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作品名:朝舞探偵事務所〜妖魔のおもてなし〜 作者:空と青とリボン

第13回   13
しかしよくよく考えたらあの所長が素直にここに来るだろうか。
「でもここからだと距離があり過ぎるわね。今から呼び出しても4時間近くはかかるわ。それにあの所長のことだからそんな危険な橋は渡りたくないってごねまくるに違いないし。」
茜は思いついたものはいいもののやっぱり無理なような気がしてきて落胆した。
しかし淳は構わずに携帯電話を取り出した。それを見て茜は
「所長のこと呼び出すの?無理だと思うけど・・・。」
「大丈夫。なんとかうまいこと言っておびき出すから。」
淳はなにか策があるのか所長に電話をかけた。
「もしもし。淳君か?なんだ?」
「所長、実は今、例の鏡の場所にいるんですが、落ち着いて聞いてください。」
「ん?なんだ?」
「実は僕たち秋川しずくと会ったんです!!」
「なっ、なんだと!!?」
電話の向こうから驚愕している所長の声が聞こえてきた。
「しずくさんは偶然ここにドラマのロケに来ていたんです。それでしずくさんと話す機会がありまして。聞いて驚いて下さい!なんとしずくさんは朝舞探偵事務所のことを知っていたんですよ!」
「なにーーーーーー!?それは本当か!?」
興奮し、感激しまくりの所長。
「はい、本当です。それでしずくさんがどうしても所長にひと目会いたいと言っていまして。」
「そっ、そこにしずくさんがいるのか!?」
所長は動揺しまくっている。
「いいえ、今はここにはいません。でも今夜は近くの民家に泊めてもらうそうです。だから今夜がしずくさんと会って直接話す最初で最後のチャンスですよ。明日には東京に帰ってしまうそうです。その前にどうしても所長と会って話がしたいとしずくさんは熱望していました。どうしますか?」
「行く!!行くに決まっているだろ!!今すぐ行くぞ!待っていてくれしずく殿!!」
「あ、それで所長なるべく早くき・・・。」
ツーツーツー・・・・。
「・・・・切れた。」
電話の向こうから聞こえてくるのはツーツー音だけ。
茜は淳の小芝居に呆れた顔をしている。
「さすがにそんな嘘分かるわよ。そんなので所長がくるわけないじゃないの。」
「でも今すぐ行く、待っていてくれしずく殿って言っていたよ。」
「・・・・そう・・・。」
「うん・・・。」
二人は遠い目をした。


鶫守の小さな親切大きなお世話なおかげで俺は大きな屋敷の真ん前に立っている。純日本風な屋敷だ。立派な門構え。白壁の塀に瓦の屋根。檜香る門柱が心を落ち着かせる。
「さぁ遠慮しないで入ってくれ。」
鶫守に促される。遠慮したい気持ちでいっぱいだが今さら引き返せない。
「・・・お邪魔します。」
綺麗に手入れされた和風の庭。獅子脅しの音が鳴り響き、足元の御影石に玄関口の灯篭の灯が落ちている。
ここに夜鶫の鏡があるのか。そう思うと怖くて寒気がした。
玄関の扉が開いて屋敷の中が見えた。広い。とてつもなく広い。綺麗に磨かれた廊下が奥の方まで続いている。その廊下を囲むように真っ新な障子が整然と並び、俺を厳かに出迎えてくれた。
「上がれ。」
「はい。では。」
鶫守に言われるまま廊下に上がる。このまま奥まで連れて行かれるのかと密かにびびっていたが鶫守はすぐ手前で立ち止まった。障子を開ける。その部屋はどう見ても普通の居間だった。使い古した食卓が部屋の真ん中にあり、テレビもある。妖怪はテレビも見るのか?いや、テレビぐらい見るか。
生活感漂う居間。障子が開いており、隣の部屋が丸見えだ。何気なく覗くとそこは客間らしい。床の間に枯山水の掛軸が掛けられており凛とした空気が支配している。
俺は客間でなくリビングに通されたのか。いや、別にいいんだけどね。
「座れ。」
鶫守はご丁寧に座布団まで用意してくれた。
「ありがとうございます。」
座布団に座りなんだか少しほっとした。思うにこの鶫守は妖怪らしからぬ妖怪だ。ただの気の良いおっちゃんみたいだ。
「ところでそなたはどこから来たのだ?」
「栃木です。」
「ほぉ?そなたはさきほど自分で都会育ちだと言っていたが栃木は都会なのか?わしにはそう思えんが。」
「う・・・。」
しまったぁ!栃木が都会なんて大嘘をついてしまったぁ!栃木県民の皆さん、ごめんなさい!!
「まぁでも住めば都だな。わしも栃木には行ったことあるぞ。」
「へぇ〜日光東照宮にですか?」
「いや、餃子食べ放題ツアーだ。」
「ツアーに参加したんですか!?」
俺は驚いた。はっきりいって驚いた。まさか妖怪が人間のツアーに参加するなんて。
「餃子が好きなのだ。この前テレビで餃子特集をやっていたから思い立ったら吉日でツアーに申し込んだのだ。なかなか良いツアーであった。バスの中ではわし一人が浮いていたが。」
「でしょうね。その外見では。」
って思わず口を滑らせてしまった!あまりにも鶫守が人間臭く、庶民的過ぎて油断してしまったのだ。俺は焦りつつ鶫守の顔色を窺った。しかし鶫守は全く気にしていないようだ。
「それよりそなたはここに何しに来たのだ?こんな田舎では観光するところもあるまい。」
「えっと・・・。」
いきなり核心をついてきた。なにか良い言い訳出来ないものか。そうだ!!ツアーつながりだ。
「いきあたりばったりのおもしろツアーで来ました。」
「ほほぉ、そなたもツアーか。」
「はい。」
「ツアーの同行者はどうしたのだ?それに添乗員はバスに乗る時にちゃんと点呼して人数確認しなければ駄目だろう。わしが苦情言ってやる。」
なっ!なんと余計な知識ばっかり持っている妖怪なんだ、はっきりいってやりにくい。頼むから点呼なんて言葉知らないでくれ。苦情言われても困るぞ、言う先がない。俺は絶賛動揺中ながらも必死で取り繕う。
「現地集合現地解散。観光先でも解散。宿泊先も自分で探すからおもしろツアーなんです。」
そんないきあたりばったりなツアーがあってたまるか。あまりに駄目過ぎる言い訳だ。我ながら自分の馬鹿さ加減に辟易した。が、予想と反して鶫守は感心している様子だ。これはまさか・・・。
「そうか、ミステリーツアーみたいなものだな。」
信じた。信じやがった。どこまで人が良い妖怪なんだ。俺は今猛烈に感動している。ミステリーツアーとも全く違うが本人がそう思っているなら都合がいい、訂正しないでおこう。


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