シュンケたちはハラレニを目指して進み続けている。しかしルナが握りしめている月鏡の反応はないままどんどん時間だけが過ぎていき気づけばもうすぐ地平線に日が沈むところだ。 「今夜はこの町に泊ることにするか。」 シュンケがおもむろに提案した。 「そうですね。私もそれがいいと思います。」 ルナはライトルに合図を送った。ライトルはそれを確認しシュンケたちと合流した。 「今夜はこの町に泊ろう。ここはハラレニの国境から20kmくらいの場所だ。明日の朝にここを発てば午前中にはハラレニに着くだろう。」 「はい、そうしましょう。僕もさすがに馬に乗りっぱなしは疲れました。」 シュンケたちは早速宿を探す。宿はすぐに見つかった。 宿の女将はシュンケの顔を見るなり喜色満面だ。 「おや、シュンケじゃないか、この町に泊るなんて珍しいね。いつもならここにはカスタードプティングを買いに立ち寄るぐらいだろう?シュンケはこの町名物のプティングが大好物だからねぇ、いすれにせよ大歓迎だよ。で、そちらのお二人方はシュンケの知り合いかい?」 女将はおしゃべりが好きらしくシュンケに返事をする隙も与えない。 ルナはシュンケがこの町のカスタードプティングが好きでそれを買いにわざわざここに立ち寄ると聞いて、筋肉隆々の逞しい外見に似つかわしくないシュンケの好みがとてもかわいらしく思えて思わず微笑んだ。いわゆるギャップ萌えというやつだ。 シュンケはというと心なしか耳が赤い。好みを暴露されて恥ずかしがるシュンケを見たライトルは思わずぷっと噴き出した。 シュンケはゴホンと一つ咳払いをし 「急ですまないが空き部屋二つないだろうか?今晩だけでよいのだが。」 「空き部屋二つね、あるよ。ちょっと待ってて部屋に案内するよ。夕食はどうする?うちで用意も出来るし、外で食事するのでもいいよ。あっ、シュンケには大好物のプティングを買ってきてあげるよ。」 「あ・・・ありがとう・・・。」 シュンケはまたしても耳を赤くしながら礼を言った。女将にやりこめられて困惑している様子。ライトルとルナはシュンケの意外な一面を見てとても愉快な気持ちになった。 「僕たちは今日はとても疲れているのでここで夕食を取りたいです。あ、シュンケには大好物のプティングをたくさんお願いします。」 「あいよ。」 ライトルが茶目っ気たっぷりに言うと女将は元気よく答えた。シュンケは何か言いたそうにライトルを見ている。
部屋に案内された三人はとりあえず一息ついた。シュンケとライトルが同じ部屋に泊り、ルナは一人で泊る。 ルナは部屋に入るとベッドに倒れこんだ。そして大きくため息をついた。 今日は朝からいろんなことがあり過ぎた。これほどまでにたくさんの出来事が一日で起こるなんて信じられない。月鏡を盗まれ、空族と出会い、シュンケと共に空を飛ぶ。実にイベントが盛りだくさんだ。 「はぁ・・・。」 もう一度大きなため息をついた。一日中緊張のしっぱなし。大きな疲労感が襲ってくる。体中がまだ熱い。心臓もまだドキドキしている。シュンケとずっといたせいだ。しかもお姫様だっこで時を過ごした。 ルナはこの気持ちの正体がなんなのかは自分自身とうに分かっていた。 シュンケに恋をしている。初めて会った時からずっと・・・。切なくて泣きなくなる。このままずっとシュンケと一緒にいられたらどんなにいいだろう。 いっそずっと月鏡が見つからなければ一緒にいられるかな・・・。 そんな不埒な考えが思い浮かんできてしまった。ルナはその馬鹿げた考えを打ち消そうと必死で頭を横に振った。 「駄目よ駄目!!月鏡が見つからなければいいなんて月族として失格だわ!!皆に合わせる顔がない・・・!」 枕に顔を埋めて必死でもがいた。例え月鏡がなかなか見つからなかったとしてもシュンケを長いこと捜索に付き合わせることは出来ない。シュンケは空族の頭領なのだから空族の元に帰らなければならないのだ。 ルナはすぐにやってくるだろうシュンケとの別れを思うと胸が苦しくて切なくて張り裂けそうになった。だがどうすることも出来ない。溢れてくる涙を必死で拭うことしか出来ない。 「今は月鏡を探し出すことが月族としてやるべきことだわ。私個人の思いなど取るに足りないこと!」 ルナは懸命に自分にそう言い聞かせながら月鏡探しに集中しようとした。でも合間合間に思い浮かんでくるシュンケの顔。 「シュンケには恋人がいるのかな・・・。奥さんいるのかな・・・。いたらやだなぁ・・・。」 そんなことを知らず知らずの内に呟いていた。
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