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作品名:始めの記憶 作者:野村英昭

第3回   3
第三章
村田は、あの日以来、魂が抜けたようになり、研究所にも出所して居なかった。
生活は、荒れ、酒浸りの日々を送っていた。しかし、突然、狂った様に研究所に詰め、研究を始めた。研究所に寝泊まりして、サイレンが鳴っても避難所には行かず、研究を続行した。研究の内容は、食物から生物へ変わり、大型動物を扱うようになった。何かに取り付かれた様に顔は鬼面のようになり、一心不乱に没頭した。
そしして、数ヶ月が過ぎたある日、見違える様にこぎれいになった平田は、大きな鞄を引っさげて、出かけて行った。

建て物の外見は、特に変わった所は無いが、門と周辺には、軍の警備が引かれていた。用のない一般人の入門は、出来ない厳戒の警備が配置されている。
登戸研究所所長、尾崎尊は、応接室の椅子に座り、目の前の男に言った。
「帝都大学の細胞生物学研究所の平田助教授、何か危急のお話があると伺っておりますが、申し遅れました、所長の尾崎です。どのような、お話でしょうか?」
「お忙しいところ、時間を割いていただいて、有難うございます。今、日本は、危機的な状況にあります。登戸研究所では、日々、日本勝利の為、兵器の開発に邁進しておる事は、存じております。私も、微力ながら日本の為に、日々、食料増産の為に、研究を行っております。しかし、です。戦況は、軍部の発表とは反対に悪くなる一方です」
「平田さん、お口には、ぐれぐれも注意してください。此処にも、軍の監視下に置かれています。公安や軍の監視役が常駐しております」と尾崎は、慌てる様に言った。
「どうも、失礼しました。私は軍の悪口を言いに来た訳でもありません。どうか、話の続きを聞いてください」
「・・・言葉に気おつけて頂けば、結構ですが」
「有難うございます。・・・続きですが、私の研究は、食料の増産ですが、その研究の成果の一部を利用して、ある物を生み出す事に成功しまた」
「子供を沢山生む豚とかですか?」平田は、ニヤリと笑い、続けた。
「いえ、生物兵器です」平田の目には、恨みの炎が浮かんでいるようだった。
「生物兵器・・・・」尾崎の額に冷や汗が浮かんだ。

その後、平田は、データーや写真を示し、熱心に説明を続けた。
全ての説明が終わった時、尾崎は、平田が提示した計画に悍ましさを感じた。何かに取り付かれた、邪鬼の様に見えた。しばし、どうしたらよいか、考えが浮かばなかった。あまりにも、突飛で、直ぐには信じられなかった。しかし、この男が天才である事は、確かだった。そして、その理論、実験、データーにも、同じ科学者として認めるだけの物があった。だが、その計画には、多くの難題が存在した。



「平田さん、お疲れでしょう。一息、入れましょう。今、お茶の用意をさせます」
「いや、そんな暇はない、急がねば、機会を失う。早く、政府上層部に、計画を実行に移す様に、進言してください」平田の目は、疲れと高揚で、ぎらついていた。そんな平田に、尾崎は、恐れを感じた。
「分かりました。知り合いの政府の官僚に、会って話をしてみます。まー少し落ち着いて」尾崎は、内線電話を取り上げ、お茶を頼んだ。
お茶が運んでこられるまで、尾崎は、考えをめぐらした。お茶が運ばれて、一口飲んで、言った。
「今日は、これで、お帰り下さい。内容が内容なので、必ず、実行出来るものなのか、十分な検討が必要です。私の一存では、返事は出来ません。必ず、官僚に伝えますので、結果をお待ちください」
「必ず、伝えて下さい、必ず、日本の勝利の為にお願いします」平田の目には、涙が浮かんでいた。
「分かりました、約束いたします」平田ががっしり掴んだ手をほどきながら、尾崎は返事した。

平田が帰った後、尾崎は、自室に戻り、タバコに火を付け、深く吸い込んだ煙を吐き出した。此処の所長についてから一年半が過ぎた。戦況の悪化と共に軍部の要求もきつくなり、寝る間を惜しんで、所員は研究を続けていた。例の情報、アメリカが開発しているらしい大型破壊兵器、同様の物をドイツからの得た情報も同じだった。研究所でも、理論上は、可能な事は、確認されていた。そして、その兵器は、実現可能な域に達していても否定は出来ないと思っており、政府や軍にも説明をした。恐らく、その兵器が使用されれば、日本は戦いに負け、その兵器がもたらす、地球や人類の未来は、恐ろしいものになるだろうと考えていた。出来るものなら、その兵器を阻止したい。
尾崎は、政府官邸に電話をした。翌日の面会の予約を取り付けた。














福島県の北西部の田舎道を車は、飛ばしていた。民家が途絶えると畑が一面に広がっていた。そして、徐々に畑が減り森が多くなった。突然、目の前がひらけ、大きな平屋の当て物が数棟と二階建ての建屋があるのが目に入った。途中、二回の検問があり、門の検問で三回目だ。周りは高い塀に囲われ、軍の警備が巡回していた。車は、平屋の一つに横づけされた。平屋の広さは、二百メートル以上あるようだ。車を降りると迎えの軍の衛兵が敬礼し、中に案内された。中には工場長が待っていた。
「お待ち申しておりました。工場長の久留間です。途中は、無事でしたか?最近は、この辺にも、アメリカ軍の戦闘機が機銃を打ってくるようになって、市内の工場を攻撃した帰りに余った弾薬を使い切る様になりまして」
「いや、大丈夫でしたが、そうですか」と平田は答えた。
「では、案内いたしますので、こちらへ」工場長の案内で、広い構内を歩くと、工員が作業をしている光景が、続いた。
「ここで、例の兵器を作成しているのですか?」
「はい、総動員でやっております。此処では、最終工程の試験と組み立てを行っています」
「結構、大きなものですね」
「太平洋を越えて行かなければならない物ですし、重さも結構ありますから、それなりの体積が必要ですから」工場長は、最終試験と組み立てられた、極秘兵器、風船爆弾、を指して説明した。
視察が終わり、会議室へ入ると辻が待っていた。そして、もう二人の人物も、挨拶した。
「第六艦隊司令官、久保田です。今回の作戦で呂号46潜水艦の指揮を取ります」と敬礼した。
「登戸研究所所長の尾崎です」と握手する。
「平田さん、ご苦労さまです。遠い所までご苦労様です」辻と二人は、握手をし、席に着いた。黒板に大きな紙が貼ってあった。その前に所長が、立ち説明を開始した。
「では、さっそく、説明にはいります」差し棒を振って紙の図面を指した。
「今回の極秘作戦の為、普段の風船とは違い、材質は、特殊加工した布を使用してます。極寒、紫外線、などの過酷な環境に耐え、丈夫さと耐久性を備えています。そして、この籠は、登戸研究所の協力の元、軽量アルミ板を使用し、極寒の環境でも活動できるように設計されています。籠には、乗員三名と装備と爆弾と特殊兵器が搭載されます。そして、風船とは違い、自立飛行が出来る様になっています」次に、所長に変わり、辻が前にでて説明した。
「この作戦は、超極秘作戦なので、軍や政府内でも極少数しか知らないものです。改めて申すまでもなく、極秘であります。さて、作戦は、兵器をアメリカ西部海岸より約200キロ海上より、発進し、約1500キロ余りを飛行し、目標に爆弾を投下するものです。帰路の作戦は、ありません。乗員は、特殊訓練を受けた空軍所属の二名と、もう一人、別名の極秘作戦実行者の学者一名であります。
この作戦は、アメリカ軍が進めている大型大量破壊兵器の日本投下を阻止する為の物です。とても、困難な作戦だが、機会は、一度きりの最初で最後の作戦です。決して、失敗が許されない作戦です。では、次に、別名の、極秘作戦について、平谷に説明してもらいます」
「では、私から、別名の極秘作戦について、説明します。所長、退席を」所長が退席すると、平田は、続けた。
「この、作戦は、御前会議、参謀本部、内閣の承認を得ていない、この世に存在しない作戦です。この作戦は、この作戦の立案者と、ここの四名だけが知る作戦です。作戦の内容は、この特殊風船によりアメリカ本土へ運び、本土上空へ達した後、数弾の特殊爆弾を適時に、投下する物です。この兵器は、俗に言う生物兵器です。しかし、無差別に人を襲うものではないので、ご安心を。ウィルス兵器の一種ですが、人には感染力はありませんし、直接、人間をターゲットにしたものでもありません。これは、動物がターゲットです。このウィルスに感染した動物は、巨大化します。数十倍に拡大し、狂暴化します。鷲、ヒョウ、蛇、ワニ、熊、牛、犬、猫が巨大化して、全米を襲うとするものです。全米を混乱に落とし、アメリカを恐怖に支配させ、戦意を失墜させる作戦です。ハワイの襲撃以来、アメリカに直接攻撃を加える事が出来てません。今、日本を爆撃し日本人に恐れさせている事をアメリカ人にも味合わせる唯一の作戦です」
「まるで、おとぎ話の様な作戦だな」と辻。
「窮鼠猫を噛む、ですか」と久保田。
「この、作戦を実行する、提案者の科学者は、どんな奴だ?」と辻。
「どんな、奴かですか・・・・・」尾崎は、初めて会った時の事を、思い出していた。





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