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作品名:朝舞探偵事務所〜妖魔のおもてなし〜 作者:空と青とリボン

第15回   15
「そ・・・そんな探偵事務所聞いたことありません。その探偵事務所がどうかしたんですか?」
体中に脂汗をかきながら必死で取り繕う。この俺の狼狽ぶりどうにかしてくれ。しずくぐらいの演技力があれば良かったのに!
「朝舞探偵事務所は数多ある探偵事務所とは一線を画している。妖怪や幽霊などの特殊な依頼を受けその解決ぶりには定評があるのだがそなたは知らんか。」
鶫守は明らかに俺のとこを疑っている。鋭い視線が刺さって血管がチリチリ痛み出した。これ完全に俺のことを朝舞の一員だと疑っているよな。でもなんとかこの場を乗り切らないと俺に明日は来ない。
「そうなんですか?聞いたことないなぁー。あなたはいろんなことを知っているんですね。僕は勉強不足ですね、以後頑張ります。」
したでに出てなんとか誤魔化そう。だが鶫守はなかなか誤魔化されない。それどころか動揺しまくっている俺に駄目押しをしてきた。
「そなたは朝舞探偵事務所の探偵じゃないのか。」
「!!」
鶫守の威圧感は半端ない。X線のような眼差しは俺の心の中まで見通しているような気がしてならない。
「ど、どうしてそう思うのですか?僕がその探偵事務所の探偵であるはずがないじゃないですか。そんなに有能に見えますか。」
「そなたは何をそんなに動揺しているのだ?声が震えているぞ。」
そんなこと言われなくても分かっている。声の震えも止められるものなら止めたいわ!
鶫守は舐めるように俺を見ていたがやがて
「まぁ、妖怪退治や封印などはかなりの霊能力者でないと出来ないからな。そなたではまったく使い物にならんだろうな。そうだな、そなたは例えるなら母親を探しに行かなければならないのにひたすら巣に籠ってゲームをやっているみなしごハッチみたいなものだ。」
「なんかそれ人間としてすごく駄目なような気がするんですけど・・・。それにしてもみなしごハッチも知っているなんてすごいですね。」
「テレビが娯楽だと言ったろ?ローカルテレビは昔のアニメもよくやっているのだ。」
「アニメも好きなんですか。」
「あぁ好きだ。一番好きなのは巨人の星だ。」
それを聞いて俺は全身全力で脱力した。いくらなんでも俗物過ぎる。俺の中の妖怪像が良い意味でどんどん崩れていく。そういえば俺かなりdisられた気がするんだけど、まぁいいか。とりあえず危機は脱したみたいだし。安堵して白いお茶をすすった。
「それにしてもこのお茶美味しいですね。始めは妖怪には飲めても人間にはどうだろうと思っていたんですがそんなことなかったです。レシピ教えてもらってもいいですか?」
俺はなにげなく言った。心のままに言った。
だが次の瞬間辺りの空気が一変した。攻撃的な空気が肌に突き刺さってくる。
目の前にいるのは恐ろしいまでの鋭い目で恫喝してくる鶫守。その突然の変わりように鎮まりかけた俺の動揺が再び舞い戻ってきた。いや、先程までの動揺のはるか上を行っている。なぜなら今の鶫守の全身から殺気が立ち上っているからだ。
このままではやられる!!
背中に戦慄が走る。急になぜだ!?俺何か変なこと言ったか!?
「なぜわしが妖怪だと分かった。」
その一言で十分だった。
俺は失言したのだ。せっかく一山超えたのに自ら命の危機を招いてしまった。俺はあまりに浅はか過ぎた。
研ぎ澄まされた刃のような殺気が俺の全身を射抜く。もはや1mmも動けなくなっていた。少しでも動いたら次の瞬間にはあの世に行っている。というより筋肉が緊張で硬直して動けない。蛇に睨まれた蛙どころではない。蛙ならいざとなれば飛びはねて逃げられるが今の俺は恐怖で指一本動かせない。
「朝舞にまさかそなたのような弱い人間が所属しているとは思いもしなかったから油断したぞ。そなたの思惑は分かっている。」
「・・・。」
「夜鶫の鏡だな。」
「――――――!!」
バレた!!もう駄目だ。一貫の終わりだ。俺は真っ青な顔で震えることしか出来ない。
鶫守が立ち上がる。その研ぎ澄まされた刃のような目力だけで俺を仕留めることが出来そうだ。圧倒的な威圧感。どこが弱い人間には手を出さないだよ!茜さんの嘘つき!!死んだら化けて出てやるからな!茜さんの枕もとでロード1章から13章まで歌うからな!朝まで歌ってやるからな。なんでもないようなことが〜幸せだったと思う♪ってエンドレスで歌ってやる!!
「さて、どうしてやるか。」
鶫守の地響きのような声が俺の全身の毛穴から汗を吹きださせた。
「僕は小鹿です、ヘタレなみなしごハッチです!どうかお見逃しを!!」
すると鶫守はニヤリと唇を歪めた。その唇の向こうで鋭い歯がギラリと光る。
いやあああああぁああ。絶体絶命!茜さん!淳さん!助けて!!


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