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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:空と青とリボン

第47回   47
ライトルは今日の内に城を発つつもりだったが今ここを発つとサンライズ国の宿場町に到着するのは夜遅くになってしまう。その時間まで宿に空き室があるとは限らないということで今晩は城に泊ることになった。明日の午前にここを旅立つ。
ルナもライトルと共に帰ることにした。シュンケも明日の午前には空族の村へ帰ってしまうのだからここに一人残っても寂しくなるだけだと思ったからだ。
レンドは世話になったライトルたちを二人だけで月族の村まで帰すわけにはいかないということで二人を村まで送ることにした。
しかしどのみちルナはシュンケとは明日でお別れだ。ルナはそれまでに告白をしたいと思っているのだがなかなかその一歩を踏み出す勇気が出ない。
ルナは胸に想いを秘めたままシュンケと他愛もない話をしている。そうやって時間だけが過ぎていく。ライトルは、ルナがシュンケを見ては頬を赤く染めるので「早く告白しろ!」と何度も言いそうになったがその度にぐっと堪える。
しかし我慢には限度というものがある。
シュンケたちは今大食堂にいる。城の食堂は豪華絢爛でとても広い。そろそろ目の前の長テーブルに豪華な夕食が並び始めるという頃になり、ライトルはいきなり席を立ちあがった。そして横に座っているルナにはっぱを掛ける。
「いい加減に言いたいことがあるならちゃんと言いなさい。怯えているだけでは前には進めない。玉砕を恐れるなど月族の名折れだぞ。」
一瞬にしてその場に微妙な空気が流れた。ルナには兄が何を言わんとしているかが分かるがシュンケにはなんのことか分からない。国王はライトルの突然の言動に驚いているし、レンドはシュンケの鈍感さに驚いている。
「ルナは何か言いたいことがあるのか?言いたいことがあるのなら言った方がいい、黙っているのは体に良くないぞ。」
よりによってシュンケからそんなことを言われたルナは顔を真っ赤にしている。頭から湯気が出ている。
レンドはシュンケの鈍感さにいささか呆れた。異変や戦闘には誰よりも早く反応して見事なまでに的確な対処をするシュンケなのにどうも自分に関する色恋沙汰には疎いようだ。とうとうライトルがじれったい妹にキレた。
「シュンケ聞いて下さい!ルナはシュンケのことを・・・。」
「お兄様!!」
ルナは慌てて兄の言葉を遮る。その時だ。リデが食堂にやって来た。
「国王、今城にカリンとルシアが来ています。シュンケに会いたいそうです。」
「カリンとリシアが?」
国王とシュンケは果て?と目を合わせる。国王はにこやかに微笑み
「よろしい、カリンとルシアを第一客間に通しなさい。シュンケも二人に会うだろう?」
「はい、ぜひ。」
すると突然ルナが立ち上がりシュンケに意外な申し出をした。
「私も会わせてはいただけませんか?一度お会いしたいと思っていました。」
「僕もぜひお会いしたいです!」
ライトルもルナにつられて今だ!とばかりに申し出てきた。二人の顔は好奇心に満ち溢れている。シュンケに断る理由はない。
「もちろんだ。」
こうしてルナとライトルはカリンとルシアに会うことになった。

煌びやかな第一客間。金銀があしらわれたフカフカの豪華なソファーと厳かな宗教画か描かれている高い天井の間に静謐な空気が漂う。シュンケとルナとライトルはカリンたちが来るのを待っている。そこへカリンとルシアがリデに案内されてやってきた。
「シュンケ!」
カリンはシュンケの顔を見るなり嬉しそうに駆け寄ってきた。シュンケも嬉しそうに出迎える。
「どうして私が城にいると分かったのだ?」
「だってシュンケは女の人を抱きかかえて飛んでいたって町中で噂になっていたから。いるとしたら国王の所でしょ?」
「そういうことか。」
シュンケは納得したようだ。そこへルシアがゆっくりとした足取りでたどり着いたと思ったらやれやれという顔をしながら
「お姫様だっこしていたんだって?シュンケも隅に置けないよね。そんないかつい顔してやることは王子様だからやんなっちゃう。これだからモテ男はさぁ。シュンケのその顔と体格なら女は肩に担いでいた方が似合うよ?」
「まったくお前は相変わらずだな。会ったそうそうそれか?」
シュンケはいささかげんなりしたように返したがまぁこれもいつものことだ。
ルナとライトルはシュンケとルシアのやりとりを見て目を丸くして驚いている。頭領に対してこの遠慮のない物言いは月族では考えられないことだからだ。ただしライトルの妻は除く。
カリンはシュンケの後ろで驚きの表情で立ちすくんでいるルナたちに気づいた。
「あの・・・その方たちは?」
シュンケは思い出したように振り返り
「あぁ、紹介しよう。こちらがルナでこちらがライトル。兄弟だ。二人とも月族なのだ。」
「月族?国中で大騒ぎになっていたけどその月族の方ですか?」
「はじめまして、僕はライトルと言います。お騒がせしてすみません。シュンケには本当にお世話になりました。」
「いいえ、とんでもないです。ぼ・・・私はカリンと申します。初めまして。」
「初めまして私がルナです。よろしくお願いします。あなたがカリンさんですか。カリンさんのことは知っています。空族で画家で有名ですから。」
「そんな・・・。私が有名なんてちっとも。ただ絵が好きで描き続けているだけです。」
カリンは照れくさそうな笑顔で柔らかな握手を求めた。ルナもそれに応える。
カリンは物腰が柔らかく屈託のない笑顔。女性としては背は高目で170cm近くはあるだろう。茶色の明るい髪をショートカットにしてどこかボーイシュな雰囲気がする。
背中の翼は体に比べてとても小さくしかも片方は歪んでいる。これでは飛べないであろうことはルナにも容易に想像出来た。
しかしそんなことも気にせずに「絵が好きで描き続けているだけ」と明るく言ってのけたカリン。ルナはカリンとなら仲良くやれそうな気がしてならない。
しかし問題は隣にいる男だ。ルシアという名前の空族。シュンケとは遠慮なく言い合える仲らしい。その言動からして曲者っぽい。ルナは少し警戒した。
ルシアはルナが自分に対して警戒心を抱いていることは分かった。それを面白く思ったルシアはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。
「僕はルシア、よろしく。あんたがシュンケにお姫様だっこされていた月族?シュンケの新しい彼女?どこで出会ったの?」
「わ…私は彼女では///」
すっかり動揺しているルナを見てシュンケはルシアを窘める。
「こらルシア!いい加減にしなさい。ルナに失礼だろう。」
「はーーーい。」
ルシアはシュンケに叱られはしたがたいして効き目はないようで飄々としている。まるで暖簾に腕押しだ。すると横にいるカリンは優しい眼差しでルナを見守りつつ
「ルナさん、どうか気にしないでくださいね。ルシアは軽薄で口が悪くていつも人を茶化してばかりいるけど誰にでもこうなんです。この性格は生まれ変わっても治らない感じですよ。」
くすっ。
ライトルとルナはルシアの人物像にぷっと噴き出した。ルシアは文句言いたげにカリンを見るがカリンは涼しい顔してどこ吹く風。
ルナたちは空族のやりとりを見ている内にこの三人は気の置けない仲間同士なんだなと分かった。
「僕がライトルです。ルシアさん、よろしくお願いしますね。」
「あー、はいはい。」
ルシアが興味なさげにライトルと握手を交わした。シュンケがまたしても「コラ!」と叱る。ルシアは舌をちらっとだして肩をすぼめた。ライトルは、ルシアの頭領に対してこの舐めた態度はどうかと思ったがシュンケがそれでいいならと思うことにした。
よくよく考えると自分の妻もルシアと同じようなものだし。だがそれでも妻を大切に思っている。大切に思っているからこそ許せる。
「ところでお前たちはなぜ私に会いに来たのだ?一週間前に会ったばかりだろう?」
これに憤慨したのはルシアだ。
「なぜって用がなければ会いに来ては駄目なの?もっともこっちだってこの前会ったばかりだから全然嬉しくないけど。」
「もうルシアったらそんな憎まれ口叩かない!いい加減にしなよ。」
今度はカリンが叱った。するとルシアはシュンケの時とは違って意外な反応を見せた。
「分かったよ。シュンケごめん。」
シュンケは申し訳なさそうに謝るルシアを物珍し気な表情で見つめた。ルナは、まるで女房に叱られたダメ亭主のようなルシアの様子を見て「この二人は付き合っているのかな?」と内心思った。カリンは気を取り直して
「実はこれから私とルシアとフランキーさんの奥さんとちょっとした旅行に出かけるんだ。旅行と言っても貴重な絵の具を手に入れる為なんだけど。シュンケのことだから私たちの様子を見に寄るだろうなと思ってさ。家に来てもらっても留守だから悪いなと思って先にここへ来たんだ。」
「そうだったのか。かえって気を遣わせてすまないな。でも旅行って三人だけで大丈夫なのか?私もついていこうか?特にカリンは絵のこととなると暴走するから心配だ。」
「まったくもうシュンケは相変わらず心配性だね。大丈夫、無謀なことはしないし何回も訪れている場所だから安全だよ。村の人たちも皆親切だし。」
カリンは苦笑いしながら答えた。
「そうか、それならいいが。ルシアもカリンが暴走しそうになったら止めるんだぞ。」
「はーーーーい。」
ルシアは愉快そうに返事をした。カリンは暴走なんかしないよとばかりに頬を膨らませている。
「じゃあ私たちそろそろ行くね。明日の朝には出発するんだ。」
「気を付けて行くんだぞ。」
「はい。」
カリンは嬉しそうに頷いてからライトルとルナに会釈をし、ルシアと共にその場を後にした。シュンケはそんな二人のことを保護者のような温かいまなざしで見送っている。
ルナとライトルの心は空族たちの微笑ましいやりとりを見て癒されていた。



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