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作品名:発酵 作者:野村英昭

第1回   1
一章の導入部
 俺は、死ぬのか!
実物は、見たことはないが、映画やニュースで見た事がある、記憶している外観とほぼ一致していた。俺の額に向けられているのは、確かに、拳銃だ!
「助けてくれ、俺は、あんたなんか知らない」
男は、明らかに外国人だった。
「、!、、、、」
後方いた、やはり外国人の女が何か英語で話した。俺は、腰が抜けて、ぶざまに、地面に転がっていた。女が近づいてきた。
「すいません、驚かして」流暢な日本語だった。

「コーヒー冷めますよ、飲んでください」一時間後、俺は、カフェにいた。前の座席には、キチッとした、スーツを着こんだブロンドのメガネ掛けた、地味な顔つきの女と、そのとなりに、精悍な顔付きな、先ほど俺に拳銃を突きつけた男が座っている。
「どうぞ、コーヒーをお飲みください、冷めますから」女は、日本語を流暢に話す。俺は、何とか冷静を装うとして、コーヒーカップを持上げて飲もうとしたが、小刻みに震えていた。
彼らの話しは要約すると、こうだ。
男の方は、なんと、ぶったまげな、CIAの局員の捜査員で、女は連邦食品医薬局の局員らしい。それで、彼らは、国際的なテロ組織の犯罪を調査中で、極秘で日本にやってきた。テロ組織は、国際的な食糧テロを計画中で、試験的なテロを日本で実施中だの事。その一つが、発酵食品のテロだとのこと。つまり、今回の味噌騒動がそれに当たると観ている。で、もって、俺は組織の一員と勘違いされたらしい。
彼らは、俺に秘守契約をさせて、俺に情報提供の協力を申し出た。俺は、頭の整理がつかない状態だが、承諾していた。



俺は、三年前、故郷の岡山からここ大阪に大学を卒業後出てきて、今の会社、総合商社 岩道商社に就職した。日本を代表する商社の五番目位の大きい会社だ。俺は、この会社に入って世界中を駆け巡って、大きな商談をまとめるのが、夢だった。しかし、現実は、そうも行かず、最初は雑用、そして、いろんな部署を経験させらされて、ひたすら先輩の後をついていき、勉強の日々。三年目になって、ようやく配属が決まった。でも、世界ではなく、日本、それも、発酵食品の部署だった。扱う商品は、チーズ、ヨウグルト、醤油、味噌、等々。 俺は、正直言えば、チーズも味噌も苦手だ。なんの因果かそんな部署に配属されるとは。とにかく、頑張って、海外部門への配属のチャンスを掴むぞ。
仕事も順調にこなして、初夏を迎えようとした時、それは、起こった。

その朝、いつものように、出社すると、課長に呼びだされ、会議室へ連れ出された。会議室に入ると、部長が怖い顔をしてすわっていた。部長は、これから話すことは、社内外で誰にも話してはならないと、前置きして、要件を話した。

早々会社を出ると、駅に向かった。新幹線の自由席に座り、岡山まで50分余り掛かるので部長の話を考察した。
突然、仕入れ先の笹賀屋から連絡が入り、今年の新味噌が納品出来ない事になったと言うことで、かなり社長も動揺しており、説明がはっきりしてなかったとの事で、現地に行って事の次第を調べてこい。 
俺としては、訳が判らず行かされる羽目になったが、就職してから故郷に帰ってなかったので、得した気分だ。
納品が急遽出来ない事態と言うのは、どんな事なのか、経験の浅い自分で解決出来るのか不安でもあった。例えば、製造工程に不具合が生じたとか、製品に異物が混入したとか、火事になったとか、経営上の問入れ担当者と電話で話した時は、全て順調との事だったが? 当てはまる様な前兆は、何もなかったと、今、考えても判らない。
時間は、あっという間に過ぎ、岡山駅に列車は滑り込んだ。
津山線に乗り換え備前原で降りた。
こんな事でなければ、三年ぶりの故郷で、やりたい事もあったが、そうもしてられず、タクシー乗場へ急いだ。

笹賀屋は、旭川の上流に位置して所にある。
タクシーを降りて、蔵の前に立つと、改めて創業200年の歴史の荘厳さが押し寄せてくるとなるところ、俺には何も感じなかった。古めかしいだけだった。

工場内に入ると、あの独特の匂いがしてくると思いきや、そうではなかった。俺は、正直ほっとした。ただ、何か別の気配で、背中が、ゾクッとした。

会議室に通され、待っていると、社長を始め、幹部が、青い顔をして入ってきた。
「川西さん、この度は、誠に申し訳御座いませんでした。こちらから、出向くところ、おいで頂き有り難うございます」社長一堂、頭を下げて言った。
「いや、どうぞ、頭を上げてください。それより、一体、どうしたことなのか、説明してください」「今回の事ですが、何と説明したら良いか、私どもにも、まったく説明できないのです」「それは、どう言う事でしょうか?

工場長の説明によると、今季の仕込みを終え、熟成中のタンクを点検した所、熟成が進んでいない事が発見したとのこと。すべてのタンクで確認出来たそうで、その原因を色々と調べたが、全く、見当がつかないとの事。このまま、熟成期間を伸ばしても良いが、そうなると、今季の出荷は、一つも出来ない事になるそうだ。熟成に至るまで、何処の工程でも、異常は見られなかったそうで、全く原因が見当たらないらしい。熟成中も順調に思われたとの事だった。
俺も、配属になった当初、仕事に必要なスキルとして、一応、一通りの勉強はした。説明を聞かされても、何一つ、原因について、浮かんでこなかった。
俺は、一報を会社に入れ、味噌のサンプルを携え、ある場所へ向かった。

懐かしい思い出が、甦るその佇まいに、俺は、しばし、門で止まった。電話でアポを取った関西大学科学生命工学部の酵素工学研究室へ向かった。

「岸本先生、忙しい所、面会頂いて有り難う御座います。豊丸商事の吉川です」
「電話での話しは、本当なのかね」
「はい、間違いありません。蔵の人達は、混乱して、大変な騒ぎになってました。」
「私も、長年、発酵の研究しているが、そんな話しは聞いた事がない。もし、事実だとしたら、大変な事になる」
「ここに、サンプルを持参しました。調査を是非、お願いできるでしょうか?」「拝見、しましょう」
先生は、俺からサンプルを受け取ると、匂いを嗅ぎ、味見をした。先生は、眉間に皺を」せて、空中をに、睨んでいる様に、暫く何か思案している様だったが、急に俺に向き直り、言った。
「最初は、話を聞いた時は、悪い冗談だと思ったが、、私のところには、色々なものが持ち込まれもので、中には悪いイタズラめいた物も少なくない。、、、しかし、これは、冗談とは、言えないようだ」
「あの、どういう、ものかのか、解りますか?」
「吉川さん、この事を知ってるのは、大勢居るのですか?」
「いえ、会社の上司と蔵の人達だけです」
「今の段階では、詳しく検査しないと、何とも言えませんが、大変な事態にかるかもしれません。この事が、公にならないようにしてください。」
「いつ頃、結果が出ますか?」
「早急に、検査しますが、慎重に行いませんと、暫くは、かかるかと。結果が、で次第お知らせします」「では、宜しくお願い致します」
「ああ、吉川さんは、卒業生だそうですね」
「はい、令和八年卒業です」
俺は、研究室を出ると、次第を会社に報告した。上司によると、もう一社、納品が出来ない所がでたらしい。
俺は、再び岡山へ戻る事にした。


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