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作品名:朝舞探偵事務所〜妖魔のおもてなし〜 作者:空と青とリボン

第3回   3
朝舞探偵事務所のドアを開ける。
「おはようございます。」
元気に挨拶をし、タイムカードを押した。
「おはよう太郎ちゃん。」
茜さんがにこやかに挨拶を返してくれた。
「太郎君、おはよう。」
淳さんは今日も爽やかだ。そして伯父は朝から伯父だった。
「太郎、今日は出勤が遅いぞ。給料減らされたいのか。」
「遅くないですよ、伯父さん。ちゃんと定時の10分前にタイムカードを押しましたけど?」
「それが遅いと言っているのだ。お前はいつも仕事しかやることがないのか30分前には出勤しているよな。その30分で雑用をこなしているようだが時間外手当はつかないからな!」
伯父がムキになって手当はつかないと言ってくるので俺は呆れた。この守銭奴が!別に時間外手当が欲しくて余裕を持たせて出勤しているわけではない。実は仕事場にくるのが楽しいからだ、なんていうことは伯父に知られるのは悔しいから口には出さないけど。
「守銭奴伯父さんにそんな手厚い待遇期待していないから大丈夫です。好きで早く来ているだけなんで。」
「そうだな。それが賢明だ。」
伯父は貶されたことにも気づいてないらしい、それどころか満足しているようだ。
「それに今日遅くなったのは途中でいろいろありまして。」
俺は意味ありげにそう言うと自分の足元を見た。しかも俺の足元に注目しろというオーラを出しまくりで。
「?」
茜さんたちが不思議そうに俺の足元に視線を移す。しかし茜さんはなぜかくすっと笑った。
「茜さん?」
「いや、なんでもないわ。それニイキ?」
おっ?茜さんなかなか通なのか?俺は待ってましたとばかりに自慢を始める。
「はい!ニイキです!それも限定モデル!!」
「凄いじゃないか太郎君。どうやって手に入れたんだい?大変だったろう?」
淳さんが感心した風に言ってきた。さすが淳さん、俺の自尊心をくすぐってくれる。俺は面々の笑顔で
「はい!大変だったです。ネットオークションで手に入れたんですけど一年待ちました。ようやく昨日家に届いたので今日履いてきました!」
俺は胸を張って答えた。今の俺は絶好調だ。朝一番に犬のフンを踏んでしまったことは内緒にしておこう。しかし伯父は感心するどころか訝しげに俺の相棒を見ている。
「太郎、それは高かったのではないか?そんなものに金をかけたのか?」
ほらきた。プレミアものの価値も分からないなんて伯父さんもまだまだだな。
「正直高かったです。出費は安月給の僕には痛かったけど、でもそれに見合う価値がこれにはあるので。」
エヘン。今の俺の鼻は高々だ、イ○トも真っ青のチョモランマほどの高さがある。だが伯父はいまいち腑に落ちないらしい。伯父はしばらく考えこんだ後、ははーんという意味深な顔をした。
「なんですか伯父さん。」
俺は不安になって尋ねた。
「それを買うためにお前はここのところずっと節約していたわけだ。だから昼食時になると私の所に来て物欲しげな目をして私の弁当を眺めていたのだな。おかげでまんまと騙されておかずを分けてしまったが、そういうことだったのか。」
「騙されたなんて人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。カロリーが高そうな揚げ物や肉ものを狙ったのは伯父さんの健康を心配したからですよ?」
「物は言い様だな。」
伯父は呆れているようだ。
「それと今日もう一つ良いことがあったんです。」
「なに?」
興味津々に食いついてくる三人。俺はますます調子づいた。
「なんと!ここにくる前に100円拾いました!」
「おぉー。」
金が大好きな伯父は感心してくれた。しかし茜さんと淳さんはなんだそんなことかという表情をする。茜さんと淳さんは分かっていないなぁ、この二人は100円を舐めている。100があれば95円ショップで一つ買い物が出来るのだ!
「良かったわね、太郎ちゃん。」
茜さんがにっこり笑顔を返してくれた。これだけで満足。犬のフンこそ踏んだがそのおかげで公園に寄って100円を拾った。損して得を取るのだ!!いや、ちょっと違うか・・・。いやでもそんなことはどうでもいい。今の俺はすこぶる気分が良い。
すると突然伯父が切りだしてきた。
「太郎、この前お前に貸した1000円返してくれ。」
「え?」
「え?じゃない!忘れたのか?この前の飲み会でどうしても1000円足りないから貸してくれと言ってきたではないか。」
あ、思い出した。先週の金曜日のアフター。この面子で飲み会を開いたんだった。かなり盛り上がりとても楽しかった。稼いでいる伯父のおごりではなく割り勘というところが気にはなったが楽しかったからまぁいい。けれどいざ会計となった時に俺だけ1000円足りなかったんだ。淳さんがすかさず自分の財布からもう一枚1000円札を出して気にするなと言ってくれたが。
だが俺はそれを断った。それでなくても淳さんにはずっとお世話になりっぱなしでここでまたおごらせてしまうのは申し訳なかった。だから気持ちだけありがたく頂いて
「伯父さん、1000円貸して。」
言われた伯父は「なんで私が・・・。」と不満そうにぶつぶつ言っていたが俺には罪悪感はなかった。伯父の生計を立てているのは淳さんと茜さんであって伯父ではない。それに俺だって雑用とペット探しと不倫調査で朝舞探偵事務所に貢献している。一方、伯父は一日中机に座って新聞を読んだり、テレビのワイドショーを見まくったりしているだけ。俺が「たまには仕事してくださいよ。」と抗議すると伯父は決まってこう反論してくる。
「これは仕事の一環だ。あらゆるメディアに目を通すことで様々な情報を頭にインプットしているのだ。」
「朝刊、夕刊合わせて5社。その経費は馬鹿にならないと思いますけど?」
「必要経費だ。」
「夕刊のエロ記事を熱心に見ているようですけどそれも仕事の一環ですか?」
「いつか役に立つ。」
いつかっていつだよ。というかそんな日がくるのかよ。
と、いつもまぁこんなありさまだ。
しかし借りたものは返すのが人の道。俺はため息をついて渋々財布を取り出した。
「分かりましたよ。返せばいいんでしょ?」
「それが借金王の言いぐさか?」
「1000円しか借りていないでしょ!借金王じゃありません!」
もう、伯父は相変わらずのケチケチマンだなぁとぼやきながら財布の中を覗く。
「あれ!?」
俺は愕然とした。
「?」
三人の視線が俺の財布に注がれる。
「なーーーーーい!?」
次の瞬間、俺の絶叫が室内に響き渡る。思わず耳を塞ぐ茜さんたち。
「どうしたの?」
「ないんです!!」
「なにが?」
「お金がないんです!!」
俺は真っ青な顔をして答えた。
「今日はお金持ってこなかったの?」
茜さんが心配そうに聞いてきたが伯父は責めるような目で俺を見てくる。
「浪費しすぎだぞ、太郎。」
伯父には言われたくない。
「そんなことないです。今朝家を出る時に財布に2000円入っているのを見ましたから。」
「太郎君は毎日財布に2000円ぽっきりしか入れてこないのかい?」
淳さんが憐れむように聞いてきた。
「今なにか言いました?淳さん。」
涙目で恨めしげに淳さんを見れば淳さんは慌てて
「なんかごめん。」
謝ってくれた。淳さんはいつも俺に優しい。それに比べて伯父は
「気のせいじゃないのか?金欠こじらせて財布に2000円が入っている夢でもみたんだろう。」
「そんなことないですよ!現に今朝コーヒーを買う時に・・・。」
俺は反論している内に重大なことに気づいた。
「ぁああああああ!!」
またまた響き渡る俺の絶叫。
「今度はなんだ!?朝からやかましいわ!」
伯父がつっこんでくるがそんなの構っている余裕はない。
「あの時だ!」
「あの時?」
俺は世にも恐ろしいことを思い出した。


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