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作品名:朝舞探偵事務所〜妖魔のおもてなし〜 作者:空と青とリボン

第20回   20
辺りの大気がざわめく。おのれの役目を終えたかのように枯れていた草も鶫守の妖気に叩き起こされて恐れ戦いているようだ。ゴゴゴッ・・・という不穏な轟音が鶫守の背中から響いてくる。これは例え妖気が見えない人間でも鶫守が纏っている凄味だけで足がすくむだろう。ましてや茜や淳には妖気が見える。その妖気の巨大さに茜たちは一瞬たじろいだ。
「そなたたちはなかなかなの能力者だな。今まで会ってきたどの人間よりも強い。」
「それはどうも。」
これほどまでに圧倒的な力の差を見せつけながら自分たちを褒める余裕は嫌味にも思えてくる。
「特におなごの霊能力は絶大で素晴らしい。男の方は霊能能力だけではなく他の力も持ち合わせているようだ。なかなか貴重ではある。だが、二人力合わせてもわしには勝てまい。構わないから二人で同時に攻撃してこい、相手してやろう。」
鶫守は平然と言ってのけた。それほどまでに自分の強さに自信があるのだろう。これはハッタリなんかではない、妖気を見れば本心から言っていることは日を見るより明らかだ。
茜と淳は唾をごくりと飲み込んだ。さすがにこの強敵が相手では緊張する。でもどれほど力の差が歴然だとしてもここで引き下がるわけにはいかないのだ。
「では遠慮なく二人でいかせてもらうわ。準備はいい?淳君。」
「あぁ、いつでもどうぞ。」
二人は視線を交わした。そして力強く頷き、次の瞬間!!
大地を蹴って鶫守へと突進していく。
「真正面からくるとはいい度胸だ。」
鶫守はにやりと笑った。しかしその笑いはすぐに真顔に変わった。鶫守が身構えたその時だ。後一歩で攻撃の手が鶫守に届くという寸前で茜と淳は二手に分かれた。
「!?」
鶫守は目を見開いた。茜は右、淳は左に飛び跳ねる。予想外の攻撃陣に鶫守は一瞬たじろいだ。
すると茜はすかさす巨大な霊気の弾を作り出し鶫守に向かって放出した。同時に淳は鶫守の手首に封魔具をかけようと突進する。左右からの一斉攻撃。鶫守はとっさに自分の体の周りに妖気を張りガードした。
妖気に跳ね返される霊弾と淳の体。そして鶫守は茜と淳に目がけて妖気を水鉄砲のように押し出した。二人の体は妖気の弾圧を受け弾き飛ばされる。だが二人は地面に叩きつけられる寸前で身を翻し受け身の体勢を取った。おかげで茜も淳もかすり傷で済んだ。
「ほほおう、なかなかやるな。」
鶫守は余裕の表情で茜たちを見据えている。
「感心している場合ではないわ!!」
茜はそう叫ぶとすかさず次の攻撃に移った。己の霊気をどんどん膨らませ半径1mぐらいの霊気のドームを作りあげそれを鶫守にめがけて投げた。鶫守は今度は何をする気なのかと興味津々で茜にされるままでいる。これはむろん歴然たる余裕の表れだ。霊気のドームは鶫守を覆った。
「む?」
鶫守が初めて顔を歪めた。自分の体の周りを覆う妖気が重くなってきたような気がする。なんだろうと体の周りをよく見ると妖気の上から茜が霊気でおさえつけているのだ。
「なるほど、霊気でわしの体を押さえつけて動きを封じようという作戦か。」
「その通り!!」
そう言ったのは淳だった。淳は俊足で鶫守のすぐ後ろまで回り込んだ。そして押さえつけられている鶫守の足首に電光石火の速さで封魔具をかけようとする。
「こざかしい!!」
鶫守はふんぬと力を込めた。すると妖気が見る間に膨張し茜の霊気を押しのけた。そして次の瞬間、鶫守の回し蹴りが淳の鳩尾に強烈にヒットした。
「ぐっ。」
淳の口から鈍い声が漏れ、体は吹っ飛んだ。それどころか際限なく膨張した妖気は茜をも巻き込み、その体をもの凄い勢いで地面に叩きつけた。それと時を同じくして淳も地面に叩きつけられる。今度は受け身をとる時間さえ与えられなかった。
「きゃあ!!」
「・・・っ!」
茜の悲鳴と淳の苦痛の声が上がる。二人は背中やわき腹を強打して苦痛で顔を歪めた。肌から血が滲み出る。
鶫守にはかすり傷一つないのに茜と淳の体は激しい衝撃で悲鳴を上げていた。
「どうした人間たち。そんなものか?わしはまだ本気は出し取らんぞ。」
余裕綽々、誰にも打ち破ることが出来ないような鉄壁の声が茜たちの耳に響く。
「強すぎるわ・・・。」
茜が苦渋に満ちた表情で呟いた。


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