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作品名:やっぱり、男の子じゃ 作者:光宙(ぴかちゅう)

第7回   7
「おーい、早くしろよ」

 道路脇の自動販売機で、飲み物を買って飲んでいる僕と有沢に向かって、関本が大声で叫んだ。

 振り向くと、乗用車が止まっていた。野球帽を被ってジャンパーを着たおじさんが、窓から顔を出していた。慌てて車に

駆け寄った。

「宮崎へ行きますか?」

 と、関本が訊(き)いた。

「あゝ、これから帰るところだ」

「お願いします」

 と、言いながら、車に乗り込んだ。

「どこから来たの?」

「大阪です。ヒッチハイクは、岡山からです」

 と、隣に座った僕が答えた。

「ほう、大阪。大阪のどこ?」

「枚方(ひらかた)です」

「枚方か。京阪電車の沿線だな。懐かしいな。10年程前まで、京橋の映画館で働いていた。親父が亡くなって、宮崎にある

実家の田んぼを継ぐことになって戻ってきた。でも、今でも映画の仕事がしたいと思っている。好きだし、何といっても映画

は面白いからな」

「僕らも、休みの日に、4本立ての映画館によく行きます」

 と、後ろの座席から有沢が言った。

「そうか、君らも映画が好きか。じゃ、映画のフィルムが、何本かに分かれていることを知っているか?」

「それはどういうことですか?」

 と、僕が訊いた。

「映画の上映時間は、大体2時間位になっているだろ。だけど、2時間の映画が1本のリールに全部巻かれている訳じゃない

んだ」

「えっ、そうなんですか」

 驚いて異口同音に声を上げた。

「もしも、2時間分ものフィルムが、1本のリールに全部巻かれているとしたら、大き過ぎて映写機に掛けるのが大変だ

からな。それで、扱い易いように、1本が15分位の長さに分かれて巻かれているんだ」 

「映画のフィルムが、分かれているなんて初めて知りました」

 と、関本が後ろの座席から身を乗り出して言った。

「だから、2時間の映画であれば、8本のリールに分かれて巻かれている。それぞれが、ブリキの缶に入っている。フィルム

1本は、大体これ位の大きさの缶に入っているよ」

 と、言って、ハンドルから両手を放し、両腕を体の前に出して、直径40センチ位の輪を作って見せた。

「その8本に分かれたフィルムを観客に判らないように、どうやって繋(つな)ぎ合わせながら映しているか、解るか?」

 おじさんが、にっこりして僕の方を見て言った。

「いいえ」

 と、言って、僕は首を横に振った。

「映写室には、必ず2台の映写機が置いてある。スクリーンに向けて左右に並べられ、交互に使うんだ。2台の映写機の前

には、どちらか一方が目隠しされるように、ずらせた位置にこれ位の穴が開けられた板が渡してある」

 と言って、再びハンドルから両手を放し、自分の目の前で人差し指と親指同士を突き合わせ、小さな輪を作りながら言った。

「左側の映写機に穴を合わせて映すと、右側の映写機を目隠しするように、反対に右側の映写機に穴を合わせて映すと、

左側の映写機が目隠しされるようになっている。もう一つ大事なことがある。映画を見ている観客に判らないように、尚且つ

わしら映写技師がフィルムを繋ぎ合わせるタイミングをどうやって知るかということだが、この仕掛けがまたよく出来ている

んだ」

 と、僕の方を見て、更に続けた。

「例えば、左側の映写機で、1本目のフィルムを映していたとする。15分位経ってフィルムがそろそろ終わりそうになる頃、

スクリーンの右上に、これ位の丸印が1秒間だけ映るんだ」

 と、またハンドルから両手を放し、自分の目の前で同じ様に輪を作って見せた。

 おじさんが話に夢中になり、対向車が走って来るにも拘らず、前方を見ずに度々ハンドルから両手を放すので気が気では

なかった。

「1秒だから、ほんの一瞬だからな。見逃したら大変なんだ。よく見ていないといけない。丸印は、もうすぐフィルムが終わり

ますよという大事な合図なんだ。その合図が出たら、予め2本目のフィルムを掛けて準備した、右側の映写機の電源を入れて

回すんだ。すると、10秒後にスクリーンの右上に、同じ丸印がもう一度映る。それを合図に、映写機の前にある板をさっと

ずらすんだ」

 と、肘(ひじ)を曲げ直角にした右腕をハンドルの前に突き出して、左から右へ素早く動かし、板をずらす仕草をして見せた。

「板をずらすと、スクリーンには左側の映写機から、右側の映写機へ切り替えられた映像が映っている。右側の映写機が最初

の10秒間回ると、丁度左側の映写機のフィルムの最後と話が繋がるようになっているから、観客は切り替わったことに気付

かないんだ」

「はぁ、それは、邦画も洋画も同じなんですか?」

 と、僕は興味津々(しんしん)に訊(き)いた。

「どの国の映画も同じだ。今度映画を見る時、15分位してからスクリーンの右上に映る丸印を注意して見ていると判る。

それが、フィルムが切り替わる時の合図だ。上手く切り替えると、繋ぎ目は全く判らないが、うっかりして丸印を見落としたり

すると、台詞(せりふ)や場面が飛んだりすることがあるんだ。そうならないようにするのが、映写技師の腕の見せどころ

なんだ」

 と、得意満面で言った。

 おじさんの話に引き込まれた僕は、面白い映画を見終わった時のような幸せな気分で、今すぐにでも映画館のスクリーンで

実際に丸印が映るのをこの目で見て確かめたくなった。

「どこで降りたいんだ?」

 と、おじさんが、僕の方を見て訊いた。車は宮崎市内に入っていた。

「宮崎駅でお願いします」

 と、返事した。

 辺(あた)りが暗くなり始めた頃、宮崎駅に着いた。

「映画の話、面白かったです。どうも有難う御座いました」

 と、夫々が礼を言った。

「わしも、久し振りに映画の話が出来て、大阪の頃を思い出して楽しかったよ」

 と、笑顔で言った。

 車が走り去って行くのを見送った後、宮崎駅の待合室で宿泊するつもりで行ってみると、立野駅のような無人駅と違って

ベンチ型の椅子は無く、人の出入りも多く、とても寝られるような状況ではなかった。仕方なく安宿を探すことにした。

駅から少し離れると、小さな路地に面した1軒の古びた旅館を見つけ宿泊した。


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