トロワたちは急いでノンカカ国に帰ると皆にウソルーが月鏡を壊したことを話した。 「ウソルーが月鏡を!?」 「なんて馬鹿なことをしたんだ!!」 農民たちは憤る。トロワはこみあげる怒りをぶちまけながら告げる。 「月鏡は月族の祈りを神に届ける大切な道具。それが破壊されたのでは月族の祈りは神に届かない!雨乞いの儀式をやっても無駄だ!」 「では雨が降らないのはなにもかもウソルーのせいではないか!」 「ウソルーを問い詰めよう!いやそれだけでは駄目だ!処刑だ!!」 「そうだ!そうだ!!」 トロワたち農民は一致団結して城へと向かった。街の者は殺気だったトロワたちに何事かと問う。トロワたちはウソルーがしでかしたことを包み隠さず話した。街の人々はざわつく。 「あのウソルー隊長が月族の村で暴れてこともあろうに月鏡を壊したらしい。」 「あいつならやりかねない!でもよりによって月鏡を・・・!」 「この干ばつはウソルーのせいだ!おかげで小麦が不足しパンが作れない!」 「パンだけじゃないよ!野菜も果物も育たない!どうしてくれる!」 ウソルーが月鏡を壊したこと噂はあっという間に国中に広がった。 農民たちだけでなくノンカカ国民のほとんどの者が怒りに打ち震えた。 大地は干からび作物は枯れ十分な食物が得られない。この当時はまだ干ばつに強い苗や樹木は開発されていないから雨が4か月も降らなかったら枯れてしまう。店からパンが消え、野菜が消え、果物が消えた。食料難が始まっていたのだ。 人々はわずばかりに残っている食料を手に入れる為に我先にと争う。大衆の不満は一気にウソルーに向けられた。激昂した国民たちは城の周りに集まり怒涛の抗議をする。 「ウソルーを出せ!!」 「ウソルーを今すぐ処刑しろ!」 「ウソルーを処刑して神の許しを乞え!!」 「国王は何しているんだ!!なんとかしろ!!」 あれほどウソルーを英雄視し支持していた国民たちは手のひらを返しウソルーの処刑を求めている。 もっともウソルーが月鏡を壊した件はきっかけに過ぎない。 ここのところ税金は上がりっぱなしだし給付金も止まったまま。以前のような楽な暮らしはさせてもらえないことの不平不満は国民の間にくすぶっていた。そこへ今回のことが火をつけたのである。またたくまに火は燃え広がった。 国王は、城の周りを取り囲み連日連夜怒鳴り声をあげる国民たちを城の窓から見下ろし忌々し気に「愚民どもが!!」と吐き捨てた。そしてウソルーの元へ向かう。 「ウソルー、お前は本当に月鏡を壊したのか。」 「はい、壊しました。」 ウソルーは全く悪びれなく答えた。 「なぜそのような愚かなことをした!」 「愚か?お言葉ですがこれのどこが愚かなのですか。」 「なにぃ?」 国王だけでなくその場にいたピアや側近たちもウソルーのことをこいつは何を言っているんだという目で見る。 「いつも国王はおっしゃっていたではありませんか。この世に神などおらぬ、月族などいうものは馬鹿馬鹿しいと。」 「それは・・・。そう言ってはいたが、だからといって月鏡まで壊せとは言っておらん!」 「同じことです!この世は弱肉強食!弱き者が神に縋って逃げているだけです!強き者がそれを追い詰めてなにが悪い!弱き者は常に奪われる運命にあるだけ!!」 「・・・・。」 目の色を変え、唾を飛ばしながら狂ったように自分の考えを主張するウソルーにピアたちは言葉を失った。ウソルーはもはや人間ではないと思った。悪魔に憑りつかれているのだと。 「お前のせいでもう4か月も雨が降らない。この先もいつ降るか分からない。干ばつのせいで作物は枯れ食料難に陥っている!おかげで税金は滞納されておる。国を立て直すどころか余計に財政難ではないか!お前のせいで我が国は神の怒りをかったのだ!」 「ですが国王はいつも神などいないと・・・!」 「うるさい!口ごたえするな!!金輪際一切口を開くな!アカディ、サウロ!ウソルーを地下牢に閉じ込めておけ!」 「はい!」 「なっ・・・!お・・・お前ら!離せ!国王!話を聞いてください!」 アカディたちはウソルーを捕えた。 もしウソルーがこの時剣や盾を持っていたならそれを駆使してアカディたちを斬り捨てこの場から逃げることも可能だったろう。 しかし今は国王に武器の一切を取り上げられていた。なによりも国王の目の前で逃亡するなど無様な振る舞いは出来なかった。 ウソルーはアカディたちに抵抗らしい抵抗も出来ないまま地下牢に連れていかれてしまう。 国王は腹の虫がおさまらないまま玉座に座り込んだ。そこへピアが近づき 「国王、ウソルーをどういたしましょうか。国民たちは処刑しろと一揆をおこしています。それは日々膨れ上がるばかりです。」 「一揆だと?フン、そんなのは捨てておけ!どうせ何も出来ない愚民どもだ。誰のおかげで今まで豊かな暮らしが出来たと思っているんだか!すべて我のおかげだろうが!!」 国王はふんぞり返って興奮している。この様子だと国民たちを宥めることはしない。 ピアは密かにため息をついた。ウソルーという傍若無人な怪物はこの国王が作り上げたのだと思った。 ある意味ウソルーもこの国王の被害者なのかもしれない。ウソルーの残虐性を理解し解放する国王。そんな国王に心酔しているウソルー。結局国王は自身の権力拡大にウソルーを利用していたのだ。 この時点ではまだ国王はウソルーを処刑するつもりはなかった。見下している国民の要求にこたえるのは癪だったし何よりウソルーにはまだ利用価値があると考えていたからだ。 ノンカカ国の国力が弱まっていることにつけこんで他国が攻め入っていることは容易に予想はついた。国民たちが殺されようがどうでもよいが自分の命は惜しい。そんな時ウソルーの兵士としての腕は役立つ。ウソルーに自分の盾となって働いてもらおうと企んでいたのだ。あくまでも自分の身かわいさで生かしておくことにした。 「なぁに、その内雨が降るだろうさ。」 国王は高をくくっていた。 現実を甘く見ていたのだ。
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