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作品名:始めの記憶 作者:野村英昭

第4回   4
第四章


福島沖1キロの海上に、貨物船と呂号46潜水艦が、停泊していた。貨物船から潜水艦へ作戦の風船、箱、ガス、爆弾が、積み込まれた。一週間前には、燃料補給用潜水艦が先に出発していた。極秘作戦遂行のため、おとり用の作戦も開始されていた。極秘作戦を敵から注意をそらす為の作戦だ。今日から、昼は潜行して、夜は浮上して航行し、約20間、太平洋をアメリカへ向け進む。敵対行動を一切取らず、ただひたすら発見されずに航行する。
夜間、浮上して航行していた艦は、朝日が昇ると、「潜航、深度20」の艦長、久保田の命令で海の中へ沈んでいった。

村田は、与えられた自室に引きこもった。久保田から乗組員との接触を禁じられていた。何より、船酔いが酷く、ベッドに横になっているのがほとんどだった。今、村田を支えているのは、絢子との思い出だけだった。ポケットから絢子の写真を取り出し、眺める。あの日の出来事が浮かんでくる。涙が止まらない。自室には、特殊爆弾5発が置いてある。爆弾は、特殊な容器に入れられ、まるで、ワクチンのようであった。あの日以来、取り付かれた様に研究を続けてようやく完成させた兵器だ。村田の人生には、もう、復讐の二文字しか残っていなかった。
恐ろしい生物兵器を開発したと言う考えはなく、倫理感も無かった。

極秘作戦の内容は、艦長と副官以外、知らされていなかった。積載した資材と、艦内の謎の人物についての噂は、広まったが、良く統率され久保田を尊敬する乗組員の間で、不穏な事を考える者は、居なかった。途中、燃料を補給し、敵に発見される事もなく、目的地海上に到達した昼間、浮上する夜まで、停止して待機することとなった。
極秘作戦に赴く三人の送別の宴がささやかに開かれた。しかし、誰も、作戦の事には触れなかった。誰をも、一番興味が湧いたのは、異彩を放つ科学者の平田だったが、誰も、声を掛ける者は、居なかった。そんな中、唯一声を掛けたのは、艦長の久保田だった。
「村田さん、もう船酔いは、治りましたか?」
「あ、どうも、艦長、お世話になりました。感謝申し上げます」
「いや、任務ですから。作戦が、成功する事をお祈りいたしております」
「有難うございます。敵に、一矢、報います。絶対に、絶対に・・・」村田の目の奥に、鬼気迫るものと、悲しさを見た様に、久保田は、感じた。

夜になり、艦上で組み立てられた、秘密兵器は、乗り組み員の見送りの中、上昇して行き、暗闇に消えて行った。久保田は、最後まで空を見上げ、敬礼をした。そして、呂号64も漆黒の海中に沈んだ。
 

一万メートルの上空は、極寒の世界だ。箱の中は、断熱されているとは言え、特別の服は、必須だった。村田は、耐寒訓練は、受けたとは言え、快適とは言えない、それも、狭い空間で忍耐を強いられた。それでも、作戦成功のため、装備の点検に余念がなかった。他の二人の軍人は、選び抜かれた屈強の者で、弱音一つも吐く事はない。彼らは、忙しく、気球の操縦に余念がなかった。箱は、中腰での移動が出来るぎりぎりの高さに、持ち場以外、殆んど移動できない、広さしかなかった。もし、敵に遭遇しても、防衛の手段はなく、ひたすら、敵の居ないのを祈るしかなかった。敵地、アメリカの気候情報は、ほぼ、皆無と言ってよいほどの情報しかなく、気球の進行方向や高度を維持する気流の情報も皆無と言って良かった。まさに、行きあたりばったりの作戦だった。事前の情報の通り、気流を捕まえれば、時速300キロにも及ぶ、速度で移動できるが、気流が蛇行して居たりしたら、目的地に正確に到達できない。その時は、自立飛行が出来る様に、エンジンが積んであった。しかし、それでも、時速80キロがせいぜいで、時間が何倍も要する。
一時間余りは、順調に、気流を捕らえ、飛行していた。軍人二人は、常に飛行航路を計算し、地図とみらめっこしていた。
「少し、北に流れているようだ、高度を下げて、別の気流に乗る必要がある。まだ、自力飛行には、距離が有りすぎる」二人は、お互いの意思の確認をした後、高度の降下作業に移った。もう一人は、常に、敵の無線通信の傍受をしていた。

この時点で、日本軍の得た事前の情報では、アメリカ軍の防衛網や哨戒機の情報は、作戦に支障が無いとの判断が下されていた。しかし、アメリカ軍の技術力を甘く見ていたのが、後で、露見する。

高度9500メートルで、いい気流に乗った気球は、順調に飛行を続けていたが、突然、遠くから爆音が、響いて来た。三人の心は、氷ついた。悪い予感は、的中し、祈りも空しく、それは、現実となった。雲の隙間から、戦闘機が出現し、翼にはアメリカ軍のマークが認識できた。無線に交信が入った。急いで、高度の上昇を心見るが、すでに、時は、遅かった。





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