しかしここで文句を言っても状況は変わるわけではない。それを覚悟してこの朝舞探偵事務所に入社したのだ。早く一人前にならなければ!!・・・って特訓したって走り回ったって逆立ちしたって俺のような凡人が霊能力者にも超能力者にもなれないんですけどね。トホホ・・・。俺は諦めの境地に至った。 「それで今度は妖魔を相手にするんですね。なぜ妖魔が鏡を守っているんですか?」 「さぁ理由は分からないけどとにかく夜鶫の鏡には強い妖魔が守り人としてついているという噂が裏の世界では出回っているのよ。」 「出回っているということは妖怪組合でもあってそこで回覧板でも回しているんですかね。それともチェーンメールでもしているんですかね!全く迷惑な話ですね!」 「淳君。太郎ちゃんがやさぐれてしまったわ。」 「そのようだね。」 茜さんと淳さんがくすっと笑った。完全に俺をいじって楽しんでいる。 「回覧板もチェーンメールもやっていないと思うけどそういうのは噂で広がっていくものなのよ。噂好きの妖怪や妖魔や幽霊はたくさんいるわ。きっと暇なのね。」 「そんな近所のおばちゃんレベルなんですか?」 「あ、噂好きといえば太郎ちゃんの二軒隣りに住んでいるおばあちゃんね、あの人妖怪だから。」 「え・・・。」 俺絶句。茜さんたらなんの前置きもなく、なに突然爆弾発言してくれているの? 「太郎ちゃんは分からなかった?この前、太郎ちゃんとおばあちゃんが仲良く話しているのを偶然見かけたんだけどあの人妖怪よ、体中から妖気が漂っていたから間違いないわ。」 「とっ・・・常田さんがですか!?」 「あのおばあちゃん常田って言うのね。まぁ見た目は普通の人間だから見分けはつきにくいわね。それに他のおばちゃんと同じように髪の一部を紫色に染めていたし。」 「ところで茜ちゃん。前から不思議に思っていたんだけどなんでマダムって髪を紫色に染めるんだい?」 いきなり淳さんが素朴な疑問をぶつけてきた。 「さぁ、どうしてかしら。でもスカイツリーの紫色のライトは綺麗よね〜。」 「あぁ、確かにあれは綺麗だな。確か雅というタイトルがついていたな。厳かな紫って感じでいいな。」 二人は感心しながら喋っている。 「ちょっと!!何普通にスカイツリーの話しているんですか!?常田さんは妖怪なんですか!?本当に!?」 俺は焦って話を元に戻すが。 「なにビビっているのよ。太郎ちゃんは仕事で今までたくさんの妖怪と会ってきたでしょう?今さらご近所さんの妖怪に怯えてどうするのよ。ご近所なんだからこれからも仲良くしなさいね。」 「いや、確かにそうなんですけど・・・。でもたくさん会ってきたと言っても会ってきたうちの三分の一ぐらいしか姿が見えませんでしたけど。」 戸惑いながら答える俺を淳さんが不思議そうな目で見てきた。 「霊感が強い茜ちゃんとずっと一緒にいるのに太郎君はなかなか霊感が上がらないね。なぜだろう。」 「鈍感で悪かったですね。僕は普通の人より50mぐらい後方からのスタートなんです。」 俺はとうとう開き直った。 「霊感が強くてもあまり良いことないわよ。見たくない時も幽霊が見えてしまったりするし。太郎ちゃんは超鈍感で良かったわよ。普通の人が10周してゴールした頃、太郎ちゃんは周回遅れも甚だしくやっと1週したぐらいの鈍感さだけどそれでいいのよ。」 そこまで俺って鈍感か? 「茜さん、僕の鈍感さに怒ってますね?」 「そんなことないわよ。」 茜さんはにこっと笑うが絶対心の中では怒っているに違いない。 「まぁまぁ太郎君も茜ちゃんもその辺で。そろそろ段取りを決めて鏡を手に入れる準備をしないと。」 「それもそうね。」 「そうですね。」 淳さんの言うとおりだ。ただ鏡を取ってくるだけじゃないんだ。相手は妖魔。慎重に事を運ばないと。 「ちなみにその妖魔は強いんですか?」 「めっぽう強いという噂よ。あまりに強いんで他の妖怪がちょっかい出せないみたい。」 あああああ、だよなー。弱いわけないよなー。ショックでがっくりと肩を落とす。 「そんなに相手が強いなら僕はかえって足手まといになりますよ?足手まといになる自信ならありありです!!」 「どういう自信よ。」 「僕何も出来ませんよ。ダンゴ虫のように丸まっていることしか出来ません。」 「大丈夫よ。噂ではその妖魔は人を見るらしいわ。霊力や力が強い人間や妖怪相手なら全力で戦うけど太郎ちゃんみたいな力のない人間相手にはかなり手を抜くというか何もしないらしいの。ほら、あれじゃない?震える小鹿を見ているとかわいそうになって手を差し伸べてあげたくなるじゃない?きっとあういう心境なのよ。」 「僕は小鹿ですか・・・。」 「そうよ。だから小鹿・・・じゃなくて太郎ちゃんで油断させといてその隙に鏡を奪うわ。」 「!?それじゃ僕はただの囮じゃないですか!」 俺は憤慨した。 しかし茜さんは涼しい顔で 「そうよ?なんか文句ある?」 笑顔の茜さんから圧力がかかる。有無を言わせない迫力。 「小鹿になります。」 「賢明な判断ね。」 「ううっ。」 負けた・・・。俺は巨大な悪に屈した。 「ということで所長、太郎ちゃんを連れて行きますけどよろしいですか?」 伯父は読んでいた新聞から目を離しこちらを一瞥した。 「うむ。あとは煮るなり焼くなりしてくれていいぞ。」 いやぁああああああぁああああ。
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