第二章
村田は、今日も朝から研究に余念がなかった。食料増産は、日本国民を飢えから救い、軍事力の維持に絶対必要な命題である。しかし、そう簡単には実現出来ないのも事実だった。成果は、かなり上がって来てはいるのの、政府の要求する目標には達成出来ない状況が続いていた。今日も、サイレンが鳴り響き、避難所へ何回も行ったり来たりを繰り返していた。東北の方へ移転の準備を始まってはいるが、具体的な場所が見つかっていないのが現状だった。 「さっきの空襲、蔵前の方面もやられたらしいぞ」避難所から出てきた男が話していた。 蔵前、その名前を聞いた村田は、嫌な予感が浮かんだ。 「悪いけど、後は頼む、蔵前に行ってくる、直ぐにもどるから」と助手達に言うと、急いでタクシーを拾い、蔵前に向かった。
その一角だけが、周囲とは違う状況を呈していた。爆撃を受けた場所をなんども見て来たので、特に驚きや恐怖を感じる事は、無かった。しかし、今回は、冷静な村田も動揺せずにはいられなかった。アメリカ軍の爆撃は、目標へ投下するのが作戦なのだが、何らかの状況により投下出来ない時もあるらしい。機体に爆弾を積んでいるといないとでは、機の性能に影響がでる。奴らも逃げる時に身軽になる為、目標以外に爆弾を落としていく事もあるらしい。まさに、目の前の状況は、そんな事で発生したもののようだった。破壊、焼けた家は、数軒だけ。既に、消火され、救助作業が始まっていた。電信柱が倒壊し、横たわっていた。その柱についていた、住所表示、蔵前二丁目12番地。絢子の実家がある住所。しかし、その場所には、家の痕跡は残っていない。黒く焼け焦げた、木材の廃墟だけだった。茫然とする田村の前を消防隊員が駆け抜け、木材をかき分け始めた。 「発見、大人、女性とみられる」一人の隊員が叫ぶ。担架が運ばれ、載せられた人間が村田の前を通りすぎた。 「危ないから、もっと下がって」担架を担いだ隊員が叫ぶ。担架に横たわる人間を見た村田は、全身に身震いが起こる。声が出なかった。体のほとんどが重度のやけどを負い、息があるとは思えなかった。しかし、顔だけは、綺麗だった。担架が行きすぎ、救急車に乗せられて走り去った後。やっと、声が出た。 「絢子・・・・・・・」
戦況は、益々し烈を呈してきて、軍部も政府も逆転できる施策は無いものかと必死になっている所へ、またもや、追い打ちをかける情報が入ってきた。
内閣府の入る庁舎の一角の執務室内で、二人の人物が会話をしていた。 内務大臣官房、平田博と海軍大臣官房、辻省吾は、激しく口論していた。 「声が大きいい、機密情報だぞ、もっと、小声で」と平田が言う。 「本当なのか、確かなのか」と若干声が上ずり気味で辻が言う。 「間違いない、確かな情報だ。アメリカは、大型破壊兵器を開発している。一時、ドイツが開発していた物と同等らしい。ヨーロッパ戦線で、亡命した科学者を使って開発しているらしい」 「それは、どんな、物だ。大きい爆弾と聞いているぞ」 「いや、それは、完成すれば、人類が今までに使用した兵器と桁違いに大きい破壊力を持つらしい」 「その兵器は、いつ頃完成予定なのだ」辻の声はかすれ気味で、顔には血の気が失われていた。 「一年以内には、完成するらしいとの情報だ」 「もし、それを、使われたら、本当に日本は、終わりになってしまう。何とかならんの のか」
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