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作品名:やっぱり、男の子じゃ 作者:光宙(ぴかちゅう)

最終回   9
「もう300円程しか残っていないんだ。急いで帰らないと……」

 と、有沢がぽつりと言った。

 通りの少し先に、屋台のラーメン屋が見えた。

「300円か……3人がラーメン食べられるかな」

 と、関本が呟いた。

 屋台のおじさんに、躊躇(ためら)いがちにラーメン1杯の値段を尋ねると100円と言ったので、僕らはほっとして椅子に

腰を下ろした。

「鹿児島は本土最南端なんだから、北へ行く長距離トラックの出発起点になっている筈だ。運送会社に行けば、広島行きの

直行便が見つかるんじゃないか」

 と、注文したラーメンを待っている間、僕はふと思って言った。

「あゝ、それはいい考えだ」

 と、有沢が相槌(あいづち)を打った。

「近くに、トラックが何台も停まっているような、大きな運送会社はありませんか?」

 と、僕はラーメンを食べながら、屋台のおじさんに訊いた。

「それなら、毎日屋台を引いて来る途中にあるよ」

 と、言って、身振り手振りで詳しく場所を教えてくれた。

 食べ終わると、教えて貰った運送会社に向かった。見知らぬ土地だったが、おじさんの説明通りに進んで行くと、すぐに

運送会社が見つかった。広い駐車場には、薄暗い照明の下で、何十台ものトラックが停まっていた。車の周りには、煙草を

吸って屯(たむろ)している何人もの運転手の姿が見えた。

「広島方面に行く車は、ありませんか?」

 と、口々にトラックの間を縫うように歩きながら、手当たり次第におじさんたちに向かって声を掛けた。

 目的のトラックは、見つからなかった。次々に駐車場から出て行くトラックを、ただ漫然と見送った。

「広島行きのトラック、無かったな……」

 と、関本が残念そうに言った。

 運転手のおじさんたちが、相変わらずトラックの側を行ったり来たりする姿が見えていた。

「おじさんたちが、まだ大勢いるんだから、もう一回声を掛けてみよう」

 と、僕が言った。

 僕らは再び、トラックの間を歩きながら片っ端から声を掛けた。目的のトラックは見つからなかった。その間にも、

トラックが次々に駐車場から出て行った。このままトラックが見つからなかったら一体どうなるのだろうと急に心細くなった。

お互いに会話も途絶え、手持ち無沙汰で憮然として立っているところへ、煙草を銜(くわ)えながらおじさんが1人、ゆっくりと

近づいて来た。吸い終わった煙草を靴でもみ消しながら、

「広島までは行かないが、徳山までなら今から行くぞ」

 と、言った。

 意気消沈していた僕らは「有難うございます!」と、言いながら飛び上がって、徳山行の大型トラックに乗り込んだ。僕は、

心の中で「やったぞ!」と叫んだ。腕時計を見ると、午前零時を回っていた。僕は張り詰めた気持ちからようやく解放され、

座席に座ってドアに凭(もた)れ掛かるとすぐに眠った。

車の揺れで目が覚めた。トンネルの照明が目に入った。関門トンネルの明かりだった。トンネルを抜けると、朝靄(もや)が

立ち込めていた。徳山でトラックを降り、乗り継いで着いた町は、山口県の花岡だった。市内を通る国道2号線に沿って東へ

向かって歩きながら手を上げると、大型のトラックが止まった。

「広島へ行きますか?」

「あゝ、行くよ」

 と、窓から顔を出した髭面(ひげづら)のおじさんが言った。

 運転席の後ろのベッドに、関本が靴を脱いで上がった。僕はおじさんの隣に座り、有沢がドア側に座った。トラックの中は、

ヒーターがよく効いていて暖かかった。走り始めて暫くすると、僕はうとうとした。突然体が大きく揺れて、はっとして目が

覚めた。前を見ると、トラックがセンターラインを跨(また)いで走っていた。驚いておじさんを見ると、慌てた様子でハンドル

を切り、元の車線に戻すところだった。見通しの良い直線道路で、幸い対向車は無かった。おじさんは盛んに瞬(まばた)き

をして、大きな欠伸(あくび)をした。明らかに睡魔に襲われていた。

「九州へも行くんですか?」

 おじさんの眠気を覚まそうと、僕は咄嗟(とっさ)に口走った。

 何台もの車に乗ったが、いつも運転手から先に話しかけられ、僕らの方から話しかけたのは初めてだった。

「先週、熊本へ行ってきたところだ」

 と、盛んに瞬きを繰り返しながら言って、窓を少しだけ開け、煙草を吸い始めた。

「僕らは、鹿児島からの帰りなんです」

 と、訊(き)かれてもいなかったが、何か話さなければという思いが口を衝(つ)いて出た。

 下宿の友人を京都駅まで見送りに行き、その後ヒッチハイクをしている経緯を、おじさんの横顔を見ながら、起きている

ことを確かめながら話した。おじさんは、煙草を立続けに吸った。2本目の煙草を吸い終り、灰皿にもみ消す頃には瞬きも

治まって、眠気が覚めたように見えた。僕の話を時々頷(うなず)きながら黙って聞いていた。僕の話し声で、有沢が目を

覚ました。車は広島市内に入り、暫くして賑やかな通りに出た。

「この先の信号のところで止めてください」

 と、有沢が、おじさんの方を見て言った。

 トラックが停まると、夫々が礼を言って降りた。ドアを閉めると、トラックは勢いよく走り去って行った。

「あのおじさん、居眠り運転していて危なかったんだ」

 と、トラックが遠ざかって行くのを見ながら2人に言った。

「ほんとか?」

 と、広島に着くまでベッドで熟睡していた関本が驚いて言った。

「おじさんを眠らせないようにと思って、話し続けていたんだ」

「それでヒッチハイクのことを、話していたのか」

 と、有沢も初めて気付いて言った。

 爽やかな秋の陽射しに照らされながら、広島の市内を歩いて、再び有沢の実家の前に着いた。玄関のベルを押すと、有沢の

母親が現れた。

「大阪へ帰っとったのと違うの?」

 と、戻って来た僕らを見て、びっくりして言った。

 何も聞かされていなかった有沢の母親が、九州へ行っていたと初めて知って、しかもヒッチハイクをしていたと聞かされ仰天

(ぎょうてん)したが、1人息子の無事な帰宅に顔を綻(ほころ)ばせた。

「はぁ……やっぱり、男の子じゃ……」

 一部始終を聞いていた有沢の祖母が、僕らを後目(しりめ)に溜息(ためいき)交じりに半ば呆(あき)れるように呟いた。(了)




(注釈)
NHK朝の連続テレビ小説「おはなはん」の放送期間は、1966年(昭和41年)4月4日から翌年4月1日。平均視聴率は45.8%、最高視聴率は56.4%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。 放送当時、その人気故に毎朝放送時間になると、水道の使用量が激減する現象が全国で見られたといい、国民的人気ドラマとなった。
映画のフィルム交換のサインである丸印が、スクリーンに映し出されると書いたものの、最近テレビで放映される映画では見る機会がなくなったことが気になり調べたところ、フィルムで撮影された作品は映画会社がテレビ放送用にデジタル変換する際に丸印を消してしまうとのことだった。テレビ放送では、上映するための丸印は必要ないという理由からだそうだ。ということで、“丸印”は既に過去のものとなり、テレビではもう見られないようだ。最後まで読んで頂き、有難うございました。


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