鶫守は敵の言葉を聞いて眉を顰めた。 「なぜ貴様はわしが今宵妖気を失うことを知っていたのだ。」 突然鶫守が聞いた。 そういえばそうだ。そもそもなぜ鶫守は妖気が消えてしまったのだろうか。茜さんが言うには鶫守には絶大な妖気があったらしい。しかもこの卑劣極まりない妖怪は鶫守にじきに妖気が戻るということを知っている。 鶫守は鶫守で妖気が消えてしまったことを驚きもせず当たり前のように受け止めている。俺もわけが知りたくなった。 妖怪はフッと鼻で笑った。 「それは薄々貴様も勘付いていることなんじゃないのか。なぁ、女に惚れて自分の弱点を洩らしたお間抜けさんよぉ。」 妖怪はからかうような態度で鶫守の顔色を窺った。鶫守は思い当たる節があるのか一瞬ハッとしたような表情を浮かべ口を噛みしめた。 だが俺たちにはなんのことかさっぱり分からない。 「しかしまさか秋川しずくが言っていたことが本当だったとわな。」 「!?」 妖怪以外のその場にいる全員が驚愕し狼狽する。 なぜ今秋川しずくの名前が出てくるんだ?そりゃあ、秋川しすくと鶫守になんらかの接点がありそうなのは薄々勘付いていたけどさ。でも鶫守の弱点ってなんだ?その弱点と秋川しずくがどう繋がるんだ? わけが分からずパニックになった俺たちを見て妖怪が愉快そうに唇を歪めた。これは何かを企んでいる顔だ。妖怪は愉快犯のように口を開いた。 「冥途の土産だ、教えてやろう。この鶫守には弱点がある。唯一の弱点といってもいい。それは8年に一度、12月の満月の夜。月が天の一番高い所に昇った時から数時間、鶫守は妖気を失うのさ。」 「えっ・・・。」 それで納得がいった。絶大な妖気を失くした理由が分かった。今宵がその8年に一度の日にあたるんだ。ということは数時間後には妖気は戻るというのも本当だな、とりあえず良かった。 でももう一つ疑問が残る。この妖怪はさっき「まさか秋川しずくが言っていたことが本当だったとわな。」と感心していた。なぜ秋川しずくの名がここに出てくるのか。 淳さんは猜疑心を露骨に出して妖怪に尋ねる。 「貴様と秋川しずくは一体どういう関係なんだ。」 「俺か?俺は秋川しずくに不老不死の薬を渡しただけだ。鶫守の秘密と引き換えにな。」 「不老不死!!?」 俺は素っ頓狂な声を上げた。不老不死の薬とは話ではよく聞くけど実際見たことはないし、そんなものが実在するのか疑わしかった。それなのに。 「あんたは不老不死の薬が作れるの?」 茜さんが前のめりで聞いてきた。俺は思わず不安になった。茜さんに限って不老不死に興味をもつとは思えないけれど、いずれ世界に君臨する女帝になることを考えているなら不老不死を手に入れようと思うかもしれない。茜さんが世界の覇者になって悠然たる女王様の玉座でおーほほほと高笑いする姿が想像出来なくもないし。 「茜さん不老不死に興味があるんですか?」 「違うわよ。以前他の人から不老不死の薬のことを聞いたことがあったからちょっと聞いてみただけ。」 「そうですか、良かったです。てっきり茜さんが不老不死を手に入れ、全人類の頂点に君臨するのかと思いました。」 「今なにか言ったかしら?」 茜さんが怖い目で俺を見てくる。やばい、口を滑らせた!俺は蛇に睨まれた蛙状態。 「女、不老不死に興味があるのか。」 「だからないと言っているでしょ!」 茜さんは妖怪に食ってかかっている。 「まぁいい。お前は不老不死に興味がなくても秋川しずくは興味があったということだ。」 「なぜ秋川しずくが不老不死に興味あったんですか。」 俺が恐る恐る聞くと妖怪は陰険そうな目つきで鶫守を見て言い放った。 「それは鶫守が一番よく知っているだろう。」 「・・・。」 鶫守は明らかに動揺している。やっぱり秋川しずくと会ったことがあるんだ。そしてしずくはなんらかの形で鶫守の弱点を知った。鶫守といえば夜鶫の鏡の守り人。・・・まさか・・・。 でもそう考えるとしずくが不老不死を欲しがったことにもが合点がいく。 点と点が線で繋がっていく。恐ろしい事実を知ることになりそうで怖くなった。 「どうやら気づいたようだな。秋川しずくは夜鶫の鏡を見た。」 妖怪の口から語られる衝撃の真実。でも本当の衝撃はこれからだった。
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