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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:空と青とリボン

第6回   6
実は半年前、空族にとって驚きの事実が判明した。空族の村へ里帰りしたカリンが自分は両性体だということを皆に打ち明けたのだ。
カリンは生まれた時から男性と女性の機能の両方を持っていた。カリンの両親はたいそう驚き赤ん坊のカリンを抱えて長老であるおばば様の所に駆け込んだ。だがカリンの体を見たおばば様はたいして驚くこともない、それどころか
「わしが生きている内に三人目の両性体を見られるなんてラッキーじゃのぉ。」と言ってのけたのだった。
というのも空族は両性体が生まれやすいという特徴を持っている。先祖がもしかして鳥類だからなのか、はたまた遺伝子的に変異しやすいからなのか理由は分からない。だが翼を持って生まれてくることに比べれば両性体としてこの世に誕生することはさほど珍しいことではない。
現にカリンが生まれてくる15年前、20年前にも両性体の空族が誕生していた。残念ながらその者たちは人間に襲われ若くして死んでしまったが・・・。
空族では両性体は普通にあることとおばば様から諭されたカリンの両親はカリンを特別扱いせずに普通に接した。体の機能は男女共両方あるがしゃべり方が男の子のような印象を受けたので男の子として育てることにした。
カリン自身も自分の体が他の人たちと違うことに早くから気づいたが親が男の子として自分と接していると感じ取りそのように暮らした。そしてこのことを他の誰にも言わずにいた。
だがカリンも他の空族と同じように幼くして両親を亡くしてしまった。ルシアの両親や周りの仲間たちがカリンを我が子として育てたいと熱心に申し出たがその都度丁重に断った。一緒に暮らすと自分が両性体であることがバレると危惧したからだ。
おばば様もカリンの気持ちを尊重し性の分化が始まるまでは皆にカリンが両性体であることを秘密にしていようと決意した。とはいえシュンケだけにはカリンが両性体であることを打ち明けた。それはシュンケが空族の頭領になった日のことだ。頭領なら空族についてありとあらゆることについて知っていなければならないという思いがあったからだ。
当時まだ9歳だったシュンケは両性体というものをいまいちよく理解出来なかったが空族にはそういう者も生まれるというおばば様からの説明を受け自然に理解した。

ちなみに性の分化というのは両性体で生まれついてもある年齢に達すると男性か女性のどちらかに体が変化していくことをいう。なぜそのような仕組みなのかはいまだに分からないが男性化が始まったら女性としての機能は失われていき、女性化が始まったら男性としての機能は消滅していく。そしていずれかは完全に男性か女性かのどちらかになる。
カリンの場合は女性化が始まった。

半年前に突然、月のもの、つまり生理が始まった。驚愕したカリンは酷く動揺しながらナーシャの家へすっ飛んでいった。そこで初めて自分が両性体であること、突然月のものが始まったことをナーシャに告白した。
ナーシャは始めこそ驚いたがすぐに納得し受け入れた。空族に両性体が生まれやすいことはおばば様がそれとなく皆に教えていたし、カリンは元々女顔だったのでさほど違和感はなかった。
それどころかカリンが戸惑わないようにと月のものが来たときはどうすればいいかを丁寧に教え、その為に必要なものも全部買い揃えカリンに渡したのだ。それが半年前だ。
「あの時は本当にありがとう。ナーシャのおかげで色々学ぶことが出来たし対処の仕方も覚えた。僕一人ではどうしたらいいか分からずに途方に暮れていたと思う。本当に感謝しているよ。ナーシャが傍にいてくれて本当に良かった。」
カリンは心の底からの感謝を伝えた。ナーシャは照れたように微笑み
「いいのよ、カリン。女同士色々と助け合いましょうね。分からないことがあったらなんでも聞いてね。私は女性としての先輩なんだから。」
「うん、ありがとう。頼りにしている。」
カリンも照れたように笑顔を見せた。二人で顔を見合わせて微笑んでいる。なんとも柔らかなやりとりを傍で見ていたルシアは口を尖らせた。
「なんだよ、二人して僕を仲間外れにしてさ。だいたいカリンも水臭いよ。なんでもっと早く教えてくれなかったのさ。僕がそのことを知ったのって一か月前だよ。幼い時からずっと一緒にいたのに!しかも僕以外の皆は半年前にそのことを知ったというし、僕だけ何も知らなかったとかありえないんだけど!」
むきになって抗議してくるルシアにカリンはひたすら謝るしかなかった。
「ごめん、ごめん。幼い時からいつも一緒にいたからこそなんとなく言い出しづらかったんだ。だって僕がいきなり女になると言ったらルシア戸惑うだろう?僕とどう接していいか分からなくなるかもしれないと思ったんだ。僕は今まで通りルシアと親友のように接していくつもりでもルシアがそうでなくなったら嫌だなぁと思ったんだ。」
カリンがもじもじしながら恥ずかしそうに言い訳をするとルシアは大きく目を見開いた。「はぁ!?それって僕がカリンのことを女として意識して惚れてしまうのではないかと思ったということ?」
「・・・なっ!違うし!そんなこと微塵も思ってなかったよ!!失礼な!!」
カリンはそんなつもりは毛頭ないと顔を赤くして必死で抗議する。
長い付き合いだ、ルシアの性格は知り尽くしている。ルシアはカリンが女だと分かったところで気を遣ったり遠慮したりするはずがない。ましてや女として意識し惚れる可能性など天と地がひっくりかえってもないということも分かっている。
それでも万が一ということもある。ルシアと言えども気遣って遠慮するかもしれないと不安になったのだ。
カリン自身、女としての生き方に切り替えるのは大変な労力を要した。体が別なものに変わるのに心がそれについていかないもどかしさ。そのもどかしさを感じ取ったルシアに腫れ物に触るような態度をされたら嫌だなぁと心配をしていた。
今まで言いたいことを忌憚なく言い合ってきた。まったく遠慮がいらない関係性がこれを機にもしかして壊れてしまうかもしれないと危惧していたのだ。
ずっと気の置けない仲間であり親友でいたかった、だからこそルシアにはなかなか打ち明けられなかった。
しかしカリンの杞憂は全くの無駄骨だったようである。


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