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作品名:朝舞探偵事務所〜妖魔のおもてなし〜 作者:空と青とリボン

第26回   26
そしてそんな4人を柱の影から見守っている存在があった。
鶫守だ。鶫守は海のような優しい眼差しで太郎たちのやりとりを見つめている。
どれくらいそこにいただろう。
ふと何かを思い出したような表情をしてその場から離れ、すぐに戻ってきた。その手には暖かそうな2枚の羽根布団があった。鶫守は牢屋の前に立つ。
「そう見苦しい争いはするな。これをやる。使え。」
そう言って羽根布団を茜たちに差し入れした。とたんに伯父の目が輝きだす。
「これはかたじけない。ここは寒くて敵わんわ。」
伯父は早速差し入れてもらった布団を自分の方へと引き寄せた。俺は焦った。
「ちょっと伯父さん!その布団は茜さんと淳さんにあげてよ。伯父さんには僕の布団をあげるから。」
「太郎、お前・・・。」
「太郎ちゃん・・・。」
茜さんも淳さんも感動したような目で俺を見ている。信じられないことに伯父もだ。
しかし俺は内心、伯父が「いや、私はお前を犠牲にしてまで温まろうと思わない。私はいらん、お前が使いなさい。」と言ってくれるような気がしていた。それを期待していた。多分茜さんと淳さんもそれを期待していただろう。しかし俺の考えは甘かった。
「そうか?悪いなぁ。」
伯父は嬉々として容赦なく俺から布団を奪っていった。俺は呆気にとられる。しかしこのまま引くわけにはいかない!
「伯父さん、武士はくわねど高楊枝という言葉を知っていますか?伯父さんの大和魂はどこへ行ってしまったのでしょうか。どこかの谷底に落ちてツチノコに食べられてしまったのでしょうか。」
「お前は何を言っているんだ。」
「その布団半分僕に分けて下さいよ!僕も入れて下さい!凍死しちゃうでしょ!」
「さっきと言っていることが違うぞ!」
見苦しい布団争奪戦が続く中、茜さんと淳さんは慣れっこなものでさっさと自分の布団を確保してくるまってしまった。その様子を見ていた鶫守は突然大笑い。
「まったく面白い人間たちだ。実に正直でよろしい。ますます気に入ったぞ。」
「それはどうも。」
伯父は褒められて機嫌を良くしたのか布団の端を持ち上げて
「仕方ないなぁ、半分だぞ。こっちから先は私の取り分だからな。」
そう言いながら俺と伯父の間にエア線を引いた。
「分かってますって。」
かくして俺と伯父は仲良く一つの布団にくるまっている。
「それにしてもあなたは随分手厚いおもてなしをしてくれるんですね。」
淳さんが言った。
「まぁな、ヘタレなミツバチハッチを見ていると気の毒になってな。」
「ヘタレなミツバチハッチ?」
茜さんと淳さんはきょとんとしている。俺は焦ってコホンと一つ咳をした。
「食事も運んでやる。それを食ってととっと寝ろ。」
鶫守はそう言い残すと牢屋の前から離れた。
「まさか食事まで出るとは驚きだわ。この布団といいおもてなしをするのが好きなのかしら。」
「なにぃ!?食事まで出るのか!?」
「さっき鶫守がそう言っていたでしょ。伯父さん聞いてなかったんですか。」
「布団の所有権争いに夢中になっていて聞いておらんかったわ。」
「伯父さんはそういう人ですよね。」
俺は思いっきり冷めた目で伯父を一瞥してやった。しかし伯父はまったく意に介さない。
「お前はもう食べたのか。」
「はい、結構豪華でしたよ。」
「それは本当か!?松坂牛でも出てくるのか。」
伯父はホクホク顔だ。しかしそのホクホク顔はじきに疑い深い顔になった。
「もしかしてその食事に毒が入っているとかはないか?」
今度はどうやら心配になったらしい。無理もない。妖怪にこんなに親切にされるのはめったにないから疑いたくもなるだろう。俺も白いお茶では鶫守のことを疑った。そういえばあの白い茶の正体は一体なんだったのだろう、ちょっと気になる。だが今は伯父を安心させることが先決。
「毒なんか入っていませんよ。僕はこの通りぴんぴんしていますし。それに鶫守はそんなことをする妖怪ではないです。」
「そうよ、所長。ここまでしてくれる妖怪はなかなかいないわ。所長にも本当はそれが分かっているんでしょう?」
「まぁな。ところで太郎は何をご馳走になったのだ。松坂牛か?」
「松坂牛にこだわりますね。そんなに食べたいなら自腹きって食べればいいでしょう?茜さんや淳さんをあれだけ働かせて稼いでいるんですから。伯父さんはそのお金で豪華なものを食べている時に胸が痛まないのかと前から不思議に思っていたんですけど、実際そこのところどうなんですか?」
言ってやった!すると伯父はいきなり顔をぐっと近づけてきた。
「今なにか言ったか?」
「近い!顔が近いですよ!」
「働かざるもの食うべからず!太郎には今の10倍働いてもらうことにしよう。それに所長への敬いの気持ちがないということで不敬罪でボーナスカットな。」
「ええ!?そんな殺生な!!」
一つの布団にくるまり親戚漫才ボケツッコミを披露する朝舞たち。
そんな彼らを見て茜と淳は柔らかな笑みを浮かべている。いつまでもずっと所長と太郎がこんな風に楽しい漫才を見せてくれますようにと。


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