いてたけどな」
「いやっ今度は上手くいく」サングラスをかけ直した老人が二本目のタバコに手を伸ばした。
「上手くいくかよ。おい、まだかスコッチ!」もう一度空のグラスをその老人が掲げた。
「あっ俺も。スコッチ。考えがあるんだ」サングラスの老人は肘をついたまま右手でグラスを少し持ち上げてゆらゆらと振った。
「考え?どんな。こらっ!こっちが先だろうが」バーテンダーがサングラスの老人の前にグラスを置こうとした。
「どっちが先でもいいさ。直ぐ頼むよバーテン。ところでお前、ソロアルバムいつ出したっけ?」
「ソロアルバム?いつだったかな。十年以上は経つな。な、なんだよ」もう一つグラスがカウンターに置かれるのを睨みながら髪の立った老人が言った。
「じゃあ作れよ」サングラスの老人がグラスを口元に持っていきながら命令口調で言った。
「面倒なこと言うなよ。曲もしばらく作っちゃいねえし、そんなつもりもねえよ。ははあん。あんたそんな話でおびき寄せようってんじゃねえだろうな?」
「ああそうさ。お前、ソロアルバム作る時いつも何人も呼ぶだろ?」
「ええっ?そんなことしたら他の連中も来るだろうが。それとも何かあ、他の連中も呼んでるからってことにする気か?」グラスを持った左手とタバコを挟んだ右手を交互に上げ下げしながら髪の立った老人が叫ぶように話した。
「お前やる気になったな。俺は他の連中も呼んでから一人づつ帰そうと思ってたんだが、呼んだことにするっていうのが手っ取り早いな」うんうんと頷きながらサングラスの老人はグラスをチビチビと舐めた。
「ダメだ。ダメだ。その手には乗らねえぞ。そんな面倒なことは絶対やらねえ。やめやめ、やめだ。こんな話は無しだ。もうやめた」髪の立った老人が首を大きく振りながら今度は本当に叫んだ。
「おい、大きな声出すなよ。俺たち面が割れているんだから。ほらっみんなこっち見てるだろ」老人はサングラスの真ん中のブリッジを右の中指で上げた。
「あんたがおかしなこと言い出すからだろうが。ホントこの話はやめだ。おもしろくも何ともねえ。あんたは自分のツアーのことでも考えてりゃいいんだよ」
「それはそれさ。まあいい。今日はよしにしよう。でも上手くいくと思うがな」
「何言ってやがる」
 
 その日はもう一杯づつスコッチを頼んで二人は別れた。


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