20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:発酵 作者:野村英昭

第2回   2
第二章
 翌朝、ホテルを出ると、真っ直ぐに、蔵へ向かった。
「もう一度、申し訳有りませんが、工程の確認をして頂いて、一つひとつ、細かく観ていきましょう。よーく、思い出して、ちょっとした細かいことでも、いいですから、言ってください」
俺は、何としても、原因を見つけて、この問題を解決する事に決意をおらたにした。
6ヶ月分の日常の作業工程を思い出すのは、流石に、困難がともなった。まず、原料の仕入れ。大豆、米、確認と保管に、問題は無かった。米の蒸し工程と冷まし、大豆の蒸しと、管理。麹の工程に問題は、発生していない。麹の出来に問題もない。麹と大豆、塩を混ぜて、樽に入れて、熟成させる工程に問題はなかった。ちょっとした異常も、問題も発生していなかった。熟成期間中も最後の異常が発見されるまで、問題は発生しておらず、管理も順調だった。作業員の健康も衛生管理も、問題なかった。工場の生産体制も問題が起こってなかった。原因は、判ってないが、原因になりそうな、問題は、発生していなかった。全て、順調だった。会議室に担当者を一人づつ、全員、呼び出し、尋問を行ったが、もう、尋問する人間が残っていなかった。幹部たちは、疲れと万策つきた感から、暗い空気が漂っていた。すると、人事の課長が言った。
「此は、全然関係ないと、思いますが」
「なんですか、何でも、いいですから、言ってみて下さい」
「あの、今月に一人退職してます」
俺は、そんな事もあるなと、思った。退職者と味噌が関係有るとは思えなかったが、何でもいいと言った手前、いいですとは、言えないので、詳細を聞くことにした。
「詳しく、お話、願いますか」
「はい、では。退職したのは、長年勤めておりました、日長と言う者で、賭事で借金が重なり、業者から仕事中に電話が、かかって来るようになり、皆に迷惑が掛かる様になったので、本人と相談の結果、退職となりました。退職金の前借り当の申し出ごがありましたが、規則で出来ないと断ってました」
「そうですか」
「そう言えば、日長さん、退職した後、蔵にお別れを言いたいと、訪れた時があったな」
その日は、何の進展もなく、俺は、市内のホテルに帰り、近くの飲み屋で夕食を取っていた。すると、店内のテレビで、ニュース番組が始まり、アナウンサーが、本日、起きた事件について、喋りだした。
その事件は、離婚騒動の末、妻が嫌がらせで、夫のご飯に毒物を混入させたと、言うものだった。幸い、毒物は、微量だった為、大事に至らず、妻は逮捕された。と言う内容だった。
それを、見た、俺はある疑惑が湧き、蔵に電話して、退職した日長さんの住所を聞いた。

翌日、朝食も取らずに、日長さんの住所に向かった。日長さんは、蔵からそう遠くない、農村地帯にあった。冬の間、出稼ぎの様な形で、蔵に若いときから勤めていたらしい。家は、一軒家で、周りは畑が広がっていた。玄関の呼び鈴を押したが、誰も返事がなかった。ドアに手を掛けると、鍵が掛かってないようだった。ドアを開けて、玄関に入り、再度、声を掛けた。家の中は静まりかえり、物音一つしてなかった。仕方がないので、外に出て、中庭に向かった。何処かの畑で作業をしてないかと、畑を見渡したが、誰も居ないようだった。納屋が見えたので、念のため、覗いてみた。薄暗い室内に野菜や油などの複雑な匂いが漂っていた。中に一歩入った所で、俺の額に冷たいものが当たった。
それが、彼らと遭遇した最初の事、だった。
彼らの話しによると、日長に彼らがマークしている外国人との接触があったらしい。彼らによると、日長は、ここ数日、家には戻ってないようだった。
俺は、自分の勘に自信を持ち始めた。彼らの推測どうりなら、解決は近いと。 
だか、彼らのもそうだが、先生との約束もある、警察に話して、日長さんを捜査してもらう訳には行かないと思った。外人の事は、彼らにまかして、俺は、日長さんを探すことにした。先生の検査の結果が出るまで時間が掛かるはずだし、それまで探そうと思った。
とりあえず、近所の聞き込みをする事にした。日長さんは今は独身だが、以前は、妻と子供がいたらしい。離婚して、奥さんは、実家に子供と帰ったらしい。蔵で聞かされたギャンブルが原因らしい。近所の人の話だと、人間的には良い人らしいし、犯罪を起こすような人ではないように思えた。両親は、共に他界していた、妹が一人おり、年に一回程度里帰りしていたらしい。東京に住んでいるらしいが、住所までは、判らなかった。
俺は、考えた、実家には年賀はがき位は、来ているのではないかと?
家は、空き家同然、誰かに視られなければ、良いだけ。案の定、リビングの茶箪笥の引き出しに、年賀はがきは、あった。
そのアパートは、埼玉の東武東上線の志木駅から徒歩10分程度の所にあった。目的の部屋は二階の三号室。
早朝、ビジネスホテルを飛び出し、到着したが、まだ、普通なら寝起きの時間帯だ。部屋の呼び鈴をならす。部屋から、音がした。確かに、在宅している。
「はーい、どなた様ですか?」俺は、その時になって、何と名乗るか考えてない事に気がついた。下手に名乗れば、日長が逃げてしまうかもしれない。ここまで、がむしゃらに、やって来たが、日長がもしいたとして、どうするか、考えていやかった。俺は、何をしようと、しているのか?とにかく、返事をしなければ、ならない。一番いい答えは、正直に答えることだ。
「私は、株式会社豊丸商事の社員で、笹賀屋 の味噌を販売しています。お兄様の事で、お話がしたいと思いまして、お伺いしました」
「こんな物しかありませんが、どうぞ」1LDKの部屋は、綺麗に整頓され、俺の部屋とは、大違いだった。テーブルに出された、缶コーヒーを一口飲んで、話した。「実は、お兄様の、行き先をご存知ないなと、思いまして」
妹さんは、兄より歳が少し離れているようで、若く見えた。顔がみるみる崩れ、涙声で言った。
「申し訳、ありません。ご迷惑をお掛けして。兄も、大変後悔しておりまして、借金を返済したら、許してもらえるか、分からないが、また、  で、働きたいと申しておりました」

俺は、岡山に戻る新幹線の中で、もやもやする気持ちになっていた。自分がここまで、してきた行動に対して自問していた。

第三章

岡山に戻ると、俺は、馴染みの店に行った。店長は、俺の事を覚えていて、久しぶりの来店にも喜んで迎えてくれた。懐かしさもあり、自分の馬鹿さ加減もあり、酒を煽った。
気がつくともう、朝になっていた。それと、居酒屋ではなく、ソファーに寝ていた。起き上がると、猛烈な頭痛が襲った。
「ぐわぁあ、痛ってー」
「起きたの、おはよう」
俺は、頭を押さえながら、声の方へ頭を向けた。そして、今度は、驚きの声わ上げた。
「エー! なんで、いるの?」
「馬鹿言わないで、それは、こっちの台詞よ」
目の前に、いるのは、幼なじみの美和だった。だか、その後、俺は、床に頭を擦り付けていた。
「本当に、申し訳ない。迷惑をかけて済まない」
「本当、三年も連絡もないのに、まったくよね」
「色々とあって、店長とも久しぶりだし」
「重かったんだけど」「なんとも、いい訳はしません。この、お返しは、どのようにも」
「当然よ、何して貰おうかな」

薬を飲んで、朝御飯を頂き、落ち着いた所で、事の経緯を説明した。しかし、CIAやテロの事は、話さずに、日長が悪さをしたのでは、ないかと、疑った事にした。
「そんな事が起こっていたのね、それで、飲みすぎた訳」
「そうなんだ、つい、飲み過ぎた」
「でも、悟のやる事じゃないんでない?それって」美和に言われるまでもなく、その通りで、気づいていたはずなのに、気づいていない振りをしていた自分を認められずに、酒に、逃げてしまった。俺は、馬鹿な人間だ。
「その通りだ、俺は、成果をあげて、自分のキャリアの為に、一人の人間を、犯罪者にしようとしていた。俺は、卑劣な人間なんだ」
俺は、部屋を飛び出して、あてもなく、走っていた。何処をどう走ったかは、分からないが、気がつくと、川の土手に出ていた。無意識に、昔の馴染みの場所へ来たようだ。学生時代、よく友達と寄り道して、遊んだ。特に目的があった訳でもなく、何となく此の景色がすきだった。色んな話をしたな。寝転んで空を眺めた。あの当時と同じように見える、青い空と白い雲。変わってないように見えた。変わったのは、俺なのか? 広い空を自由に流れて行く雲、それを見て、俺も世界中を飛び回りたいと思った。
その時、携帯の着信音が、現実へ引き戻した。
「はい、吉川です」
「吉川さん、あれから、連絡が無いので、どうなりましたか?」
「あ、はい、すいません課長。ご報告がおくれまして。」
「岸本先生からの、ご報告は、まだ、ありません。分析には、まだ、掛かると思われます。結果が、出次第、ご連絡頂く事になってますので、はい。蔵のほうは、細かく異常が無かったか、洗い直してもらってますが、未だ、何も、出てません。これから、また、蔵に向かいます。はい、はい、宜しくお願いします、失礼します」
頭が、熱くなった。深呼吸して、頭を冷やした。たま、携帯の呼び出し音が鳴った。
「はい、吉川です」
「あ、岸本です。」
「先生、お早うございます。何か、ありましたか?」
「分析の結果が、出たので、とりあえず、結果だけでも、伝えようと思いまして」
「え、早いですね、もっと、先だとおもってました。で、結果は、何か、判りましたか?」
「結果は、何も、出ない、と言う事だ」
「はあ、何も無いとは、どう言う事ですか?」
「詳しくは、報告書で書くが、つまり、味噌の成分以外、何も、検出されなかった、と言う事だ」
「何も、ないと」
「そうだ、菌も、麹、乳酸、酵母、以外、存在しておらん。普通だと言う事だ。電話では、なんだから、詳しくは明日、報告書を取りにきなさい。では、その時に、失礼する」
電話が、切られても、暫く、ぼーと、していた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 27