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作品名:朝舞探偵事務所〜妖魔のおもてなし〜 作者:空と青とリボン

第2回   2
前方の土の上に何かキラリと光るものを見つけた。
「何だろう?」
近づいてそれを見る。100円玉だった。
「ラッキー!」
俺はそれを拾った。子供の頃の俺なら律義に交番に届けただろうけど今の俺は穢れてしまった。
「100円ぼっちを交番に届けてもお巡りさん迷惑だろうしな。」
そんな妙な言い訳をしながら100円をポケットにいれた。(良い子の皆さんは真似しないでくださいね)
まさしく捨てる神あれば拾う神あり。俺は犬のフンを踏んだことなど頭から消去して意気揚々と通勤路に戻った。先を急ぐ人の波にのまれてまた歩き出す。
それにしても今日は一段と寒い。手袋やマフラーをしている部分はまだマシだがむき出しになっている顔と耳が凍てつく空気に晒されて痛い。
「温かいコーヒーでも飲むかな。」
辺りを見回し自販機を探した。
「お、あった。」
早速自販機に向かい、ポケットに手をつっこむ。
「さっきの100円を有効活用させてもらおーと。」
うきうきしながら100円玉を投入した。だが買える合図のランプがつかない。
「おぉそうだ。あと20円。」
慌てて鞄から財布を取り出し中を覗いた。小銭をまとめて入れてある場所を見てがっかりする。1円玉と五5円玉しか入ってなかった。そういえば昨日コンビニで小銭を使い切ったんだった。仕方ないから1000円札を投入した。
「どれにしようかな・・・。」
あ、お気に入りのコーヒーがあった。ボタンをポチッと押す。
ガコン。
取り出し口にコーヒーが落ちてきた。早速それを取り出す。
「あーあったけー。」
ぬくもりに感謝しながらお釣りを取った。その場でごくごくと飲みだす。五臓六腑にコーヒーのぬくもりが染みわたっていく。
「はぁ〜生き返る。」
暫くはぬくぬくと小さな幸せに浸っていた。が、ふと今は出勤途中だということを思い出した。慌てて腕時計を見る。
「やべぇ!急がなきゃ!」
急いでコーヒーを飲みほし走り出した。

 朝舞探偵事務所に到着。そう俺は朝舞探偵事務所の探偵なのだ。
ここで朝舞探偵事務所について少し説明をさせていただきたい。
日本中に探偵事務所はたくさんある。しかし日本広しといえど妖怪・妖魔・幽霊などの人間外に関する案件も一手に引き受ける事務所はない。だがここ朝舞は違う。断言出来ないが多分、きっとそう。もしかして日本中を探せばどこかには朝舞事務所以外にも人外な事件を扱う事務所もあるかもしれないが今の所そういう噂は聞こえてこない。
 朝舞探偵事務所は妖怪・妖魔などの退治、封印を得意とする。もちろんそれだけではなく人間と妖怪たちとの橋渡しもしたりする。人間に良い人間と悪い人間がいるように、妖怪にも良い妖怪と悪い妖怪がいる。人間が妖怪に恋したり、妖怪が人間に惚れたりする、その橋渡し。妖怪と妖怪の恋の成就の手助けをしたこともある。綾さんと如月さんは元気にしているかな。迷惑な宇宙人にもあったこともある。奴のことは思い出したくない。
妖怪・妖魔関係の他にも幽霊関連も扱っている、むしろこちらの方が依頼の頻度としては多い。除霊、透視なんでもござれ。しかもそれだけではなく超能力を要するダウジングなどもやっている。依頼された品を調査、捜索、発見、発掘、まさしく万能。
しかし悲しいかな、これらの不可思議な依頼を解決するのは俺ではない。朝舞に所属する二人の探偵によって依頼は解決され続けている。そう、その二人は特殊能力の持ち主だ。
轟茜。小柄であるがその体の中にとてつもない霊能力を秘めている。この事務所に飛び込んでくる依頼の半分を茜さんが解決している。ちなみに美人さん、気はめっぽう強い。
そしてもう一人の探偵は片桐淳。こちらは超能力+霊能力の持ち主。元々強力な超能力だったのだが茜さんという超霊能力者と行動を共にしている内におのれの体に眠っていた霊能力も開発されてしまったという大変お得な経験をした男性だ。ちなみにイケメン長身で性格も良いという超優良物件だが本人は茜さんにLOVEなようで(茜さんは知らないようだが)女性の影はない。かなりモテるだろうにもったいない。
あ、話がずれてしまった。気を取り直して。
朝舞探偵事務所にはあと二人探偵がいるがその二人については話すことは何もない。その二人とは俺と俺の親戚、伯父だ。俺と伯父は霊能力も超能力も持たない凡人。俺と伯父の違いは平探偵と所長という差、そして年齢の差しかない。伯父はこの朝舞探偵事務所を立ち上げた人物であり所長だ。俺は伯父に誘われるようにして朝舞に入社した。就職難のこのご時世、友人からは「コネで就職浪人から逃れやがって。」と羨ましがられ、伯父や茜さんからは
「早く霊能力を身につけて事務所に貢献しなさいよ。」とせっつかれる毎日。そう簡単に霊能力者になれるなら苦労はない。俺は淳さんとは違う。高スペックの淳さんと低スペックの俺を同列に扱われても俺が困る。
よって俺はもっぱら雑用か迷い猫や彷徨い犬の捜索に当たっている。いわゆるペット探し。
それに朝舞には対人間の普通の依頼も舞い込んでくるので俺はそういう案件を担当している。今の所、雑用、ペット探し、不倫浮気調査が5:3:2の割合だ。
だが例外として、たまにというかよく茜さんや淳さんの助手に狩り出されている。そのおかげで俺様を見てくれ的な自己主張が激しい妖怪の姿は見ることが出来るようになった。これって霊能力が身についてきたのではないのかと俺は喜んだりするのだが伯父や茜さんから見ればまだまだ俺は赤ちゃんレベルだそうで泣けてくる。茜さんからそう言われるのはともかく同じ凡人である伯父には言われたくない。バカにバカと言われるくらい悲しいことはない。


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