床には数枚の羽と血が落ちている。スラヌは氷のような冷たい目で拳銃を握り立ちすくんでいた。カリンの体中にとてつもない怒りと憎しみが湧き上がってきて 「よくもシュンケを・・・!!」 カリンはスラヌに突進し胸倉をつかみ激しく揺する。 「シュンケを!!」 怒っているのか泣いているのか自分でも分からないカリンをスラヌは一瞥して 「おかしいな・・・。今度は本気で殺す気でいったのに・・・。」 心ここにあらずで呟いた。 「えっ・・・。」 カリンが思わず手を止めスラヌを見つめる。 「シュンケ!!」 カリンはルシアの喜びに満ちた声で振り向いた。その時シュンケがむくりと起き上った。 「シュンケ!!」 カリンは大喜びでシュンケの元に走る。シュンケは無事だった。といっても怪我をしているらしく左腕から血を流している。 「大丈夫?」 「大丈夫だ、かすり傷だ。」 どうやらシュンケはスラヌが銃口を向けてきたことに瞬時に気づきとっさによけたようだ。 「傷はそう深くはないが手当てをしよう。」 レンドはそう言うとどこからか救急箱を取り出してきて早急に手当てを始めた。王はシュンケが無事だったことを知り心の底から安堵している。 「本当に大丈夫なの?やせ我慢しているんじゃないの?翼は?なんか翼に傷がついてるよ。」 ルシアがシュンケの翼を見ながら聞いた。 「本当にかすり傷だ。たいしたことはない。」 シュンケは周りの者を安心させようと翼を動かしてみせた。とりあえず翼の方も大丈夫みたいだ。レンドはシュンケの腕に包帯を巻いて処置している。スラヌはその様子をぼんやりと眺めていたが 「さすが空族の頭領だな。おそろしい程の反射神経だ。ハラレニの兵士はそいつに剣術を教わった方が良かったんじゃないのか。そうすれば・・・。」 何やら語りだしたスラヌをレンドたちは睨む 「そうすれば死なずに済んだものを。」 スラヌは陰惨な目をし、こともなげに冷酷なことを言ってのけた。 「!!」 国王は目を見開いてスラムを凝視し、レンドもその言葉の意味を悟った。 「お前の仕業だったのか!!」 「今頃気づいたの?」 スラヌのふてぶてしい態度はもういまさらだった。レンドは剣を抜きスラヌに突進しようと構える。 「おおっと。それ以上近づくとフランがどうなっても知らないよ。」 今度は脅迫を始めた。 「やはり貴様が!!」 「フランは預かっている。俺が帰らなかったらフランは死ぬよ?」 「ぐっ・・・。」 レンドは動きを封じられ突進したいのを必死でこらえた。 「今夜はここまでにしておこう。お楽しみはこれからだから。あっ、言っておくけどどんなに匂いを隠しても兵士の匂いは分かるから。例え鎧を脱ごうが何にしようがね。空族の匂いも、もちろんさ。それは国王が誰よりも知っているよね。だから小細工しても無駄だから。後をつけようなんて馬鹿な真似はしない方がいいよ。」 スラヌは厭らしい笑みを浮かべて忠告した。 「スラヌ・・・。お前の目的はなんなのだ。なぜ兵士を殺す。」 国王がやっとの思いで問いかけた。 「・・・・。」 だがスラヌは答えない。心なしか戸惑っているようだ。シュンケとレンドは違和感を覚えた。 「そうだな・・・。俺の人生をめちゃくちゃにしたハラレニ国王とその兵士への復讐。」 「それだけか?」 国王が聞いた。なぜそう聞いたのかは国王自身にも分からない。 「俺らの目的は・・・ハラレニ国の滅亡。」 スラヌは冷酷に答えた。突如、ここで宣戦布告をしたのだ。 驚愕し顔を強張らせる国王、闘志をむき出しにするレンド。 ルシアはいけすかないスラヌを睨み、カリンは得体の知れない不気味さに怯えていた。そしてシュンケは拭いきれない違和感を抱えている。 「じゃあ、また会おう。」 スラヌはフランの命を人質にして大胆不敵にその場から去って行った。
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