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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:空と青とリボン

第44回   44
ハラレニ国へ入ったシュンケたちだが正直どこをどう探せばいいのか迷っている。この広大な国のどこを探せば月鏡に辿り着けるというのか。思案に暮れるシュンケたちの中でまず口火を切ったのはレンドだった。
「ハラレニから脱出するには国境の門をくぐるしかない。そびえたつ国境の高い塀を飛び越えられ程の技を持った者などそうそういない。となると検問をなんとかして通ろうとするだろう。まずは月鏡を見たというラパヌの家から国境の門までの道のりを重点的に探そう。」
「そうだな。そのラパヌという者の家はどこにあるのだ?」
「私が案内する。ついてきてくれ。」
「分かった。」
シュンケは飛行はせずに、地図を広げるレンドの横を歩く。レンドはシュンケの歩幅に合わせゆっくりと馬を歩かせた。ルナはライトルの後ろに乗っている。
だがシュンケが道を歩くと嫌がおうにも目立ち、街の皆が親し気に声を掛けてくるのでシュンケは当初の予定を変えてルナを抱えて飛びあがった。その方が捜索に集中出来るからだ。
シュンケは眼下にレンドの姿を捉えながら飛行する。ルナはひたすら月鏡の共鳴を待っている。
しばらくすると突然後ろからバサバサバサ・・・という大勢の羽音が聞こえてきた。
シュンケは聞き慣れた音に微笑んだ。しかしルナにとっては初めて聞く音。ルナが何事かと振り返ればカモの群れがこちらに向かって飛んでくるではないか。
「シュンケ!」
ルナは迫りくるカモの大群の迫力にすっかり怯えてしまい慌てて声を掛けた。
「心配するな。こういうことはよくあることだ。カモたちは私たちと共に空を行きたいだけだ。同士を得て心強いのだろう、まぁカモの遊び心というやつだ。」
シュンケがあまりに嬉しそうに言うのでルナの緊張は瞬く間に解けた。カモの群れが追いついてシュンケの周りを包み込む。まさしく並んで飛んでいるのだ。
カモは先に行こうとせず、かといって遅れをとることもなく明らかにシュンケの飛行速度に合わせて飛んでいる。ルナは自分たちを取り囲むこの光景に感動して胸が一杯だ。
飛行機が横を通り過ぎて行った時の感動とは比べ物にならない、鳥たちに受け入れられて歓迎されているこの感覚。ルナの瞳に涙が浮かんだ。
レンドとライトルはシュンケとカモの群れが織りなす壮観な光景に目を見張っている。空族と鳥たちの共演に胸が震える思いだ。
だがその時シュンケはぽつりと呟いた。
「おかしいな・・・。」
「どうかしましたか?」
ルナはシュンケの呟きを聞き逃さなかった。なによりシュンケの表情が不審を物語っている。
「いや、いつもなら群れは少しだけ戯れて先に行ったり方向を変えるのだが今回は違う。なかなか私から離れようとしない。それどころかどこかへ導こうとしているかのように見える。」
「え?シュンケは鳥の思考も読めるのですか?」
「いや、読むことは出来ないがなんとなくそう感じるのだ。」
「・・・。」
ルナも言われてみればそうかもしれないと思った。カモたちは自分たちを取り囲んで左へ左へ行こうとしているような気がする。まるでまっすぐ進むことを許さないみたいな明らかな意志を感じる。そんな奇妙な思いがしていた。
「このままこの者たちに導かれるままに進んでみよう。私たちに何か伝えようとしているのかもしれん。」
「そうですね。」
ルナは眼下にいるレンドとライトルに向けて左を指さした。レンドが頷く。実はレンドもシュンケと同じような異変を感じ取っていたのだ。
「シュンケについていこう。」
「はい。」
レンドたちはシュンケを視界に収めながら進む。当初進む予定だった道からどんどん外れていく。しかし構わずに進んだ。国境ははるか遠く後ろに引き下がり、町からも随分離れていく。前方に欝蒼とした森が見えてきた。

異変は突然起きた。

ルナが持っている月鏡が虹色の輝きを増した。初めての反応だ。しかもぶるぶると小刻みに震えている。
「!!!」
ルナは驚き月鏡を見つめる。
「シュンケ!反応がありました!!」
「本当か!」
「えぇ、間違いないです。」
シュンケは慌てて下を見渡した。この雨の中では歩いている人は少ない。ましてや人里離れたこの場所に人影などあるはずがなく。
するとこの機会を待っていたかのようにカモの群れは突然シュンケたちの元から離れた。まるで役目を終えたかのように。
カモたちの意志はシュンケたちに伝わった。
「ありがとう、お前たち。」
シュンケは優し気な眼差しでカモの群れを見送る。ルナの瞳から大粒の涙が溢れ、こぼれ落ちた涙は雨と共に地上に落ちていく。
「ありがとう鳥たち。ありがとうございます神様。」
ルナはこの奇跡に感謝した。もしカモの群れに導かれなかったら月鏡の共鳴の範囲内に入ることはなかっただろう。ルナはこの奇跡に泣いた。シュンケはそんなルナを優しく見守っている。
しかし今は泣いている時ではない。月鏡を取り戻すという使命がある。
ルナは服の袖で涙をぐいっと拭った。シュンケは目を凝らし眼下に広がる道に視線を走らせる。ふと、森に沿って続く道へと交わる一本向こうの道に人影が見えた。
「もしかしてあれかもしれない。あちらに行ってみるぞ。」
「お願いします。」
シュンケは方向転換し人影が見える道の方へと向かっていく。レンドたちは急にシュンケが向きを変えたのを見て、神経を研ぎ澄まさせながらシュンケを追う。
月鏡は細い道を辿る人影に近づくと益々強く輝きだし、震えもいっそ強くなった。
「反応が強くなりました!間違いないです。あの人たちです!」
「レンドに知らせよう!」
「はい!」
シュンケは旋回しながら急降下しレンドとライトルの元に降り立った。
「シュンケどうした。」
「月鏡が反応した。」
「なんだと!?」
「これを見てください。」
ルナはレンドたちに月鏡を見せる。明らかに今までよりも強く輝いている。そして共鳴するかのように大きく震えている。
「この近くに月鏡があるということか。」
「あの道を見てくれ。人がいる。」
シュンケは東側にある遠くの道を指し示した。だが残念なことにレンドとライトルは目を凝らしても見えない。
雨のせいでいつもより視界が悪いというのもあるがここからは道の両脇に立ち並ぶ樹木に視界を遮られて見えない。シュンケは上から見渡したから見えたのだ。
「すまないシュンケ、引き続きその者を追ってくれないか。私はシュンケを目印に追う。」
「了解した。それとルナはここからライトルと共に行動してくれ。あの人影が犯人だった場合は私一人で追った方が都合がいい。」
あれが犯人だとして、こちらの動向に気づき逃げ出した時、身軽な方が追いやすい。
「分かりました。もし月鏡の反応が薄くなったらすぐに知らせます。」
「頼んだぞ。レンド行くぞ。」
「了解。」
シュンケは再び飛び上がり人影に向かっていく。人影はひたすら森に沿う道へと向かっている。上空から見るとその行動が手に取るように分かる。
ルナはライトルの後ろで月鏡の反応を見守る。反応は弱まることはなくむしろ強まっている。これは確実に月鏡に近づいている証拠だ。
シュンケは引き続き上空から怪しい人影の動向を探っている。
その人影こそ紛れもなくリコアたちだ。
シュンケが下を指さす。レンドはそれを見て大きく頷いた。
「ライトル殿、ルナ殿、シュンケがいる真下に馬に乗った者が二名いるのが見えますか。」
「はい、見えます。黒い合羽を着た者ですよね。」
「もう少し近づいてみましょう。ただ近づきすぎては気づかれてしまう可能性があります。月鏡の反応が今まで以上に強くなったらおそらくあの者たちに違いない。」
「そうですね。」
ルナたちはリコアたちに気づかれないように慎重に近づいていく。リコアたちまで200mほどの距離になった時だ。スルが突然馬を立ち止まらせた。
「スル、どうした。」
「いや、なんか変だ。なんか震えている。」
スルは肩から下げている鞄が震えている気がして中を見た。銀箱からブルブルと振動が伝わってくる。
「なんだ?」
スルは不思議に思い銀箱を取り出した。ライトルとルナはそれを見逃さなかった。
「あれです!月鏡はあの中に!!」
ライトルが思わず叫んでしまった。リコアとスルはハッとしてこちらを見る。
「糞!月族がいるぞ!!」
スルは驚きのあまり銀箱を落としそうになった。慌ててそれを鞄にしまう。
「逃げるぞ!!」
「どこへ!?」
「森の中だ!!」
「分かった!!」
リコアとスルは馬の腹を蹴り上げ急発進し駆けだした。
「しまった!気づかれた!」
レンドはすぐさまシュンケに向かって「あいつらだ!!」と叫んだ。シュンケは次の瞬間には突風のような速さでリコアたちを追う。レンドはルナたちに
「あなたたちは城へ向かってくれ!!城の場所はここから町に戻る途中にある!詳しいことは誰かに聞けば分かる!!」
「はい!!」
レンドはリコアたちを追った。


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