※ ※ ※ ※ ※ ※ ライトルとルナがハラレニ国へ向かう準備に入る一時間前、レンドたちも大きく動き始めていた。 レンドは巧みな手綱さばきで愛馬を駆り、月族の村へと急いでいた。愛馬のことを考えトラレやエコークが遭難した険しい山道は通らず、予定通りの通常の道を走っている。 同じ頃、偶然にもシュンケがサンライズ国の上空を飛んでいた。ハラレニ国王の元へ向かう為だ。ハラレニ国へ行く時はいつもこのサンライズ国の上空を通過している。 風と共に悠々と豪快に空を行くシュンケであったが何気なくふと下を見た。緑色を溢れんばかりに蓄えている田園風景に網の目状に刻まれたあぜ道を突風のように疾走していく者の姿が目に入った。 「あれは・・・・。」 馬はかなりの速さなのに華麗に通行人を避けていく巧みな手綱さばき、ハラレニ兵士の格好からしてよく知っているレンドのように思えたからだ。シュンケは高度を下げ、その者にどんどん近寄っていく。 レンドは何者かが自分に近づいてくるのを敏感に感じ取り、その気配がする方向を見た。 「シュンケ!?」 レンドは驚いて馬を止めた。シュンケはやはりレンドだと確信し地上に舞い降りた。そしてにこやかにレンドに近づく。愛馬はシュンケを見ると嬉しそうにヒヒンーンといなないた。シュンケも嬉しそうに馬の首筋を優しくポンポンと叩く。 「レンドどうしてここにいるんだ?だいぶ急いでいるようだが。」 「シュンケこそ、こんな所で会うなんて奇遇だな。もしかしてハラレニへ行く途中か?」 「あぁそうだ。ハラレニ国王に会いに行くのだ。先日、国王からおばば様の101歳の誕生日祝いを頂いたからな。そのお返しにとおばば様から返礼の品を預かってきたのだ。」 シュンケの腰元にポーチがあってそこに入っているらしい。 「そうだったのか。国王もさぞかし喜ぶだろう。」 「レンドはどこへ行くつもりだ?もし我々の村へ行くつもりなら私が伝言を預かるが。」 「いや、今回は空族ではなく月族に用があるんだ。」 「月族?」 「シュンケは月族のことは知らないか。月族とは特別な民族だ。生涯、神へ祈りを捧げる民族。世界平和と人類の穏やかな暮らしを毎日祈り続けている。大規模な自然災害が起こらぬようにとな。だがそれでも災害は起こる時は起きる。その時に月族を頼るのだ。我々人間は干ばつの被害が出たら雨が降るようにと雨乞いの儀式を月族に依頼し、大雨が降り続き洪水が発生したらそれがおさまるように神事を頼む。月族たちは災害があった土地へ出向き神事を行うのだ。儀式の効力はあるようで干ばつや洪水が納まるから不思議なものだ。目に見えないものにこそ真実があるような気がしてならない。」 「そうか・・・。月族とやらはすごいな。何より人類の為に生涯祈り続けるなんてなかなか出来ることでないな。多くの人間は皆自分のことで手一杯だというのに。我々空族もそうだ、自分たちが生きることで精一杯だ。」 「それを言うなら私もそうだ。ほとんどの人間は自分の人生を生きることに精一杯だからな。月族のようには生きられない。」 「それでなぜ月族に用があるのだ?」 「実はハラレニの雨季入りが遅れているんだ。本来ならひと月半前に雨季入りして穀物たちを育んでいるはずなのだが、この暑さと日照り続きで穀物たちがだいぶ弱っている。」 「!!それは大変ではないか!」 シュンケはこの時初めてハラレニの窮地を知った。 「あぁ、それで国王が雨乞いの儀式を依頼する為に5日前にトラレとエコークを月族の村へ遣いに出したのだが5日経っても月族は来ないし、トラレとエコークがどこで何をしているのか行方知れず。そもそも二人が月族の元へ向かったのかも分からないんだ。あの二人に限って国王の命令に背くことはないと信じているが・・・。」 「トラレとエコークが・・・。」 シュンケは驚きを隠せない。 「シュンケはここに来る途中に二人を見かけなかったか?」 「いや、残念ながら見かけなかった。もっともずっと下を見て飛んでいるわけではないから気づかずに素通りしてしまったのかもしれん。」 「いいやいいんだ。トラレたちは鍛えられた兵士だ。めったなことはないと思う。それに二人のことはジャノとスラヌが探しているから大丈夫だと思う。」 「ジャノとスラヌなら任せられるだろう。それでレンドが改めて月族の所へ行くようにと国王に命じられたわけか。」 「そういうことだ。すまないが先を急いでいる。ここで失礼するよ。」 レンドは一言断ると馬に飛び乗ろうとした。 「待ってくれ。私も月族の村へ連れて行ってくれ。」 「え?」 シュンケの思いがけない申し出にレンドの手が止まった。 「私もその月族とやらに会ってみたいのだ。先を急いでいるなら私も急ごう。」 レンドは考えた。月族に会いに行くのにシュンケは決して邪魔にはならない。なにせシュンケには自分より早く移動出来る翼がある。馬や人間は橋がないと目の前に横たわる大きな河を渡れないがシュンケはそんなの構わずにひとっ飛びで向こう岸に渡れる。シュンケがいた方が何かと効率は良さそうに思える。何よりシュンケの好奇心に力を貸してやりたい気持ちになった。 「他の種族と交流することも良いことだな。月族の村はここから一時間ぐらいのところにある。ついてきてくれ。」 レンドの快い返事にシュンケは喜んだ。 「ありがたい。頼んだぞ。」 「全力で走る。いいな?」 「もちろんだ、遠慮など無用。」 シュンケが挑発的に言うとレンドは笑った。そして馬に飛び乗った。 「行くぞ。」 「あぁ。」 こうしてレンドとシュンケは月族の村へ向かった。
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