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作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:空と青とリボン

第25回   25
そんなある日の事だ。国王の執務室に血相を変えた一人の男が駆け込んできた。男の名はウソルーという。ノンカカ国の第一部隊の隊長であり非常に好戦的で闘いの腕は立つ。今までの連戦連勝、勝利をもぎ取ってこれたのはすべてこのウソルーのおかげと言っても過言ではない。ウソルーは執務室に入るや否や叫んだ。
「国王!ハラレニ国と同盟を結ぶとは正気ですか!?」
ウソルーの反応は国王の予想の範囲内であったらしく国王はやっぱり来たかという表情をした。
「その通りだ。我が国はハラレニ国との同盟を申し出るつもりだ。ウソルー、お前はその親書をハラレニ国王の元へ運んでくれ。」
国王の言葉を聞いたウソルーの顔が見る間に赤く染まっていく。激昂だ。
「ハラレニ国と同盟を結ぶなどなんと馬鹿げたことを!!ハラレニはライバル国ではないですか!世界を支配するのはハラレニ国か我が国かと言われていたほどなのに奴らの軍門に下るなど馬鹿げています!」
「ウソルー!国王に対して声を荒げるなど無礼にもほどがあるぞ。口を慎め!」
国王の隣にいた家臣ピアが聞くに堪えないとばかりに眉間に皺をよせウソルーを窘めた。
「そうは言うがピア殿!あなたは悔しくないのか。ライバルに媚びへつらうなど情けない!それに国王もやがてはハラレニ国にも攻め入り領土も富も奪い取ってやるとおっしゃっていたではないですか!」
「・・・・。」
ピアは黙した。そして改めてウソルーとは相容れないと実感した。兼ねてからこの男の好戦的な態度にはついていけないと思っていた。
実はピアは、野心的なノンカカ国の部下たちの中で異なる毛色を持っている。唯一の穏健派といってもいい。ノンカカ国の窮地を慮りハラレニ国との同盟を国王に進言したのもピアだった。おかげで血気盛んなウソルーと穏健派のピアは衝突ばかりしている。国王はやれやれとばかりにウソルーに向き合い
「落ち着けウソルー、同盟とは相手の軍門に下ることではない。」
「いいえ、軍門に下るのも同じこと!それよりもハラレニに攻め入りましょう!奴らと組むのではなく奪い取るのです!」
「そんな資金がこの国のどこに残っている。戦争をするにも金が必要になるのだぞ。」
「モリアの鉱山があるではないですか。あれは我が国に膨大な富をもたらす。原石の売値を倍に吊り上げて今まで以上に儲けを出して戦争費用を捻出してハラレニへ攻め入ればいい!」
それを聞いて国王は苦笑いした。
「お前は相変わらずな。だからこそそういうお前を高く評価している。」
「ありがたき幸せ。」
国王に心酔しているウソルーはお褒めの言葉を貰い満足げだ。だがピアは非難めいた目で国王を見つめる。
「お前が戦が出来ないと腹立てるのは無理もない。我とてここ3年間戦争をしていないから退屈で仕方ないのだ。出来ることなら今すぐにでも戦争を仕掛けたいが世の中の我を見る目は厳しい。それにモリア原石の値段を吊り上げるのは簡単だがそうなると買い手も減る。埋蔵量もそう多くないから乱獲は避けたい。となるとここはハラレニと組んで財政を立て直すのが先決だ。十分な資金を得たら何かしらの因縁をつけてお前が望む通りハラレニに攻め入ろうではないか。」
「!?」
国王の野望に驚愕したのはピアだ。ウソルーといえばそれでこそ我が国王とばかりに満足そうにほくそ笑んでいる。
「国王!ハラレニと同盟を組みながら裏切るおつもりですか!?」
「ピア、お前は何を憤っている。我ははなからそのつもりだ。」
「ですが国王!そのようなことは世界が許しません。ますます我が国が世界から孤立するばかりです。それよりも同盟を結び堅持し、他国との貿易交流も盛んにして経済を立て直した方が・・・。」
「うるさい!!お前は黙っておれ!!」
国王が忌々し気にピアを怒鳴りつけた。ピアは思わず口を噤む。
「我は仕方なしにお前の提案に乗っただけだ。財政が立ち直ったらまた戦争を開始する。それこそがこの国のあるべき姿だ!」
「ですが・・・。」
「口ごたえするな!!だいたい貴様など我になんの役にも立っていない。生前の父から貴様を傍に置いていくようにと固く言われていたからその遺言に従っているまでで、我は貴様のことなどこれっぽっちも評価していないのだ!それに比べてウソルーは次々と戦果を上げ我に莫大な富と領土をもたらした。ウソルーの戦略と兵士としての腕がなければ我が国はここまでのしあがれなかったはずだ。貴様こそウソルーに頭を下げたらどうだ!?今すぐ頭を下げろ!いや土下座しろ!!国王の命令だ!」
国王の怒りはピアに殺到した。常日頃からピアのことを戦争が出来ないストレスのはけ口にしているのだ。
ピアはいつものことだと歯を食いしばり握り拳を震わせながら膝をつきウソルーに土下座をした。ウソルーは軽蔑の眼差しでピアを遠慮なく見下ろす。
ピアとウソルーは度々衝突するが国王は決まってウソルーの味方をした。ピアの言い分など全く聞かずに100%ウソルーが正しいと決めつけ毎回ピアは謝罪させられるのである。
酷い時は城で舞踏会が催されていう際に、招かれた客が見ている前でウソルーの靴を舐めて謝罪しろと命令された時もある。それも一度や二度ではない。ピアは屈辱感で胸が張り裂けそうになりながら公衆の面前でウソルーの靴を舐めた。それを見た者は憐みの目でピアを見つめる。
一方、ウソルーは俺が勝ったとばかりに上から軽蔑の視線を不躾なまでに投げつけた。
そして今回も国王とウソルーはピアの土下座を見て満足そうに笑みを浮かべる。
「ウソルー、腹立たしいだろうがハラレニ国ヘ親書を運んでくれ。アカディとサウロも連れていくがよい。なぁに、今だけの辛抱だ。我はいつの日かハラレニ国をも手に入れる。」
「かしこまりました。」
ウソルーはようやく溜飲し満足げに国王に頭を下げる。そしてピアを一瞥し執務室から堂々と出て行った。ピアは土下座をしながら国王に聞かれないように憂鬱なため息をついた。


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