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作品名:やっぱり、男の子じゃ 作者:光宙(ぴかちゅう)

第2回   2
京都駅の窓口で、本村が松山までの切符を買い、僕らは入場券を買って改札口を入った。本村が乗る普通列車のプラット

ホームには、乗客の姿は殆どなかった。プラットホームの時計が、午後9時半になろうとしていた。

「なんだ、ガラガラじゃないか」

と、関本が列車を覗(のぞ)き込んで言った。

どの車両にも、人影は殆ど無かった。

「この列車は、いつもこんな感じなんだ」

と、本村が言った。

出発まで30分もあって空いているので、皆で座席に座って雑談をしていると、いつの間にか出発の時刻が近づいていた。

「このまま大阪まで、皆で一緒に乗って行かんか? 大阪から帰ったらいいじゃないか」

と、本村が言った。

お互いに顔を見合わせ、どうしたものかと迷っていると、ホームに発車のベルが鳴り響いた。

「そうだな。別に京都からでなくても、大阪から帰っても同じだな」

と、有沢が言った。

ドアが閉まると、列車はゆっくりと走り始め、京都駅を出た列車は徐々にスピードを上げた。

「明日から休みなんだから、このままどこかへ行かないか?」

と、有沢が言った。

「どこかへ行くと言っても、そんなつもりで来ていないので、金なんて持ってないぞ」

と、関本が、すかさず言った。

「駄目だ。明日は、大阪の親戚の家へ行く予定になっているんだ。大阪駅で降りるよ」

と、岡島がきっぱりと言った。

「そうか、仕方ないな。じゃ、有り金置いて行けよ。皆も出せよ」

と、言いながら、有沢が自分のポケットに手を突っ込んだ。

岡島は、ポケットから600円を出して有沢に渡した。皆が出し合った金は、全部で1800円だった。

「この列車は、岡山まで絶対に検札が来ないんだ」

と、本村がさも自信ありげに言った。

「福山へ行けば親父の店があるから、何とかなるんだ。岡山から福山までは近いから、ヒッチハイクすれば金も掛からない」

と、有沢が言った。

「岡山まで行くにしても、京都から岡山までの運賃には、どうせ足りないだろ?」

と、関本がぶっきら棒に言った。

本村が急いで鞄の中からポケット版の時刻表を取り出すと、忙(せわ)しなくページをめくり始めた。

「運賃欄を見ると、京都からでは無理だけど、姫路からなら岡山までは1人330円だ。今持っている金で買えるし、停車

時間も長いから、改札口を出て君ら3人の切符を買ってくる時間も充分にある。姫路から乗ったことにすればいけるな」

と、食い入るように見ながら言った。

大阪に向かって走り続ける列車の中で、キセルをするのは気が引けるなという思いが一瞬脳裏を掠(かす)めたが、次の瞬間

名古屋育ちで大阪から西へまだ行ったことがない僕は、生まれて初めて行く西日本の旅に、嬉しさと期待で胸が膨らんだ。

「姫路からの切符には、改札口のハサミが入らないから、岡山駅で出る時に駅員から怪しまれて、何か言われないか心配だな」

と、関本がぼそっと言った。

「急いで改札口を入ったので、切符にハサミを入れて貰えなかったとでも言えば何とかなる。大丈夫だ」

と、有沢が自信たっぷりに言い返した。

「……分かった」

と、関本が頷(うなず)いた。

「行くよ」

 と、有沢と目が合った僕が言うと、

「よし、決まりだ。3人でまず福山の親父の店へ行こう。それから、広島の俺の家へ寄れよ」

 と、途端に嬉しそうな顔をして言った。

 暫くして、列車が大阪駅に着いた。岡島が降りて行くのと入れ替わりに、修学旅行の生徒たちが大勢乗り込んできて、空いて

いた車内はたちまち満席になった。列車を降りた岡島が眼鏡の奥の目を細め、プラットホームから盛んに手を振っている姿が窓

から見えた。発車のベルがけたたましく鳴り、ドアが閉まった。列車がゆっくりと走り始め、岡島の姿が見えなくなった。

「この子たちは高知だな」

 と、本村がニヤニヤしながら言った。

 生徒たちは、語尾に「〜ちゅう」という方言を使っていた。あちらこちらから一斉に「〜ちゅう」「〜ちゅう」という話し声

が聞こえた。僕らはお互いに顔を見合わせ、笑顔で頷き合った。12人いる下宿人の中でただ1人、高知県出身の吉井だけが

方言丸出しで話すので目立っていた。毎日聞いている吉井の高知弁とそっくりな話し方をする生徒たちが、僕にはとても微笑

(ほほえ)ましく映った。大阪駅を出ると、間もなくして車掌が車内に入って来た。

「やっぱり検札に来たじゃないか」

 と、関本が前に座っている本村に、小声で咎(とが)めるように言った。

 車掌が近づいて来ると、一様に俯(うつむ)いて凍(こお)り付いたように黙りこくった。車掌は僕らの横を、ただゆっくりと

通り過ぎ車両を出て行った。

「ほら見ろ、検札じゃなかっただろ」

 と、車掌が出て行ったのを見届けると、今度は本村が関本に言い返した。

 一安心したものの、いつ車掌が戻ってくるかも知れないと思うと、とても落ち着いていられなかった。暫くの間、知らず

知らずのうちに、車掌が出て行った隣の車両の方へ目が向いた。関本と有沢も、同じように時折振り向いて見ていた。

「検札は来ないよ。岡山まで今まで一度も来たことがないんだから大丈夫だ」

 と、本村は車掌を気にする僕らに、自分を信用しろと言わんばかりに涼しい顔で言った。

 寝静まる生徒が増えるにつれて、賑やかだった話し声が治まり、列車は姫路駅に着いた。列車が停まるや否や、

「よし、切符買ってくるぞ」

 と、言い残して、本村が勇んで降りて行った。

 プラットホームに、開いている売店があるのが窓から見えた。列車から降りた数名の乗客が、売店を取り囲んでいた。

「売店を見たら、何だか腹が減ってきたな」

 と、関本が言った。

 僕らは列車から降りて、4人分の駅弁と飲み物を買った。残っていた金が、全て無くなった。車内に戻って間もなくして、

本村が列車に戻って来た。買って来た岡山行きの切符を1枚ずつ僕らに手渡した。

「これでもう、いつ車掌が戻って来ても安心だな」

 と、関本が受け取った切符を、まじまじと見ながら言った。

 午前1時45分、列車は時刻通り岡山駅に着いた。

「じゃ、またな」と、お互いに短い言葉を交わして、引き続き松山へ向かう本村と別れ、僕らは下車した。

 深夜のプラットホームに降り立つ人の姿は疎(まば)らだった。階段を上がって改札口へ向かった。改札口を通る者は、

ほんの数人だった。

「急いで改札口を入ったので、切符にハサミを入れて貰えなかったんです」

 と、駅員に切符を渡しながら言った。

 考えていたシナリオ通りだった。駅員はちらっと切符を見て、小さく頷いて受け取った。何も怪しまれることなく改札口を

通り過ぎ愁眉(しゅうび)を開いたが、同時に後ろめたさを感じた。駅前に出ると、吐く息が白くかなり冷え込んでいた。

「長距離トラックは、国道を走っているから国道へ出よう。国道2号線は南の方角だ」

 と、有沢が言った。

 僕らは一路国道を目指して足早に歩き出した。


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