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作品名:始めの記憶 作者:野村英昭

第5回   5
第五章

村田は、それから先の事は、よく覚えていなかった。気が付くと、ベッドの上に寝ていた。
村田は、かなりの重症を負ったらしい。体の殆どを動かす事が出来ない。ブロンドの髪の看護婦が意識が戻た村田を発見し、走るように病室を出て行った。村田は、作戦が、失敗に終り、大量破壊兵器が使われた事を知り、悔し涙を流した。そして、何度も、絢子の名前を口にした。それから、何日も、尋問が始まった。村田は、無言を貫いた。しかし、すでに、日本が戦争に負けて降伏した事を、知った時、もう、隠しても無駄な事を悟った。


村田は、軍の刑務所病院に移された。しかし、もう、村田の世界は、ベッドだけだった。自分の生物兵器がどうなったのかは、知る由もなかった。最後まで、生物兵器の事は、話さなかった。死んでも話す事は無いと誓った。


数年後、
ケリーは、自分が研究に加わった、大量破壊兵器が、実際に人が住む処で、使用された事に、心に傷を負っていた。そんなある日、軍関係の知り合いから、ある日本人科学者の事を知った。ケリーは、日本に上陸して、日本の兵器研究の調査も任務の内に含まれていたので、極秘情報にも触れる事ができた。そして、その科学者に、興味が湧いて来た。


アメリカに戻ると、調査の一環として、その科学者に面会した。

村田は、最近、何回も面会に来る、アメリカの科学者に親近感を覚えていた。
意識が戻り、極秘作戦の失敗を知り、一度は、命を懸けて作戦を実行する決意であったが、こうして、生き残ってしまうと、もう、生きる望みも失って、茫然とした毎日を送っていた。自分の世界は、もう、このベッドの上でしか無い事も、魂が抜け落ちた様になっていた。毎日、尋問が繰り返され、気球に登場していたのか、お前は、何者なのかと、何回も聞かれたが、黙秘を貫いた。軍人でもない、日本人が、気球に乗ってアメリカの上空に侵入した事は、当初、スパイや工作員を疑われたが、終戦後の上陸したアメリカ軍の情報で、学者である事が、判明してしまった。あの特殊な生物兵器がどうなったのかは、不明だが、発見されていないのも確信していた。何か、アメリカ国内で、異変が起こっていたとしても、村田の耳には入ってこなかった。そんな、ある日、アメリカ人の科学者が、面接に来た。彼は、村田が、日本で生物学者として、研究をしていた事、兵器研究所に出入りしていた事をつかんでいた。しかし、あの生物兵器に関しては、情報を得ていない様子だった。恐らく、終戦と同時に、関係資料は、廃棄された物と推測される。また、極秘作戦を知る者は、極少数の為、正式な文書には、記載されていないと思われた。
その科学者は、何回も足を運んだ。今のアメリカや日本の事、自分の事など立場の違いを超え、話してくれた。村田は、日本が、恋しくなった。しかし、ケリーと言うその、科学者が、自分と同じく国の為に兵器の研究をしていた事が分かり、村田は警戒した。

ケリーは、その日本人の科学者に面会して、その状況に、驚いた。殆ど、人間とは思えないその様そうに、驚異と悲しみを覚えた。ケリーは、同じ科学者として、同じような立場の人間として、同感を覚えた。そして、何回となく足を運んだ。

村田は、このアメリカ人科学者を許す事は出来なかった。大量破壊兵器を開発し、それが、祖国に投下された事に、恨みを覚えた。しかし、流れ行く日々、自分の生きていく意味や孤独な日々に、もう、魂が抜けたような時間の感覚がになりつつあった。それでも、アメリカ人は、やって来た。

「もう、春ですね。そう言えば、日本では、桜と言う花が咲くそうですね。一度、見てみたいですね」
村田は、忘れていた景色を思い出した。上野の山へ桜見に行った時だった。絢子の顔が浮かんだ。桜の花にも負けぬ絢子の笑顔が。自然に涙が零れた。
それを見たケリーは、声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「いや、桜を、日本の桜を見てみたいです」
「私に、出来るか、わかりませんが、日本に帰れるように政府にお願いしてみます」
「本当ですか?有難うございます」
「あ、いや、期待は、しないでください。私の力で出来るかどうかは、分かりませんから」
「いえ、そう、言って下さるだけで、感謝します」


その後、その約束は、現実のものとなった。村田が敵対国に侵入し、スパイ行動をしたと思われたが、一般人で、極秘作戦の内容は、不明のまま、証拠も見つからず、身体的理由も考慮され、日本へ移送される事になった。

ケリーは、村田の面会で得た情報を上層部へ報告していたが、特に、目立った内容は得てなかった。しかし、ケリーは、報告書には書かない情報を、暗号化して外部へ持ち出していた。




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