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作品名:朝舞探偵事務所〜妖魔のおもてなし〜 作者:空と青とリボン

第44回   44
「はい!?」
俺は驚愕。茜さんも淳さんも驚いて伯父をまじまじと見つめた。
「いやいやいや伯父さん、止めておいた方がいいって!」
慌てて伯父の無謀を制止する。
「鏡を見ても死なないんだろう?だったら見ない手はあるまい。」
「いやだから今までの話聞いていました?人は未来を知らない方が幸せなんですって!」
「私は知った方が幸せなのだ。不幸な未来を知ったところでそれがなんだ。運命は変えられると私は信じているぞ。いかなる人生も自分がどう思い、どう動くかだ。」
伯父は自信満々に言い放った。俺的にはほざいた、だけど。でもこの無謀さ・・・いや覚悟は見習うべきところかもしれない。伯父が少しかっこよく見える。
「所長はチャレンジャーなんですね、僕には真似できません。」
淳さんが感心している。
「所長、本当に見るんですか?止めておいた方がいいわよ。」
「私はそんなヘタレではない!朝舞探偵事務所の所長だぞ。」
エヘンと胸を張る伯父にこうなったら言うべきことは一つ。
「伯父さん、グッドラック。」
俺はサムアップして伯父の背中を押した。鶫守は伯父の傍にそっと近寄り鏡を差し出した。
「見るがよい。」
鏡を受け取った伯父の喉がごくりと鳴った。やはり緊張してきたのだろう。
「白絹布を取って鏡と向き合えばじきにそなたの未来が映し出されるだろう。あ、他の者はここから離れるように。」
「え?」
伯父がきょとんとして鶫守を見た。
「夜鶫の鏡は対象者と一対一となった時しかその魔力を発揮できないのだ。本人以外の何人も立ち入ることを許さない。わしだとて例外ではないからな。皆、ここから離れるように。」
「はい、分かりました。」
俺たちは納得した。一方、伯父は唖然としている。
立ち去りかけた茜さんが振り返り
「じゃあ所長頑張って。」
淳さんも振り返り
「どんな未来を見ようとドンマイですよ、所長。」
にこやかに笑った。伯父はハハハと乾いた笑みを浮かべている。
「伯父さんの勇気に乾杯です。あ、万が一、人様に言えないような壮絶な不幸を見てしまっても僕に話さないでくださいね。僕も落ち込んでしまうから。まぁ伯父さんなら大丈夫だと思うけど。ファイト!」
俺は別れの言葉を告げて踵を返した。その時だ。いきなり伯父が俺の腕を掴んできた。
「なっ、なんですか!?いきなり。」
「頼む!ここにいてくれ!」
伯父が涙目で懇願してきた。俺は耳を疑った。
「嫌ですよ。鏡を見るのは一人でと言われたでしょう?頑張って下さい、伯父さん。」
俺は伯父の腕を振り払って満面の笑顔で伯父を勇気づけた。良いことをしたと俺は得意満面、意気揚々と歩き出す。
「・・・。」
後には一人取り残された伯父。その手には魔性の鏡。心細さと恐怖が伯父を襲った。
「いやだーーーー!!」
伯父は泣きべそをかきながら俺たちを追いかけてくる。
「ちょっと!なんでこっちに来るんですか!」
伯父の予想外の行動に俺は焦った。いや、本当は予想内だったけどね。
結局伯父は未来を見ないまま鶫守に鏡を返した。
「見ないでいいのか?」
「未来は知らない方がいいのだ。」
「伯父さん、さっきと言っていることが違いますよ。」
「己の心と向き合い改心したのだ。」
「あんな短時間で?」
「改心に時間は関係ない。」
伯父はかっこつけているが俺は見逃さなかった。
「でもさっき涙目でしたよ。鼻水も出ていました。どう見ても怯えきっていましたけど?」
「鶫守、夜鶫の鏡はあなたに託しますよ。あなたが持っているのが一番ふさわしい。」
俺の話など聞いてやしない伯父はニヒルな感じで言ったが鼻水が乾いた跡が痛々しい。
「今さらかっこつけても遅いのに・・・。」
俺はぼそっと呟いた。
「太郎、今何か言ったか?」
伯父が恨みがましい目で見てくる。
「いいえ、何も。」
茜さんと淳さんが苦笑いした。まぁ、いつもの光景だもんな。それを見た鶫守は豪快に笑った。
「わはははは。まったく実に楽しい人間たちだな。また遊びに来てくれ。」
「はい、是非。」
淳さんがにこやかに言った。その横で茜さんが何か言いにくそうにしていたがやがて決心したのか突然切り出した。
「鶫守、しずくのことは良いんですか?」
俺はハッとして鶫守を見つめた。
「・・・。」
いきなり切り出された問いに鶫守は戸惑っている。
「余計なお世話かもしれないけど、あなたのことを裏切った彼女に何か言ってやったほうがいいんじゃないかしら。」
「そうですよ!一言ぐらい文句を言う権利はありますよ!」
俺も茜さんの意見に賛成だ。
だが鶫守は考え込んでしまった。死にそうになったとはいえしずくへの想いはそう簡単になかったものには出来ないのだろう。鶫守の胸中を思うと複雑な気持ちになった。なんとかして鶫守の胸の痛みを少しでも取り除いてやりたいと思った。
そもそもしずくはどうやって不老不死の薬のことを知ったのだろう?もちろん夜鶫の鏡の事を知りえた立場にいたのだから不老不死のことも知っていてもおかしくはないけれど。でももしそうでなかったら・・・。未来を見るということは運命によって敷かれたレールの上を歩いている姿を見るということに過ぎないのではないか。だったら・・・。
「あのー。僕の意見を述べてもいいでしょうか。」
唐突に切り出した俺に皆の注目が集まる。
「言ってみろ。別れが名残惜しくなってもう一泊していきたいというのなら歓迎するぞ。だがこの通り、わしの家は隙間風だらけだがそれでもいいか?」
「お気持ちはありがたいけど違います。」
俺はとりあえず否定した。それにしても鶫守はいい人過ぎる。微妙に受信チャンネルがずれているところも含めていい人だ。
「僕思ったんですけど、もしかしてしずくは夜鶫の鏡が見せた映像に付き従っただけなんじゃないですか。」
「どういう意味だ?」
「しずくは自分が不老不死の薬を手に入れる姿を鏡で見たんですよ。そして薬を手に入れる為に鶫守さんの秘密を話してしまうのも見た。それを知った妖怪が鶫守さんを襲うことも、その日丁度僕たちが鶫守さんの傍にいることも全部見た。そして鶫守さんがこうして無事でいることも見て安心してあいつに鶫守さんの秘密を話したんです。」
俺は自信満々に力説した。それに呼応するかのように淳さんも乗る。
「実は僕もその可能性は考えていたんだ。だって将来の自分がどうしているかを余すことなく映し出してくれるのならそこまで見せてくれないとおかしいからな。」
しかし鶫守の気分はそれを聞いても晴れないようだった。それどころか悲しげに微笑む。
「そうだったら良かったのだが。しかし夜鶫の鏡は覗いた本人の人生しか映し出さないからな。わしがどうなるかはしずくは知ることは出来ないだろう。」
「だったらこうは考えられませんか。しずくは鶫守さんに会いに来るんですよ。それで鶫守さんが無事だと知りほっとする自分の姿を鏡で見たんです。」
「わしに会いにくる?」
「はい。会いに来るんです。それが1年後か5年後か10年後かは分からないけど会いに来て鶫守さんの無事を確かめたから安心して秘密を喋ったんです。」
俺はそう信じて疑わなかった。だから迷いもなく力説した。
そんな俺を暫くは黙って見ていた鶫守だがやがて優しい眼差しを向けてきた。
「太郎、そなたはわしがしずくのことで落ち込んでいると思っているのだな。それで必死に慰めようとしている。その気持ちはとてもありがたいがわしはそんなにやわではないぞ。」
「でも・・・。」
「そなたは夜鶫の鏡というものを誤解している。夜鶫の鏡が見せる未来は鏡を見なかった場合の未来だ。」


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