約束どおり食事は運ばれた。さっそく伯父ががっつく。鶫守は感心した様子でそれを見つめている。 「随分と適応能力がある人間だな。さきほどまでわしを見て気絶していた人間と同じとは到底思えないぞ。」 「この生姜焼きかなりいけますな。料理が得意なんですか?それともお手伝いさんでも雇っているんですか?この味噌汁もいけますな。」 伯父は親しげに鶫守に聞いた。さすがに鶫守もびっくりの適応能力だ。 「料理をするのは嫌いではないぞ。一人暮らしだがな、家事はやるほうだぞ。」 「そうですか、お顔に似合わずマメなんですな。」 おいおい、油断しすぎて伯父は調子に乗っている。 ここで鶫守がなんだと!!って脅してくれれば面白いことになるのに当の本人は愉快そうに笑っている。人・・・いや、妖怪が良すぎるだろう。 茜さんと淳さんが食事のお礼を述べようと箸を止めた。 「本当においしいです。ありがとうございます。」 「うむ。明日そなたたちを解放してやる。それまでここでゆっくりくつろいでおけ。」 「はい。」
鶫守はどうやら居間に戻ったようだ。多分今頃テレビドラマを見ているのだろう。 俺たちは布団にくるまって朝がくるのを待った。伯父がふとぼやく。 「しかしこんな高級布団を用意してくれて食事もくれてここまで手厚いもてなしをしてくれるなら普通の部屋に通してくれても良かったのにな。」 「伯父さん、ぜいたくを言うもんじゃないですよ。まぁ僕もここに閉じ込められた時は同じこと思いましたけど。でもきっと鶫守にとってこの座敷牢が客室なんですよ。」 「どんな客室だよ。」 伯父は苦笑いした。 しかしこの時、淳は一人、違和感を覚えていた。自分や茜のような能力者を警戒してこのような牢屋に閉じ込めるのは分かる。しかし太郎や所長は見ての通りの人畜無害。ここまで手厚くもてなすなら普通の客室でも良かったのではなかろうか。どうも太郎と所長に対しても用心しすぎているような気がしたのだ。 「誰であれ一応は敵ということか・・・。」 淳は自分に言いきかせるかのように呟いた。 茜が小窓を見上げた。鉄棒の間から満月の姿が見える。月明かりが牢屋の中に忍び込んで茜たちを青白く照らしていた。 「今夜は満月ね・・・。」 茜は一人感慨深げに月を見上げている。
―この時、誰一人として忍び寄ってくる不穏な影に気が付くものはいなかった。
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