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作品名:発酵 作者:野村英昭

最終回   4
その次の日、神社に向かった。古文書にあった、祠に向かった。古文書には、奈良時代に同じような発酵文化の危急が訪れた時に、ある物で、消滅を免れたたと、そして、それを、祀ったと。
神社の裏山に大きな大木の下に、洞穴があり、その奥に、小さな祠があった。祠の中に木箱があった。箱を持ち出し、大学の研究室へむかった。研究室の無菌室で、中身を取り出し、分析を行った結果、現在、蔵に在来している菌とは、全く同じとは言えないが、同系統の古い型と推定された。俺は、それを、蔵に持ち込み、社長に話した。
「なんとも、話がとっぴで、••••• 私の処で使っていた菌は、確かに先祖代々守られた菌で、その発祥も我家に伝わる古文書には、奈良時代に、おおつげひめのかみより授かるとありますが、あなた様なら御存知の様に、蔵には蔵独特の菌があり、菌を変えれば、先祖代々守り伝えた味等が変わってしまう危険があります」
「ええ、解っております。もちろん、強制はできません!あくまで、決めるのは、蔵の皆様です。すでに、今シーズンは、仕込みに、間に合わないので、試験的に、実験室で行って、その結果を見てから、来シーズンどうするか、蔵の皆様に決めてもらうと言うのは、どうでしようか?」
大学の協力のもと、蔵の皆様の手で、試験的に小さい樽で、仕込む事が決まった。大学の構内に実験欄を建て、無菌室管理された、温度、湿度をコントロールした内部屋で、仕込みが始まった。結果が出るのは、半年後だ。

六章
 あれから、日本の各地の蔵からは、特に異常な報告は、来ていない。そして、彼女との接触も絶たれた。今日は、大学の試験の結果が出る日だ。不安と流行る心を押さえて、大学へ向かった。
大学にはすでに、関係者は、揃っていた。
「それでは、いよいよです。取り出します」蔵の職人の吉川さんが、試験室に入っていった。
試験室から出された小さな樽には、蔵の未来を決める発酵物が入っている。スプーンに少量とり、試食をする。匂い、味を噛み締める。
「どうですか?吉川さん」職人の吉川さんに尋ねた。正直、自分的には、不味くはないとおもったが、決めるのは、職人さんだ。
「悪くは無いと思います。しかし、以前の製品と同じかと言われれば、違うとしか言いようがありません」
「そうですか、つまり、その、蔵の製品として、出せるかと言うと、どうですか?」
吉川さんは、もう一口、味見わして、答えた。
「うん、まだ、なんとも、このままだと、内の蔵の製品として出すのは」
「やっぱり、無理ですか?」
「いや、今は、と言うことです。何度か、仕込んで、蔵に馴染ませて、みれば、菌を知れば、新しく育てて行けば」
「なんとか、行きそうですか?」
「まあ、安心はできませんが、救世主には」
「良かった」
「先生、有り難うございました」
「ああ、私もうれしいよ。この菌について、もっと、研究して、後押しするつもりだ」
「宜しく、お願いします」


半年後、実家に帰郷した。

「どうだ、仕事は、なんか、大変だったようだな」この半年間、仕事が忙しく、実家には、電話も掛けてない。新しい仕入れ先や製品の開発、そして、危機対応と、目廻るしく日々を送っていた。生活が乱れ、体重も減った。
そして、遂に迎えたこの日。蔵の新製品の出荷の日だ。
昨日、神社に参拝をして、関係者で、お払いを行った。ついでに、彼女に会った。
「久し振り、元気だった?」いきなり、また、殴られた。
「う、何を」
「心配させられた、御礼」ゴリ押しの理屈だ。
「痩せた?」なのに、この火打。
「かなり、色々な事が続けて起きたからな。心身共に消耗したしな。体重も落ちたよ」かいつまんで、一連の出来事を、説明した。あの美人の外人さんが、また、いきなり出てきそうで、つい、周りを見渡した。
「噂は、あったけど、あんたも、苦労したんだ。お疲れ様でした」彼女は、笑顔で言った。そして、キスしてきた。
「これ、どういう意味かな?」
「私達の関係も、発酵させたいなと」
「そうだな、熟成させよう」俺は、彼女にキスをした。


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