「実はわしは8年に一度、12月の満月の夜に妖力を失ってしまうのだ。」 「えっ!?そんなことってあるんですか?」 しずくは凄い事を聞いたと思っているのか目を見開いた。鶫守はしずくの驚きが実に心地よかった。これでしずくが胸キュンするのかと思うとなんだか照れくさくなってくる。 「妖力を失う時間は数時間。なぜそんな現象が起きるのかわしにも分からん。どうだ、なかなかの弱点だろう?」 「はい、かなりの弱点だと思います。」 ほらきた!鶫守は心の中でガッツポーズをした。 「でも良かったです。」 「良かった?」 「はい。鶫守さんも私たち人間と同じで完璧ではないんだなと思って安心しました。同じなんですね。」 キタキタキターーー!!鶫守のテンションは俄然上がっていく。しかし表面上は平静さを装った。 「そうだぞ。誰にだって弱い部分はある。あって当たり前なのだ。だから恥じることはない。弱い部分があるのは生きている証拠だ。」 「そうですね・・・。」 しずくは感慨深げに呟いた。鶫守の中で期待がどんどん膨らんでいく。 「ではこれで。」 しずくが満面の笑顔で言った。 「え?」 鶫守は唖然とした。これでってなに? 「鶫守さんのことは一生忘れません!本当にありがとうございました!」 しずくは深々と礼をした。鶫守は狼狽している。胸キュンの先の展開はないのか? 「私絶対女優として成功してみせます!そして鶫守さんが大好きなテレビにたくさん出てたくさん主演を務めてみせます!だから鶫守さんも楽しみにしてその日を待っていて下さいね!」 そう言ってしずくは鶫守の手を取った。鶫守にはそれで十分だった。鶫守の胸の中に温かいものがこみあがってくる。そして自分のやましさを反省した。 「あぁ、待っているとも。立派な女優魂を見せてくれ。」 しずくは鶫守の言葉を聞いて大きく頷いた。そしていきなり駆け出した。かと思うと急に立ち止まり振り返る。 「鶫守さん、お元気で!!さようなら!!」 しずくが大きな声で元気に手を振った。 「そなたも頑張れよー!!」 鶫守も大きく手を振った。しずくの姿が見えなくなるまでずっと見送っていた。
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