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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:空と青とリボン

第4回   4
リコアはミンピに言い聞かせるようにゆっくりと策を語り始めた。
「お前はラパヌに俺のことを『月族』として紹介してくれるだけでいい。」
「月族!?お前まさか月族なのか!?」
ミンピは月族という言葉を耳にし驚愕した。詐欺師だと聞いたときよりも何十倍も驚いた。あまりにも想像出来なかったことであまりにもありえないことだと思った。だがリコアはあくまでも冷静だ。
「そんなわけがないだろう。俺が月族に見えるか?月族を装うんだよ。」
「そういうことか。まぁお前が月族なはずがないな。」
ミンピは納得した。
月族と言えば世界でも有名な特殊な民族だ。神と通じ、神に人類の平和と幸せを祈り続ける人々。無償の愛を持つ人種。雨が降らないと聞けばその場所へ行き雨乞いの儀式を行い、どこかで川が氾濫したと聞けば神事を行い災害の終わりを神に願う。リコアとは正反対の思想を持つ人間たちだ。
「俺が月族のはずがない?まぁそうだろうな。もっとも俺は月族などいうのは信じていない。何が人類の平和と幸せを祈るだ、反吐が出る!」
リコアは眉間に皺をよせ忌々し気に吐き捨てた。確かにリコアのような人間には月族の存在は理解しがたいであろう。
ミンピにはリコアが月族を名乗ってどのような詐欺を働くつもりなのか皆目見当もつかない。
「月族として紹介しろと言われてもなぁ、どうやって金を騙し取るつもりだ?」
「今ハラレニ国は雨季のはずなのにまったく雨が降らないだろう?農民たちや街の連中もそれを心配している。」
「あぁ確かに雨が降らないな。ラパヌもそのことを心配していた。特にラパヌは自分の畑だけでなく農家の組合長もやっているから特に心配だろう。でもそれがどうした?」
「雨が降らないところに月族の俺が雨乞いの儀式を行いましょうと持ち掛けたらどうなると思う?」
「どうなるって・・・。」
そりゃあ、お願いしますとなるだろう。でもだからなんだというのだ。月族でない者が雨乞いの儀式などやったところで雨は降らない。第一、雨乞いの儀式がどう大金と結びつくのかが全く分からない。ここまで分からないことだらけだとリコアにからかわれているのかとさえ思えてきた。
「お前は俺のことを馬鹿にしているのか?俺は世界中を旅してきたんだ。本物の月族の雨乞いの儀式を見たこともある。偽物のお前が儀式をやったところで雨なんか降らないぞ!」
ミンピは言っているうちに段々腹も立ってきた。イライラが収まらない。
「誰が本当に儀式をやると言った?儀式をやる振りして大金をせしめるんだよ。」
「だから!俺は本物の雨乞いの儀式に出くわしたことがあると言っただろう!第一、月族は自分から干ばつの国に出向いて雨乞いの儀式をしましょうかなんてやらない。雨乞いの儀式をして欲しいと依頼されてからその場所へ赴くんだよ。それに月族は儀式をやるのに報酬なんてもらわない。無償でやるんだ。それでは申し訳ないと思った農民や国の連中がせめて路賃のたしにしてくれとわずかばかりの金を渡す程度だ。それでどうやって儲けるつもりなのか!!俺をからかうのもいい加減にしろ!!」
詐欺師の名を騙るわりにはあまりにずざんな計画、しかもあまりに月族に対しての知識がないリコアに対してミンピは苛立ちを爆発させた。だがリコアはいたって冷静だ。
「落ち着け、そう焦るな。そこであんたの出番なんだよ。」
「俺の出番?」
「確かに月族は依頼されてからその場所へ赴く。だからそこをクリアするにはハラレニに雨が降らないことを心配したあんたが俺を連れてきたということにすればいい。」
「まぁ、それはいいが・・・。でも報酬の方はどうなる。わずかばかりの路賃では俺の借金はチャラにはならねぇぞ!」
「わずかばかりの路賃だけで済むと思っているからそれしか払わないだけだ。」
「どういうことだ?」
ミンピにはリコアの意図が全く把握出来ない。顔じゅうにハテナマークを並べ立てている。
「世界中を旅して様々なことを見聞きしてきたあんたがラパヌにこう囁くのさ。『表向き月族は報酬は受け取らないことになっている。でもそれはあくまで表向きの事。実際は皆裏で月族に多額の報酬を払っている。一回の儀式につき300万シドだ。だがこれは決して口外しないこと、それが月族への礼儀だ』と説明すればいい。」
「300万シド!?」
これは結構な額の大金だ。だがラパヌなら払えない額ではない。しかもミンピの借金を返してもお釣りがくる。この額以上だとさすがのラパヌでも出し渋るだろうし、この額以下だとミンピの借金は返せない。そのギリギリのラインをリコアは計算しているのだ。
ミンピは300万シドと聞いて目がくらみこの詐欺が成功する確率なんてもはやどうでもよくなってきてしまった。
「300万シドか、悪くないな。でもな、雨が降らなかったら金なんて貰えないぞ?お前は降らせることが出来ないだろう?」
「だから前金で貰えばいい。成功報酬ではなく前金でいただく。前金で払うということは月族の力を疑うことなく信じているという心持ちの証明になるから儀式も効力が増すとでも言っておけばいいだろう。」
「なるほどな、前金な。」
冷静に考えれば月族が前金で300万シドもの大金を要求するわけなどないと分かるのだがこの時のミンピは判断力を失っていた。金に目がくらんだせいで成功しそうな策だと錯覚してしまった。だが同時に根本的な疑問も沸きあがってきた。
「でもなぁ、いくら俺が月族を連れてきたと言ってもラパヌがお前を月族だと信じるかどうかだ。月族だと証明出来るものがあるといいんだが・・・。」
「それならある。」
「?」
「月鏡を手に入れてそれをラパヌに見せる。」
「月鏡!?」
ミンピは月鏡という言葉を聞いた途端、信じられないものを見たかのように目を見開き恐れおののいた。あまり無謀なことだと首を振りながら後ずさりし
「月鏡だけには手を出さない方がいい!月鏡の恐ろしさを知らないのかよ!お前は聞いたことがないのか?かつてノンカカ国を滅ぼしたというほどの呪いの鏡だ!月族以外の者があれに手を触れただけで・・・!!」
「大丈夫だ。ちゃんと対策は取ってある。」
「対策?」
そんなことはにわかに信じがたいという表情をありありと浮かべ聞き返した。
「月鏡の呪いを跳ね返す方法はある。」
「そんなものはねぇよ!そんなことが出来たらノンカカ国は滅びることはなかったはずだ。」
「だがノンカカ国が滅びたのは50年前のことだ。今は様々な研究が進み対策も出来ている。」
「どんな対策だよ。人間が神に対抗できる術なんて持てるはずがねぇよ。」
「まじないの札だ。」
「まじない・・・。」
「俺たちは強力な呪い返しの札を手に入れた。世界最強の密教の護符だ。それさえ持っていれば呪いは跳ね返せる。神の力に対抗できるのは神のみということだ。第一、ノンカカ国が呪われたのは故意に月鏡を破壊したからだ。俺たちは月鏡を拝借するだけ。」
「・・・。」
世界最強の密教の護符があると聞いたところでそれにどれほどの効力があるというのかまったくもって疑わしいミンピは月鏡と聞いてすっかり怖気づいてしまった。かなり怯えている。それを見てリコアはため息をついた。
「あんたは心配しないでいい。月鏡に触れるのはあくまでも俺たちだけだ。あんたは一切触れない。だからあんたに呪いの影響はない。」
「まぁそれはそうかもしれないが・・・。」
そうは言われても納得しかねるしそれよりもひっかかったことがある。
「リコア、お前今、月鏡に触れるのは俺たちと言ったな?俺とお前の他に誰かいるのか?」
「あぁ、もう一人俺の仲間がいる。そいつも月族の設定で動く。」
「そんなの聞いていないぞ!3人になったら分け前はどうなる!3等分か!冗談じゃない!月鏡なんてどえらいものに手をだして見返りがたったの100万シドなんてわりに合わん!」
ミンピが顔を真っ赤にして憤慨し抗議しはじめた。リコアは内心呆れたがそこは詐欺師、ポーカーフェイスを崩さずに
「いや、あんたの分け前は200万シドだ。残りの100万シドを俺ともう一人の奴で分ける。それなら文句ないだろう?」
「え?お前らはそれでいいのか?」
「もちろんだ。雨が降らなければあんたはラパヌという友人を失うことになるだろう。いくらお人よしでも騙されたと分かって友人を続ける馬鹿はいないからな。200万シドはあんたに払う慰謝料だと思ってくれていい。」
それを聞いてミンピはしてやったりとばかりに小躍りした。友人を300万シドで売るというのにこの喜びよう。ミンピにとってラパヌとの友情なんてこの程度のものだという人間の醜い面を見せつける。それを見てリコアはほくそ笑んだ。二人とも良心の呵責というものは母親のお腹の中に置いてきたらしい。
「それで、いつ実行するんだ?明日か?明後日か?」
ミンピは待ちきれないとばかりに聞いてきた。ラパヌに話を持ち掛ける前に雨が降ったら元もこうもないからだ。計画が台無しになる。
「計画は4日後。あの居酒屋で合流しよう。もし計画の前に雨が降ったらとりあえず中止だ。」
「分かった!4日後だな。雨が降らないといいな!!」
ミンピはもう大金を手に入れた気になってすっかり浮かれている。だがその時、リコアはミンピの後ろで狡猾な笑みを浮かべていた。その目は残忍な色を滲ませおどろおどろしく鈍く光っている。しかし大金に目がくらんでいるミンピはリコアの本心など知る由もなかった。


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