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作品名:彼岸花 作者:悠々

第4回   1967年初夏
 五月のゴールデンウイークが終わり、僕らは六月の新人寄席の準備にとりかかった。僕は漫才をするつもりだった。
先ず相方探し、誰? 神尾しかいない、と思った。
そんな矢先、神尾から漫才コンビの誘いがあった。
「前世からの約束事だ」神尾は言った。さだめ? 僕らは神からの決定事項のようにコンビを組んだのだ。先ず言葉遊びから始めた。

「ラーメンのラをザに置き換えて」
「ザーメン」
「マンゴーの濁点をとれば」
「マンコー」
「一個、十個、百個、千個、次は? 」
「マンコだよ」
「雀百まで踊り忘れず」
「ミミズ千匹踊り忘れず」
「メイコさんが王さんと結婚すれば」
「王メイコさん」

 罪のない下ネタばかり、それらを言い合って呼吸(いき)を合わす練習。僕がボケになったら神尾がツッコむ。神尾がボケたら僕がツッコむ。その場、その場で、神尾が、
「台詞を覚えるな」
「覚えるから忘れる」
「感性でーー 」と演出する。
そんな時、いつも美沙、美沙がいた、いたのだ。私の居場所は此処よと言わんばかりに。
またエンタツ・アチャコのネタの読み合わせ、それらを繰り返しながら、二人で笑いの方法を探っていく。洒落、誇張、勘違い、予期せぬ答え、それらの笑いネタを作っていく。
日常会話の延長、自由自在に発想が広がっていく。時に美沙が先輩としての意見を言う。
 新人寄席、僕は適度な緊張感の中、客席の幾つもの黒い頭、頭、頭を見た。ほんのりとした顔、顔、顔を見た、見渡したのだ。僕の初舞台だ。隣には神尾がいる。僕は安心感とともにしゃべくった。最前列に陣取る先輩らが笑う。黒い頭が揺れ、薄ら顔も一緒に。美沙が笑った。いつものままだ。日常だ。笑い、笑い、はっはっは、 拍手のうちに僕らは舞台を降りた。
 この満足感、やめられない、この快感、やめられない。
「よかったよ」と美沙が言う。
僕は興奮気味に、「よたっかよ」とサークルで流行っている逆さ言葉で返した。
打ち上げ、先輩たちからの講評があった。
工藤会長は、
「ええ、昔から女のよがり声は(あっ、は〜ん)より(あん、あん、あん)がいいと言い
ますが」と例のごとく。
先輩らは、「もう、ええちゅうねん」と。
なおも会長が、「笑いは生命力や! 」と。
「あぁーー やっぱり」と先輩ら。そして最後、先輩らは会長に向かって、
「受験生、受験生ーー 」と囃し立てた。
工藤会長は、その言葉に乗り、彼の故郷の阿波踊りのように踊った。
そして、「なんでやねん! 」と締めた。
          ☆
 それから数日後、僕は美沙とセックスした。
「ひとつお願いがある」僕は美沙に言った。
「何? 」
「セックスしたい」
「いいよ」
美沙はキャッチボールのように僕の言葉を受けとった。なんの躊躇いもなくご
く自然に。
「有難う」
「コンちゃんつけてね。これだけはお願い」
「えっ? 」
僕はその時コンちゃんと呼ばれているサークル仲間が、「なんや避妊具みたいな名前やな」と皆から言われているのを思い出した。
僕は笑いながら、「あぁ、ーー 」と。出町柳、僕の下宿、外は雨だった。
 美沙はごく自然の営みのように僕そのものを受け入れた。僕は彼女のリアルな白い肌の上にいた。
窓から紫陽花が見えた。初舞台のように冷静だった。雨は降りやまなかった。
僕は美沙の脇を舐めた。
「いや〜ん、くすぐったい」
白い肌に逆立つ陰毛。その下の秘めやかな割れ目に指を入れた。
「痛い! 」
美沙はイクとき、「あん、あん、あん」と泣くような声を上げた。
「あっ、確か、前にもこんな風景見たことあったっけーー 」裸の美沙が呟いた。
「デジャブ? 」僕は言った。
そして、あん、あん、あん、って? 工藤会長? 僕はそう思っていた。
         ☆
 同じ頃、神尾も美沙とセックスをしたらしい。神尾は美沙とのセックスを「たいつりぶねにこめおいさくのさみ」と、逆さ言葉で表現した。
僕は美沙が神尾に凌辱されたような気分になった。だからその言葉をわざと無視した。
「コンちゃんは? 」
「い、いらん、いらんよ」神尾は強く否定した。
「えっ! 」僕は嫉妬した。それから、
「俺もセックスした」と言った。
「えっ! 」神尾は卑屈な笑いを浮かべた。
「どっちが先? 」
「どげんでんよか」神尾は突き放すように言った。
美沙が同時期に二人とセックスしたことに対し、神尾は、
「美沙は欲張りだ」そんな言葉で片付けた。


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