20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ノンカカ国を滅ぼした月鏡の正体 作者:空と青とリボン

第24回   24
シュンケとライトルはそれぞれ座り心地が良い場所を見つけゆったりと寛ぎ始めた。さすがに疲れ果てた表情のシュンケを見たライトルは申し訳なく思った。
「月族の問題に付き合わせてしまってすみません。ルナを抱えて飛べなど長老が無茶なことを言うから・・・。」
「いや、いいのだ。私は月鏡が盗まれたと聞いた時になんらかの形でそなたらに協力したいと思った。長老に頼まれなくてもこうしただろう。それに今晩休めば疲れは取れる。ルシアに言わせれば私は体力おばけだそうだ。」
「ルシア?空族の方ですね?」
「あぁそうだ。今ハラレニに住んでいる。ハラレニにはカリンもナーシャも住んでいる。カリンは画家なのだ。身内自慢だと思われるかもしれないがカリンの絵は世界一だと思う。」
カリンのことを語っている時のシュンケは実に得意げだ。仲間を誇らしく思っているのが遠慮なく伝わってきてライトルは微笑ましく思った。だがシュンケはそんなライトルを真正面に見据え知りたいことを今聞こうと決心した。
「それよりも聞きたいことがある。」
「なんでしょう?」
「ノンカカ国の悲劇とは一体なんなのだ?長老はその話は長くなるから後にしようと言っていたが。」
「ノンカカ国の悲劇を語るのは長老が一番辛いのだと思います。その時に長老は恋人を亡くしたらしいです。僕らはその頃まだ生まれていませんから親や年配者からノンカカ国の悲劇の話を受け継いだのですが。」
「長老の恋人が・・・。」
「でもかつて繁栄を築いた大国が滅亡してしまったことは世界にとっても大きな出来事なので多くの人々がそのことを知っています。たった50年前の出来事ですからね。」
「大国が滅亡したのか?」
シュンケは驚きを隠せない。今でいえばハラレニ国が滅亡したということなのだろうか。ライトルは静かな口調で語り始めた。
「今から約50年前のことです。」


ノンカカ国は膨大な富を築き繁栄していた。だがその富は自らの領土と労働が生み出したものではなくほとんどは隣国から奪い取ったものだった。
ノンカカ国王は戦闘能力の高い軍隊を率いて次から次へと隣国へと攻め入った。元々の領土は小さく資源もない小国であったノンカカ国。そこで国王は領土と資源を手に入れる為に隣国に戦争を仕掛けては勝利し領土と資源を奪い取った。
こうしてノンカカ国は世界でも有数の大国へとのし上がっていったのである。ノンカカ国王はかなりの野心家で乱暴者だった。
ノンカカ国の国民たちは昔は貧しい暮らしをしていたが、国王が他国へ戦争を仕掛けるたびに勝利し膨大な富を自分たちへ分配してくれるので国王は国民たちに絶大な人気があった。
税金は安く、懸命に働かなくても国から分配金として半年に一度お金が国民に配られる。こんな楽な暮らしが出来るのも隣国から富を略奪したからだと分かっていてもノンカカ国王に戦争をやめるように進言する者はいなかった。自分可愛さで隣国の苦しみに思いを馳せる者はいなかったのである。
そんな中、ノンカカ国の農民たちだけは国王のやり方に反発を覚えていた。大地に根を生やし、贅沢な暮らしが出来なくても畑があれば生きていけると考えている農民たち。
しかしその農民たちさえ国王から恩恵を受けていた。税金が安い。半年に一度の給付金もある。そのおかげでだいぶ助かっている節がある。
それにそもそもこの広大な農地は元々スーニ国のものだったが国王が奪い取ったものだ。だから国王に戦争をやめろと強くは言えなかった。言いたくても言えないといった方が正しい。
そんな中、どこまでも欲が深いノンカカ国王は隣国のフィラトに目をつけた。
フィラトには鉱山があってそこから美しい原石が採掘されるのだ。宝石はモリア石と呼ばれ高値で売買されている。普段は透明感溢れる碧色をしているが陽にかざすと海のように深い青色に変わる貴重な宝石で世界でも人気が高い。
貴族や王室のご用達の宝石だがモリア原石の埋蔵量は少ないと予想されており、近い内に採掘されなくなると噂され、それによって希少価値を高め値段はどんどん吊り上げられていく。今や天井知らずだ。そこでノンカカ国王はフィラトの鉱山を我が物にしようと考えた。
ノンカカ国王が税金を安くしているのは国民からの人気取りの為であって国民のことを思ってのことではない。人気がある内は国民は自分のことを支持するだろう、支持されている内は国王の座にいられる。国王でいられる内はやりたい放題出来る。ノンカカ国王がやりたいのは戦争だ。

国王はフィラト国に戦争を仕掛けることにした。だが今まであまりに隣国から略奪しすぎたためノンカカ国に向ける世界の目は厳しい。
しかしこの時代は国同士でも食うか食われるか奪うか奪われるかの弱肉強食の時代であったので他国がノンカカ国を非難抗議するのも決して倫理観や正義感からではなかった。連戦連勝で領土を広げ富を増やしていくノンカカ国へのやっかみと警戒心からだ。
戦争を仕掛けづらくなったと悩んだ国王はフィラトを奸計で陥れることにした。
フィラトから月に一度ノンカカの城にモリア石を行商にくる者がいる。その行商を城で殺害したのだ。
それだけではない。国王は、突然の国王の所業に驚く自分の側近をも容赦なく殺した。側近を殺したのは口封じの為だけではない。始めから側近も殺すつもりだった。
フィラト国の行商はノンカカ国王を暗殺しようとしたがとっさに止めに入った側近と相打ちになったという設定。自分の側近を殺害した理由は側近の敵討ちをするという名目を手に入れる為。行商は国王を暗殺しようとしたふとどき者という免罪を被せられ、側近はフィラトに戦争を仕掛ける口実を作るために殺された。
ノンカカ国王は怒りを露わにしてフィラトに抗議した。もちろん芝居だが。
フィラト側としては一体なんのことかさっぱり分からずノンカカ国に必死で反論したがノンカカ国はあっという間にフィラト国に攻め込み鉱山を手に入れた。それほどノンカカ国の戦力は圧倒的に強かったのだ。
だがここからノンカカ国を取り囲む状況はさらに悪化することになる。
世界はノンカカ国がフィラト国の鉱山を奪い取る為に戦争を仕掛けたと薄々勘付いていた。だが確固たる証拠がないから世界はノンカカ国を責められずにいた。
しかしそんな中でもフィラト国は領土を返せ!鉱山を返せ!と懸命に訴えた。その熱意が各国に伝わっていく。
世界の情勢が変わりつつある中、ノンカカ国王にとって致命的なことが起こる。側近の一人が国王の陰謀を世界に公表したのだ。
その側近は、フィラト国から送られた密偵からノンカカ国王の悪行の公表を持ち掛けられその案に乗った。公表の見返りは一生遊んでいけるほどの大金。公表した側近は安全な他国へ亡命し、手に入れた大金で裕福に暮らしたという。
富も鉱山も奪われたフィラト国にそれほどの大金が残っていたとは驚きだがノンカカ国の陰謀を暴くために必死でかき集めたとのことだ。

こうしてノンカカ国王の陰謀が日の元にさらされ世界から猛反発を受けることになった。
だがノンカカ国王は納得出来ない。このような陰謀を企て他国に戦争を仕掛けるのは世界では日常茶飯事なのになぜ自分だけが責められるのだろうか理不尽だと苛立った。そこでノンカカ国王は自分のことを非難する国の国王や権力者に大金を送ることにした。いわゆる賄賂だ。
賄賂を受け取った側は次々と口を噤んでいく。これに味をしめた国王は各国へ次から次へと賄賂を贈った。世界は黙って行くがそれと同時に賄賂は自国の財政を圧迫した。他国に攻め入る戦争資金も底をついてしまう。
それに世界各国の権力者の口を黙らせても庶民たちの口は塞げない。ノンカカ国の風当たりはますます強くなる。国王は責められる悔しさに耐えながら他国に攻め入ることをやめた。形上の戦争放棄だ。放棄したのが今から3年前のこと。それからノンカカ国は戦争をしていない。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 3265